第311話 豚鼻の男
「何だこれは?人に化けたオークと石像か?」
「こいつは先日、この私に歯向かった男だ。今は拘束している」
「ぶひひっ……誤解ですよ、旦那。俺は旦那に手を出す様な馬鹿な真似はしませんよ」
檻の中に捕まっている男は人間ではあるようだがオークのように肥え太っており、豚ように特徴的な鼻の形をしていた。最初にコウガが見た時は本当にオークが人間のように衣服を着ているのかと勘違いしたほどである。
この男は先日にネカの商団を襲ったボアの群れを操っていた男であり、王都に戻って早々にネカはこの男を捕えた。当初は殺す予定だったが、彼の能力を考えると惜しいと思って今まで殺しもせずに保護していた。
「クロブ、お前を生かす
「ぶひっ、それは本当ですかい?なんとお優しい……」
「余計な口は利くな。聞かれた事にだけ答えろ」
「ええ、それはもう当然……こいつはもうおらの言う事しか聞きません」
豚のような笑い声を上げるクロブという男に盗賊も兵士も不気味に思い、一方でネカはクロブの言葉を聞いて彼と共に閉じ込められている石像に視線を向けた。この石像はネカが苦労して調達した魔物であり、以前に魔法学園にリクが襲撃した際にも利用されていた「ガーゴイル」という名前の魔物だった。
「計画前にお前達の実力を見せて貰おうか。今ここでお前とこのクロブが操るガーゴイルと戦ってもらう」
「ほう……」
「ぶひひひっ!!旦那、それはちょいと酷ですぜ。魔術師でもない奴にガーゴイルが負けるはずがありません!!」
コウガはガーゴイルと聞いて興味を抱いた表情を浮かべ、その一方でクロブの方はコウガの姿を見て余裕の笑みを浮かべる。魔物使いである彼はガーゴイルの事も承知しており、いくら獣人族の武芸者であろうと敵うはずがないと豪語する。
ガーゴイルの肉体は本物の石像と同等かあるいはそれ以上の硬度を誇り、強い魔法耐性を誇るので腕利きの武芸者や魔術師でも簡単に勝てる相手ではない。しかし、コウガはガーゴイルを相手にしろと言われても全く動じず、檻から出てくるように促す。
「いいだろう、相手をしてやる」
「いいのか?」
「ああ、問題ない。お前達は下がっていろ……ガーゴイル如き、俺一人で十分だ」
「へ、へい!!」
「分かりました……」
「ぶひっ!!これは威勢がいい……だが、その余裕はいつまで続くかな?」
配下を下がらせたコウガを見てクロブは鼻で笑い、彼はガーゴイルの耳元で指を鳴らす。するとガーゴイルの額に紋様が浮き上がり、豚の鼻を想像させる紋様が浮き上がったガーゴイルは鳴き声を上げる。
「キィイイイッ!!」
「さあ、行け!!」
ガーゴイルは檻を開ける前に鉄格子を掴み、力ずくで檻をへし曲げて外へ飛び出す。魔物を抑えるために設計された特別製の檻だが、ガーゴイルは恐るべき腕力で檻を破壊して抜け出す。
「ほう、大した力だな」
「クロブ!!言っておくが下手な真似をすればお前を射殺するぞ!!」
「ぶひっ、分かってますよ」
クロブは鉄格子が曲がった箇所から外に出ると、改めてガーゴイルに視線を向けた。ガーゴイルはクロブの意思に応じて動くように調教されており、契約紋を通してガーゴイルを意のままに操る事ができた。
コウガはガーゴイルに視線を向けると、彼は笑みを浮かべながら腰に装着していた「闘拳」を取り出す。両手に闘拳を装着した彼を見てネカはある事に気付く。
(あれが噂に聞く奴の武器……剛魔拳か)
獣牙団の頭であるコウガが装備する闘拳は只の武器ではなく、魔道具である事はネカも知っていた。噂によれば彼はこの武器を手にしてからありとあらゆる敵を屠って傭兵団の頭に成りあがったと聞いている。
剛魔拳と呼ばれる闘拳を装着したコウガは改めてガーゴイルと向き合い、闘拳同士を擦り合わせる。ガーゴイルはコウガを見て警戒心を抱くが、それでも主人の命令に従って襲い掛かった。
「何をしている!!さっさと殺せ!!」
「キィイイッ!!」
命令のままにガーゴイルはコウガの元へ向かい、鋭き鉤爪を振り下ろす。それに対してコウガは笑みを浮かべて正面からガーゴイルの鉤爪を払いのける。
「ふんっ!!」
「ギィアッ!?」
「ぶひっ!?」
正面から迫ったガーゴイルに対してコウガは信じられない事に腕力で払いのける。ガーゴイルの腕力は赤毛熊に匹敵するが、コウガは巨人族をも上回る怪力でガーゴイルの攻撃を弾き返した。
(有り得ん!!ガーゴイルの攻撃を跳ね返すなど……奴は化物か!?)
ガーゴイルの攻撃を正面から押し退けたコウガを見て動揺したのはクロブだけではなく、ネカや彼の配下も信じられない表情を抱く。コウガの配下でさえもガーゴイルを正面から弾き飛ばしたコウガに唖然としていた。
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