第313話 決戦の時は近い

――時間帯は夕方を迎えると、冒険者ギルドの元にある人物が訪れていた。その人物はギルドマスターのランファの元に訪れて信じがたい報告を行う。



「まさか……それは本当か?」

「ああ、間違いねえ……奴の顔を俺が見間違えるはずがない」



ランファの元に訪れたのは鍛冶師であるドルトンであり、この二人は昔から付き合いがあった。バルルと同じく、ランファがまだ冒険者だった頃に武器の手入れをしていたのはドルトンだった。


お互いに仕事が忙しくて最近は顔を合わせていなかったが、ランファの元にドルトンが訪れるとすぐに彼女は通してくれた。ドルトンが冒険者ギルドに直接尋ねに来た理由、それは彼が街中で見かけた人物が関わっている。



「ドルトン、本当にこの男を見かけたのか?」

「ああ、間違いない。この顔とそっくりな奴を娼館で見かけた……最初はピンとこなかったが、後になって気付いたんだ」

「……どうして娼館に?」

「ば、馬鹿!!変な勘違いするな、娼館の連中から家具の修理を頼まれたから来ただけだ!!」



ドルトンは仕事で娼館に赴いた時、彼は偶然にも手配書にそっくりな男を見かけたという。鍛冶師として武器や防具の制作を行う際、客の中に犯罪者がいないかどうかを確かめるため、ドルトンは冒険者ギルドが発行している手配書を確認する癖があった。


鍛冶師として自分の作り出した武器が犯罪の道具に使われる事ほど恥に感じる事はなく、ドルトンは手配書に記されている犯罪者の顔は全員頭に叩き込んでいた。そんな彼が娼館に立ち寄った時、手配書に記されていた顔とそっくりの男を見かけたという。



「本当にこの男で間違いないのか?」

「ああ、俺も最初に見かけた時は信じられなかった。一目見ただけでやばいと感じたぜ」

「……この男が王都に?」



ランファはドルトンが持って来た手配書を見て目つきを鋭くさせ、その手配書の男は現在の冒険者ギルドが発行している手配書の中で一番の賞金額を誇る男だった。



「それでどうするんだ?そいつを捕まえるのか?」

「……仮にこの男が王都にいるとしたら、この男の配下も同行しているはず。ここは動きを見るしかあるまい」

「そんな悠長にしてて大丈夫なのか?」

「下手に手を出せば王都の住民が危険に晒される。すぐに学園長とバルルにも報告しなければ……」

「そ、そうか……」



流石のドルトンもランファも手配書の男を見て冷や汗が止まらず、偶然とはいえランファは娼館に出向いていたドルトンが手配書の男を発見した事に安堵する。



(まさかこの状況下でこの男が現れるとは……これも盗賊ギルドの仕業か?)



手配書に記されてるのは「コウガ」であり、いち早く冒険者ギルドはコウガが王都に訪れている事を知った――






――その一方で七影のリクは自分の経営する酒場の地下に訪れていた。彼はこの日のために調達した魔物の様子を伺いに訪れ、檻の中で閉じ込められた魔獣に視線を向ける。



「ふんっ……ようやく大人しくなったか」

「ッ……!!」

「おっと、まだ抵抗する気力が残っていたか」



檻の中には閉じ込められている魔物はリクが訪れた途端に立ち上がり、鼻息を鳴らしながら鉄格子を掴む。あまりの怪力に鉄格子が曲がりそうになるが、それを見たリクは鉄格子に装着されている雷属性の魔石に触れた。



「大人しくしろ!!」

「ッ……!?」



雷属性の魔石にリクが触れた途端、檻全体に電流が流れて魔物は感電した。鉄格子から手を離した魔物は檻の中に倒れ込むが、憎々し気な表情を浮かべてリクを睨みつけた。


常人ならば感電死してもおかしくはない電流を受けても魔物は怯む程度ですぐに回復し、自分を閉じ込めた人間に怒りを抱く。そんな魔物を見てリクは笑みを浮かべる。



「気に入ったぞ。お前なら奴を殺せる……いや、をな」

「ッ……!!」

「安心しろ、もう少しでお前を外に出してやる。その時はそれも外してやる」



魔物の口元には鳴き声を発せないようにミスリル製の拘束具が取り付けられ、両手と両足にもミスリル製の拘束具と鉄球が取り付けられていた。この魔物を捕縛するためにリクは自分が持っている金と手駒を使い果たし、この計画が失敗すれば彼にはもう後はない。


盗賊ギルドの未来のために今回の彼が計画した作戦は失敗が許されず、もしも失敗すれば盗賊ギルドは崩壊する。しかし、成功すれば盗賊ギルドの最大の脅威は消え去り、裏からこの国を支配する事ができる。



「あと少しだ。あと少しでお前の仇を討てるぞ……シチ」



リクはペンダントを取り出すとシチの似顔絵を確認し、彼とシチはただの同業者ではなく、男女の関係だった。愛する女性を奪った相手を決して許さず、必ずやリクは復讐を果たす事を誓う――






――もう間もなく、王都では歴史に残る最悪の大事件が起きようとしていた。

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