第319話 漆黒の巨人

「衝風!!」

「うおっ!?」



廊下の床に掌を押し付けたリンダは風圧を放ち、地震の如く振動を与える。その結果、態勢を崩したブラクは膝を突き、その隙を逃さずにリンダは接近して膝蹴りを喰らわせようとした。



「せいっ!!」

「ちっ……ガキが!!図に乗るなよ!!」



しかし、彼女の繰り出した膝蹴りに対してブラクはいらだった様子で左手に影の触手を纏わせ、正面から受け止めた。影魔法はあらゆる物理攻撃を無効化するため、如何に重い一撃だろうと通じない。


リンダの膝蹴りを片手で防いだブラクは笑みを浮かべ、そのまま彼女の足を掴んで壁に叩きつけようとした。無論、ブラクの腕力では本来ならばそのような芸当はできないが、影魔法を応用すれば彼は巨人族のように力を発揮できる。



「くたばれ!!」

「甘いっ!!」



ブラクがリンダを壁に叩きつけようとした瞬間、彼女は後ろに手を回して掌から風圧を発生させた。その結果、風圧によって彼女は壁に叩きつけられる際に勢いが弱まり、逆に掴まれた方の反対の足でブラクに蹴りを入れた。



「せいりゃあっ!!」

「があっ!?」



予想外の反撃を受けたブラクは防御が間に合わずに攻撃を受けてしまう。衝撃を受けたブラクは手を離すと、リンダは空中で一回転して床に着地する。獣人族並の身軽さの彼女を見てブラクは鼻血を流しながらも悪態を吐く。



「く、くそっ……ガキが!!よくも俺の顔を!!」

「随分と焦っていますね……魔力が乱れていますよ」

「ちぃっ……!!」



ブラクはリンダの指摘を受けて苛立ちながらも彼女の言う通りに自分が焦っている事は理解していた。今現在のブラクは拷問のような尋問を受け続けて疲弊しており、本来の力を発揮できない。


今現在も影魔法の能力を限界まで引き出せるはずの夜の時間帯にも関わらず、肝心のブラク自身の魔力が完全に戻っていない。マリアに取り付けられた首輪のせいで魔力を常に奪われ続けたせいで彼は本来の力を発揮できなかった。



(七影の俺がこんなガキに……!!)



いくら魔法学園の生徒の中の代表を務めると言ってもリンダは学生こどもであり、経験も実力も自分よりも劣るはずのリンダに一方的に攻め寄せられている事にブラクは我慢がならない。



(七影を舐めるなよ!!)



七影の一角としてブラクは二度も学生こどもに負けるわけにはいかず、彼は後先考えずに全力で戦う事を決めた。彼は禁じ手を用い、リンダに止めを刺す事を決めた。



「リンダと言ったな……この俺に傷をつけた事は褒めてやる。だが、もう遊びは飽きた」

「遊び?では今までのは本気ではなかったと?」

「この姿を見てまだ調子に乗れるか?黒悪魔シャドウデーモン!!」



ブラクは奥の手を発動させ、彼は全身から影の触手を巻き付かせる。やがて無数の触手が彼の身体を覆い込むと、全身に影を纏ったブラクの外見が変化した。


リンダの目の前に現れたのは漆黒の巨人と化したブラクであり、その姿はガーゴイルと酷似していた。影で自分を覆い込む事で更に巨大化し、漆黒の巨人と化したブラクにリンダは唖然とする。



『ははははっ!!流石に驚いたようだな!!』

「こ、これは……!?」

『この俺をこの姿にまで変身させた事は褒めてやる。だが、こうなった以上はもうお前の風如き通じんぞ!!』



風属性の魔法ではブラクの影魔法を打ち破る事はできず、強烈な光を放つ聖属性や火属性やあるいは雷属性の魔法でなければ影魔法には通じない。魔光を放てば多少の効果はあるが、影の巨人と化したブラクは魔光程度では止める事はできない。



『死ねっ!!』

「くっ!?」



影の巨人が動き出すとリンダは身構えるが、彼女は忘れていた。影の巨人の正体はあくまでおも影であり、変幻自在に形を変えられる。影の巨人の中にいるブラクが腕を伸ばすだけで腕が伸びてリンダを殴りつける。



「うぐぅっ!?」

『ははははっ!!』



腕が伸びた巨人の攻撃でリンダは吹き飛び、廊下に何度も横転した。それを見たブラクは気分が良さそうにリンダの元に迫るが、この時に窓から差す満月の光を浴びて動きが鈍る。



『ちぃっ……!?』

「っ……!?」



窓から摩光を浴びた途端に巨人の動きが鈍くなったのを確認したリンダは目を開き、彼女は敵の弱点が光である事に気付く。その弱点を知った彼女は自分の装着している腕輪に視線を向けた。


この腕輪は吸魔腕輪と似てはいるが効果は異なり、生徒会長になった時にマリアから贈与された代物である。魔法学園の生徒会長は月の徽章を持つ生徒と同様にマリアの指導を受けられる立場であり、生徒会長になったリンダは学園の代表として恥じぬように務める事を誓い、そんな彼女のためにマリアはこの腕輪を与えてくれた。



(学園長、申し訳ございません……この封印を解かせてもらいます!!)



学園長から託された腕輪は彼女の真の力を封じ込める腕輪であり、その名前は「魔封じの腕輪」と呼ばれる。吸魔腕輪が魔力を吸い上げる魔道具だが、こちらの魔封じの腕輪は名前の通りに魔力を抑制する腕輪だった。

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