閑話 《リオンの変化》
――兄の様に立派な魔法剣士を目指すリオンは獣人国の王都に赴いていた。彼は表向きは傭兵団と称して部下達と共に世界各地を転々と回り、この王都に訪れたのも獣人族の剣士と交流して腕を磨くためである。
獣人族の武芸者は人間よりも優れた身体能力を生かした戦法を得意としており、基本的には剣だけではなく体術を取り込んで戦う者が多い。リオンはそんな彼等の戦い方を学び、日夜訓練に励む。
「はあっ、せいっ!!」
「そうです!!その調子ですよリオン君!!大分筋が良くなりましたね!!」
王都で道場を経営する獣人族の剣士の元にリオンは通い、師範に彼は木刀を振りかざす。この一か月の間、リオンは獣人国に滞在して知り合った剣士の元で修行をしていた。
「足元が甘い!!」
「うわっ!?」
「リ、リオン様!!」
「止めろ、寄るなっ!!」
先頭の際中に足払いを受けたリオンは床に倒れ、それを見たジイが咄嗟に駆けつけようとするがリオンはそれを止める。そして彼は額の汗を拭って立ち上がると、師範と向かい合う。
「もう一度……お願いします!!」
「うむ、掛かってこい!!」
これまでのリオンならば自分の身内以外の相手には敬語を使わなかったが、この三年の間に彼も目上の人間にはちゃんと敬語を使うようになった。
子供の頃のリオンは自分は王族でいずれは国王となる立場なのでどんな相手であろうとへりくだる事は嫌っていた。しかし、年齢を重ねて彼の心境も代わり、相手の立場など関係なく、尊敬できる人物であれば素直に敬語を使うようにした。
「やああっ!!」
「くっ……そこっ!!」
「リオン様、あぶっ……!?」
勇猛果敢に攻めるリオンに対して師範は焦って再び彼に足払いを仕掛けようとしたが、それを見抜いていたリオンは事前に跳躍して相手の足払いを躱す。
「ここだっ!!」
「ぐあっ!?」
「や、やった!!」
師範の足払いを躱したリオンは見事に相手の頭部に木刀を叩き込み、初めての勝利を勝ち取った――
――その後、一か月の修行を経て遂に師範に一本取る事に成功したリオンは獣人国を去る事にした。そろそろ魔法学園も試験の時期に入るため、流石に学園に通う生徒として試験を受けなければならない。
「お世話になりました」
「いやいや、こちらの方こそ君には世話になった。君のお陰で弟子達もやる気になったよ」
「リオンさん、また来てください!!」
「おい、今度は負けないからな!!」
「いつでも来いよ!!」
リオンを見送る際には師範だけではなく、他の弟子も大勢集まっていた。一か月の間にリオンは他の弟子とも親交を深め、彼等に見送られながら道場を後にした。
「リオン様、まだ手を振っておりますぞ」
「ふっ……気の良い奴等だ」
「……変わられましたな、リオン様」
弟子達に気軽に手を振り返すリオンの姿を見てジイは感慨深い表情を浮かべ、三年前と比べて今のリオンは他の人間に対する態度が軟化した。昔は自分よりも劣る人間ならば見下していたが、今の彼は他の人間を見下す事はしなくなった。
マオとの決闘で敗北した頃から彼は変わり始め、人の上に立つ人間として相応しい人物に成長し始めていた。その事にジイは嬉しく思う一方、急にリオンが大人になったような気分を味わい、少し寂しく思う。
「さあ、行くぞ……この国にもう用はない、国へ帰るぞ」
「はっ……あ、王子!?我々の馬車はこちらですぞ!!」
「……そ、そうだったな」
しかし、方向音痴は相変わらずで自分達が乗る馬車を止めた場所の反対方向を目指す彼を慌ててジイは止めた――
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