第308話 ミイナの過去

「ミイナのお父さんとお母さんはどんな人?」

「……知らない」

「えっ?」

「私、孤児院で育ったからお父さんとお母さんの顔を見た事もない」

「ええっ!?」



ミイナの言葉にマオは驚愕するが、彼女は先ほど確かに両親に学園を卒業後は両親に会いに行くと告げた。いったいどういう事なのかとマオが尋ねる前に彼女は説明する。



「お父さんとお母さんに会った事はないけど、墓の場所は知ってる。私が生まれた時に二人とも事故で亡くなったから顔は覚えてないけど」

「あ、そうだったんだ……ごめんね、変な事を聞いて」

「気にしてない」



マオは辛い事を聞いてしまったかと謝罪するが、特にミイナは気にした風もなく話を続ける。彼女は元々は獣人国の生まれで両親は赤ん坊の頃に亡くなり、それ以来に孤児院で暮らしていたらしい。


今更ながらにマオはミイナの過去を知ったのは初めてであり、どうして獣人国で暮らしていた彼女が現在のマオ達が暮らす国に移住する事になったのかを尋ねる。



「ミイナは獣人国からこっちに来たんだよね。それはどうしてなの?」

「ある日、学園長が私の所に尋ねてきた」

「学園長が?」



孤児院で暮らしていたミイナの元に学園長が訪れたと聞いてマオは驚き、二人の間柄が気になった。どうして学園長はわざわざ獣人国にまで出向き、彼女を引き取って魔法学園に入学させたのか興味を抱く。



「どうして学園長はミイナに会いに来たの?」

「……誰にも言わないと約束するなら教える。先輩にも秘密」

「え、うん……いいけど」



ミイナは周囲を見渡し、誰にも聞かれない声量でマオに話しかけた。ミイナと学園長の関係は他の人間には知られたらまずいらしく、彼女は小声で伝える。



「私と学園長は叔母と姪……つまり、私のお母さんが学園長の妹だった」

「えっ……!?」

「私が12才になる少し前に迎えに来てくれた。でも、学園長の妹が私のお母さんだと知られると色々とまずいらしいから今まで秘密にしていた」

「どうしてそんな……」



学園長とミイナが普通の教師と生徒の関係ではない事は薄々気付いていたが、親戚関係であるのならば別に隠す必要はないと思った。しかし、ミイナによれば色々と複雑な事情があるらしく、彼女は学園長との関係は明かせない。


最初の頃にミイナが授業をまともに受けないという問題を起こしても退学や留年にならずに済んだのは学園長の計らいであり、普通に考えれば生徒が真面目に授業を受けなければそれ相応の処罰を与えるはずである。二人の関係を知っている人物は限られ、学園長以外で事情を知っているのはバルルぐらいだと明かす。



「バルルは最初から私の事を教えてもらってたみたいだけど、他の人には私達の関係を知られないように注意されてる」

「どうして?」

「学園長は人望もあるけど、悪い人からは凄く恨まれてる。だから私の事が世間に知られると、大勢の悪人に私が狙われるかもしれない。だらか誰にも話したら駄目だと言われた」

「そんな……」



孤児院で暮らしていたミイナにとっては学園長は唯一の親戚だが、自分達の関係を明かせずに暮らす事に寂しく思う。学園に入学した後も周りは人間の子供ばかりで上手く馴染めず、そのせいで授業を受けずに一人で過ごす事が多くなった。マリアも彼女の事は気にかけていたが、お互いの関係を明かすわけにはいかないのであくまでも教師と生徒という立場で接しなければならずに悩んでいた。


ミイナにとっての幸運は二年生になってからマオとバルルが魔法学園に入ってきた事であり、この二人のお陰でミイナは真面目に授業を受けるようになった。マオを切っ掛けに他の生徒とも接するようになり、今では下級生にも人気がある女子生徒になった。



「学園を卒業するまでは私は学園長の姪だと話す事はできない。でも、一人前の魔拳士になって自分の身を自分で守れるようになったら正体を隠す必要はなくなる」

「ミイナは学園長の姪である事を他の人に知らせたいの?」

「知らせたいというよりも隠すのが嫌……隠し事は私は嫌い」



自分は学園長の姪である事を明かせない事にミイナは色々と思う所があるらしく、今の彼女の目標は学園を卒業して立派なに魔拳士になって学園長との関係を隠す今の状況を抜け出す事だった。その話を聞いたマオはミイナにも自分と同じく目的があって学園生活を送っている事を知り、少し嬉しく思う。


マオも魔力量が少なくても一人前の魔術師に成れる事を証明するために頑張って勉強や特訓を重ねている。他人に認められるぐらいの実力を手に入れるために二人とも頑張り、お互いの目的を必ず果たす事を約束した。



「ミイナ、一緒に頑張ろうね。ミイナは一流の魔拳士、僕は一流の魔術師になる」

「頑張る」



二人は指切りを行い、お互いの夢が叶う事を願って笑顔を浮かべた――





※壁|д゚)アイツラナンカナカイイナ←バルト先輩

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