第320話 魔封じの腕輪

「はぁあああっ!!」

『なっ!?ば、馬鹿な……何だ、この魔力は!?』



腕輪を外した瞬間にリンダの身体から風の魔力が吹き溢れ、それを確認したブラクは戦慄した。腕輪を外した途端にリンダの魔力は何倍にも膨れ上がり、あまりの魔力の強さに緑色の光を放つ。


全身から魔光を放つリンダにブラクは動揺を隠せず、彼女を身に付けていた腕輪に目を向けた。原理は分からないが、彼女が腕輪を取り外した途端に魔力が膨れ上がった。正確には彼女の体内で抑えられていた魔力が噴き出したように感じる。



『この魔力はいったい……!?』

「……私は生まれながらに魔力量が大き過ぎるせいで自分の力を制御できませんでした。そんな私に学園長がこの腕輪を渡してくれたのです。この魔封じの腕輪は吸魔腕輪を更に改良させ、一定以上の魔力を抑える効果があります」

『ば、馬鹿な!?まさか、その腕輪は……させたのか!?』



吸魔腕輪の開発者は先代の学園長であり、実を言えば学園長が吸魔腕輪を作り出したのは魔術師を封じるための魔道具を作り出すためだった。魔法学園の生徒達に訓練や罰則と称して吸魔腕輪を取りつけていたのは魔法の力を効率的に封じるための方法を探していたからである。


結局は先代の学園長はマリアの策謀で捕まってしまい、計画は頓挫したと思われた。しかし、マリアは学園長の計画を知った上で彼が追い求めた魔法を封じる効果を持つ腕輪を完成させた。


吸魔腕輪の場合は魔力を吸収させる事で魔術師の魔力の流れを乱せさせる事で魔法を封じるが事ができるが、マオやマリアのように魔力操作の技術を極めている人間ならば奪われる魔力を引き留めて魔法を発動する事は可能だった。しかし、マリアの作り出した魔封じの腕輪の場合は一定以上の魔力を引き出す事ができないように改良されている。


リンダは腕輪を装着した状態でも魔法を発動できたのは腕輪を調整して一定量の魔力だけを引き出せるようにしたからである。しかし、腕輪を外せば当然だが抑えつけられていた魔力を全て使用して戦える。リンダはマリアと同様に生まれながらに膨大な魔力を持っており、その力を利用してブラクと向き合う。



「どうやら貴方の魔法は光に弱いようですね。ならば私がこのように魔力を全開で戦えば攻撃が通じるはずです」

『ちっ……気が狂ったのか!!それほどの魔力を放出して戦うのは自殺行為だぞ!?』

「敵に心配される謂れはありません。それにここで抵抗しなければむざむざと殺されるだけではありませんか?」

『……ガキがっ!!』



全身から風属性の魔力の特徴である緑色の魔光を放ちながらリンダはブラクに迫り、流石のブラクも焦りを抱いていた。彼は本調子ではなく、しかも強烈な魔光を纏うリンダの攻撃は今の彼は防ぎきれない。



(ここは退くしかないか……くそっ、あの女狐め!!どれだけのを育てている!?)




自分を追い詰めたマオ、ミイナ、バルト、そして目の前に現れたリンダにブラクは心の中で悪態を吐く事しかできなかった。魔法学園の生徒など自分の脅威になどならないと思っていたがブラクだったが、実際には信じられない力を持つ子供達がいる事を知った。


彼を追い詰めた子供達はこのまま放置すれば必ずやマリアと同じように強大な魔術師や魔拳士へと成長する。そう考えた彼は今のうちに子供達を始末しなければ盗賊ギルドが滅ぼされるかもしれないと考えた。



(ここは退いて他の七影の力を借りなければ……くそっ!!まさか奴等の力を頼らなければならない日が来るとは……)



ブラクは他の七影の事を敵視しているが、魔法学園の生徒の脅威を知ったブラクは何としても他の幹部に知らせる必要があった。警戒するべきだったのはマリアだけではなく、彼女が育て上げた生徒達も始末しなければいずれ盗賊ギルドを脅かす存在へと成長する。


前にナイが七影の一人のシチを倒した時に早々に始末しておくべきだとリクは進言していた事を思い出す。リクはナイが殺したシチとは親しい間柄だったのでナイを放っておけなかったのだろうが、他の幹部にとっては子供に敗れるような七影など不要だと考えて敢えて彼の提案には乗らなかった。だが、今ならばブラクも理解できた。もっと早く魔法学園の生徒達の脅威を知っていればどんな手を使っても早々に始末するべきだったと――



(――反省は後だ!!何としてもここは逃げなければ!!)



余計な事を考える自分自身を叱咤し、ブラクはこの場を切り抜ける方法を考える。彼自身もここまでの戦闘で余計に魔力を消費しており、これ以上の戦闘は続行できない。彼は急いでこの場を離れるために影魔法を利用して姿形を変化させる。



『ぐおおおおっ!!』

「これは……!?」



漆黒の巨人は形を崩すと今度は狼のような姿に変身し、それを見たリンダは驚く。ブラクは自分の覆う影を変形させる事で本物の狼のように変身するが、これはリンダと戦うために形を変えたわけではなく、全力で逃げるための変身だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る