第310話 怪しい集団

――バルルが帰還してから10日後、王都に商団が訪れた。その商団は護衛としての傭兵を雇っており、城門を通過する際に警備兵が身分の確認を行う。



「よし、いいだろう……中へ通れ」

「へへっ……ありがとうございます」



警備兵が商団を通すと、御者の男は怪しげな笑みを浮かべた。そして城門を潜り抜けると商団は王都で商いを行う「ネカ」の元へ訪れた。ニカの屋敷に辿り着くと商団が運んでいた物資の中から獣牙団が姿を現わす。



「ふんっ……こうも容易く入る事ができるとはな」

「来たか……お前がコウガか」



木箱の中からコウガが現れるとそれを出迎えたのはネカと数十名の兵士だった。ネカは警戒する様にコウガを見つめると、鼻は兵士を見て鼻で笑う。



「何のつもりだ?そんなガキ共で俺をどうにかできると思ってるのか?」

「舐めるな、ここにいるのはただの兵士ではない。暗殺に特化した部隊だ」

「ほう……この臭いは毒か」

『っ……!?』



兵士達の武器を見てコウガは鼻を鳴らすと、武器に毒が塗られている事を察した。彼の言葉にネカも兵士も動揺し、確かに武器に毒を塗ってはいるが気付かれるとは思わなかった。


ネカが用意した兵士達は彼の配下の暗殺者達であり、シチが亡き後は彼等が最強の暗殺者部隊として育て上げた。仮に獣牙団がこちらの意図に従わずに行動しようものなら彼等を使って始末するつもりだったが、コウガは臆せずに告げる。



「臭いを抑えた毒を仕込んでいるようだが、俺にはそんな物は通じん」

「……噂通りの男のようだな」

「この国にも俺の噂が届いているのか?」

「ああ、有名だぞ。貴族殺しの犯罪者集団とな」

「ふんっ……」



コウガはネカの言葉を聞いても動じず、馬車の積荷に隠した部下達に出てくるように促す。馬車の中には数十名の獣牙団の傭兵が隠れており、全員が出てくると彼等はコウガと同様に余裕の表情を浮かべた。



「ふうっ、やっと窮屈な木箱から出られたぜ」

「ここが人間の都か?思っていたより随分と綺麗だな」

「へへ、まずは腹ごしらえさせてもらおうか。それと女も用意しろ、人間でも構えねえぞ!!」

「下衆共が……」



傭兵というよりは盗賊に成り下がった男達の登場にネカは睨みつけるが、そんな彼に対してコウガは言い返す。



「下衆だと?笑わせるな、お前達の方こそどれほどの罪を背負ってきた?確かに俺達は盗賊だが、それでもお前等のように国をどうこうしようとは考えた事もない。お前等に下衆呼ばわりされる謂れはないぞ」

「ふんっ……思っていたよりも口が回る男だな」



意外にも鋭い指摘をしてくるコウガに対してネカは内心では感心するが、この男達を自分の屋敷に匿っていると使用人や配下が危険に晒されるかもしれず、彼等を迎え入れる前にネカは既に人払いを行っていた。



「屋敷の中で待機していろ、中に人は居ない。食事の用意は済ませてあるから好きにしろ」

「何だと!?女はどうした!!女を寄越せ!!」

「任務が終われば願いは叶えてやる。食事と身体を休ませる場所を用意してやっただけ有難く思え」

「ふざけるな!!ぶっ殺すぞ!!」

「あまり調子に乗るなよ……お前達は我々の配下に過ぎん」



ネカの言葉にコウガの配下の一人が彼に刃を向けるが、それを見た盗賊ギルドの暗殺部隊は弓矢を構えた。一触即発の雰囲気に陥るが、それを止めたのはコウガだった。



「落ち着け」

「け、けど頭!!俺達は女が抱けると聞いてたからここへ来たのに……」

「慌てるな、女を抱くのはもうしばらく我慢しろ……おい、今日中に女を人数分用意しろ」

「断る、ここは娼館ではない」

「なら勝手に外に出て女どもを攫うだけだ。そうなればお前はどうなる?」

「何だと……」

「いいか、勘違いするなよ。俺達はお前等の僕になったわけじゃない、何でもかんでもいう事を聞くと思うな。今日中に女を用意しろ、そうしなければ俺でもこいつらは抑えきれんぞ」



コウガの言葉にネカは苛立ちを抱くが、ここで騒ぎを起こされると一番まずいのは彼だった。彼が用意した暗殺者部隊ならば獣牙団を始末できるかもしれないが、それだとリクの提案した作戦を台無しにしてしまう。


今回のリクの提案した暗殺作戦が成功すれば盗賊ギルドは最大の脅威であるマリアを取り除ける。そのために仕方なく他の七影も協力して彼の提案を受け入れた。そして計画のためには獣牙団の協力はどうしても必要不可欠だった。



「いいだろう、ならば女は用意してやる。但し、その代わりにお前達の力を見せて貰おうか」

「力だと?」

「そうだ。こちらとしても今回の計画の失敗は許されん。だからこそまずはお前達の実力を見せて貰おうか……おい、奴を呼べ!!」

「は、はいっ!!」



ネカが指示すると兵士達が荷車を運び出し、その荷車には檻が乗っていた。そして檻の中には人間と石像が捕まっていた。

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