第312話 剛魔拳のコウガ

「どうした?その程度か?」

「キィイッ……!?」

「そ、そんな馬鹿な……嘘だ、あり得ない!!何をしている、早く始末しろ!!」



ガーゴイルは攻撃を跳ね返されるとコウガに対して怯えた表情を浮かべるが、クロブは慌てて命令を与える。ガーゴイルの額に再び紋様が浮き上がり、主人の命令に逆らえないガーゴイルは再びコウガに仕掛けた。



「キィイッ!!」

「遅いっ!!」



またもや正面からの接近を試みるガーゴイルに対してコウガは自ら踏み込み、今度は相手よりも先にガーゴイルの胴体に左拳を放つ。魔法金属のミスリルにも匹敵する硬度を誇るガーゴイルだが、コウガの攻撃を受けた瞬間に苦悶の表情を浮かべる。



「ギィアッ!?」

「そ、そんな馬鹿な!?」

「ふんっ……もろいな」



ただの一撃でガーゴイルは腹部に亀裂が走り、それを見たクロブは信じられない表情を浮かべた。一方でコウガの方は冷めた目つきでガーゴイルを見下ろし、今度は顔面を殴りつけた。



「雑魚がっ!!」

「ギャウッ!?」

「う、嘘だ!!ガーゴイルが……獣人如きにやられるなんて!?こんなの有り得ない!!」



一方的にガーゴイルが痛めつけられる光景を見てクロブは頭を抑え、その様子を見ていたネカもコウガの強さは信じられなかった。ガーゴイルを相手にコウガは傷一つ負わずに圧倒し、その強さは明らかに異常だった。


獣人族であるコウガは人間を上回る身体能力を誇り、しかも獅子型の獣人族は腕力に特化している事はネカも聞いた事がある。だが、それにしてもコウガの腕力は異常であり、ガーゴイルを殴り倒せる格闘家など王都の冒険者の中にも存在しない。


恐らくはコウガの力の秘密は彼が装着している「剛魔拳」が関わっており、あの闘拳を装着する事でコウガは腕力を強化している可能性が高い。しかし、それはあくまでも推測にしか過ぎず、実際にコウガの装着している闘拳の能力が本当に腕力を強化するための魔道具なのかは分からない。



(あの武器はいったい……いや、それよりも止めなければ!!)



コウガの実力を目の当たりにしたネカは彼を止めようとした。ガーゴイルはネカが苦労して用意した貴重な戦力であり、ここで壊すのは惜しい。すぐにネカはクロブに命令してガーゴイルを大人しくさせるように告げた。



「クロブ!!もう十分だ、ガーゴイルを檻に戻せ!!」

「ぶひっ!?」

「何だ、もう終わりか?」

「そうだ。お前の実力はよく分かった……要求を呑もう」

「ふんっ……最初かそうしておけばよかったんだ」



これ以上に戦う必要はない事を告げると意外にもコウガはあっさりと両腕を下ろし、ネカは彼の要求通りに獣牙団のために彼等が求める物をを調達する事にした。


計画前にあまり目立つ行動は避けたかったが、女を用意しなければ獣牙団が何を仕出かすか分からず、仕方なくネカは自分が支援する娼館から娼婦を用意させるように部下に命令を伝えようとした。



「おい、今すぐに娼館に連絡を……」

「キィイイイッ!!」

「ま、まずい!!止めろ、止めるんだ!!」



だが、ネカが命令する前にガーゴイルの鳴き声が響く。驚いたネカは振り返ると、そこには暴れ狂うガーゴイルに必死に声をかけるクロブの姿があった。



「どうした!?何をしている、早く大人しくさせろ!!」

「そ、それが……どうやらさっきの戦闘でガーゴイルの体内の核に影響を与えた様で、言う事を聞かない!!」

「何だと!?」

「ギィエエエエエッ!!」



ガーゴイルはゴーレムと同様に体内に核が存在し、その核を刺激されるとガーゴイルは想像を絶する苦痛を味わい、契約者であるクロブの言う事も聞かない。


先の戦闘でコウガがガーゴイルに損傷を与えた事が原因でガーゴイルの体内の核が刺激され、もう誰も言う事を聞かない。ガーゴイルは目を見開きながら無茶苦茶に暴れまわり、背中に生えている翼を振り払う。



「ギィアアアッ!!」

「や、やばい!!早く逃げ……ぎゃああっ!?」

「クロブ!?」

「ちっ……」



ガーゴイルを落ち着かせようとしていたクロブは一番近くに立っていたため、真っ先に暴れ狂うガーゴイルの餌食になった。ガーゴイルの繰り出した翼はまるで鋭利な刃物のようにクロブの肉体を切り裂き、上半身と下半身に分かれたクロブは地面に倒れ込む。


クロブが死んだのを見てネカは焦るが、コウガは動じずにガーゴイルの元へ向かう。何をするつもりかと他の人間は彼の様子を伺うと、コウガは次の瞬間に信じられない行動を起こす。



「くたばれ」

「ギィアッ――!?」



次の瞬間、強烈な衝撃がガーゴイルの身体に広がり、轟音と共にガーゴイルの肉体が地面に崩れ落ちた――

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