第309話 学園長の懸念
――同時刻、
「ほら、言われた通りに採ってきたよ!!」
「お疲れ様、大変だったでしょう」
「まあ、流石にきつかったね……あたしも年かね、そろそろ冒険者の真似事は辛いね」
バルルは回収した火山の火口付近の魔石の原石をマリアに引き渡し、流石に疲れた様子でソファに座り込む。マリアはバルルを労いながらも彼女が持ってきてくれた魔石の原石の確認を行う。
マリアは片眼鏡の形をした魔道具を取り出し、手に取った魔石を調べ上げる。彼女が装着した魔道具は魔石の鑑定を行う際に利用する魔道具であり、バルルが火山から回収した魔石の原石は市販で販売されている魔石よりも魔力容量が圧倒的に大きい。
「良い仕事をしてくれたわ。どれもこれも良質な魔石ばかりね」
「途中でゴーレムと遭遇したけどね、あいつらの魔石は回収しなかったよ。下手に取り扱うと大変な事になるからね……」
「それは残念ね」
グマグ火山に生息していたゴーレムからも倒せば魔石は回収できるが、ゴーレムから採取される魔石は特殊で下手に扱うととんでもない大惨事を引き起こす。だからこそバルルは依頼通りに火山の火口付近の魔石の回収に専念した。
「先生、最近は魔石集めが趣味なのかい?なんでこんなに魔石を集めてるんだい」
「新しい魔道具を開発するために必要なのよ」
「魔道具ね……まあ、それはともかくあたしのいない間にまた揉め事が起きたって?」
バルルは自分が不在の間に学園に侵入者が現れたという話を聞き、その侵入者の正体が七影の「ブラク」だと聞いた彼女は目つきを鋭くさせる。
「七影を捕まえたという話は本当かい?」
「ええ、事実よ。今は監視を置いて監禁しているわ」
「先生……悪い事は言わないからさっさと始末した方が良いよ。七影はどれだけ厄介な奴等かは知っているだろう?」
「そういうわけにもいかないのよ」
七影の厄介さはバルルは身をもって知っており、彼女はかつて七影に殺されかけた事もある。実際に相対したバルルだからこそ七影の存在がどれほど厄介で恐ろしいのかを理解しており、早々に始末するべきだと告げるがマリアは承諾はできない。
マリアも七影がどれほど危険な存在なのかは理解しているが、七影であれば盗賊ギルドの内部情報を把握しており、それらの情報を聞き出す前に殺す事は惜しい。無論、拷問などで簡単に口を割るような人物ではない事は理解しているが、そう簡単に殺すわけにはいかない。
「ブラクの方は私が責任をもって見張っておくわ。だから貴女は気にせずに自分の仕事に専念しなさい」
「先生がそこまでいうならもう何も言わないよ。それで、次は何をすればいいんだい?」
「とりあえずは生徒達の面倒を見てあげなさい。そろそろ試験の時期だから教師らしく、生徒のために力になってあげなさい」
「ああ、そういえばもうそんな時期だったのかい。面倒だね……書類仕事より、火山で採掘している方が楽だよ」
魔法学園では間もなく試験が行われる時期だと思い出したバルルは面倒くさそうに立ち上がり、久々に教師らしくマオ達の元へ戻ろうとした。しかし、ここでバルルはある噂を耳にした事を伝える。
「そういえば先生……帰る途中、北の方で妙な噂を耳にしたよ。なんでも獣人族の盗賊が現れたとかどうとか……」
「獣人族の盗賊?」
「そいつらがどうかはまだ確証は持てないけど、数年ぐらい前に獣人国で騒ぎを起こした盗賊団の事は覚えてるかい?あたしの勘だとそいつらが何か関わりがあるんじゃないかと思うんだよ」
「……貴女の勘はよく当たったわね。少し私の方で調べておくわ」
「そうかい、なら頼んだよ」
バルルの言葉を聞いてマリアは獣人族の盗賊の事を調査する事に決め、バルルは部屋を立ち去ると残されたマリアは窓の外を眺める。
「獣人族の盗賊……まさか」
マリアは自分の机の上に立てかけた写真立てに視線を向け、そこには若い頃のマリアと幼い妹の姿が映し出されていた。妹はミイナとよく似ており、この写真に写っている妹がミイナの母親だった。
ミイナは母親は事故で死んだと思っているが、真実はもっと残酷だった。彼女の両親は事故で死んだのではなく、とある傭兵団に関わった事で死んでしまった。その事実をマリアはミイナにだけは決して知らせるつもりはない。
(……エリナ)
亡き妹の事を思い浮かべながらマリアは妹の代わりにミイナを守る事を誓う――
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