第307話 ミイナの両親

「へくちっ」

「わっ!?びっくりした……ミイナ、風邪?」

「……多分、違う」



リクがコウガと接触した頃、マオはミイナと共に食堂に居た。少し前まではバルトも一緒に飯を食べる事が多かったが、最近の彼は黄金の鷹に入るために飯を早めに済ませて特訓に励んでいる。


来年になればバルトも六年生となり、再来年には学園を卒業する。バルトは卒業後に黄金の鷹に入って活躍するのが自分の夢だと語り、そのために今まで以上に腕を磨いくために練習に励んでいた。



「バルト先輩、最近は凄く頑張ってるね。僕達もうかうかしてられないや」

「後で様子を見に行く?」

「う〜ん、先輩の邪魔にならないかな……」

「こっそり覗けば大丈夫」



マオはミイナと向かい合う形で食事を行い、後でバルトがいるはずの屋上に向かうか悩む。最近の彼は屋上で魔法の練習を行う事が多く、最近は上級魔法の習得に励んでいる。


上級魔法は教師でも覚えている人間は少ないが、先日の一件でバルトは魔法の訓練に一層に励む。結局はブラクとの戦闘では彼は目立った活躍はできず、二人とまともに顔を合わせる事もできないくらいに落ち込んでいた。



「先輩、大丈夫かな……根詰め過ぎないといいんだけど」

「今は私達が何を言っても駄目だと思う。先輩が自分自身で納得するまでは放っておいた方がいい……と、学園長が言ってた」

「学園長が……」



ミイナは最近にマリアにバルトの事を話したら今は彼を一人にした方がいいと助言され、今は他のマオ達が力を貸すと逆効果になるかもしれず、今の時点では彼を一人にさせた方がいいらしい。



「それに先輩の事よりも私達も強くならないといけない。また、あの変な魔法を使う敵が現れないとは限らない」

「うっ……そうだね」



影魔法を扱うブラクとの戦闘でマオは自分に魔法ではどうにもならない相手もいる事を理解した。もしもミイナが助けに来てくれなければマオは今頃はブラクに殺されるか、あるいは攫われていた可能性もあった。


ブラクとの戦闘はマオ達が力を合わせた事で辛うじて勝利を掴めたが、もしもマオが一人で戦っていたら闇属性の弱点も見抜く事もできなかったかもしれない。



(あのブラクという男、盗賊ギルドの人間だったみたいだけど……どうしてあそこにいたんだろう?)



学園内に盗賊ギルドに属する人間が忍び込んでいた事は未だにマオは不思議に思い、詳しい話はマリアは聞かせてくれなかった。しかし、何となくではあるがマオは自分が盗賊ギルドから狙われる立場である事は理解しつつあった。


これまでにマオは何度も盗賊ギルドの人間と接触しており、最初に接触したのはシチと呼ばれる魔術師だった。名前は後に判明したが、マオはバルルを殺しかけた魔術師を追ってミイナの協力もあって倒す事に成功した。だが、シチはその場で自決したために結局は捕まえる事には失敗した。


その後、シチが死亡した時はマオも正体を気付かれる事なく平和に暮らしたが、先日に学園内で襲撃してきたブラクはシチを倒した犯人だと気付いた。そのブラクも現在は拘束されているのでまだ他の盗賊ギルドの人間にはマオがシチを倒した事は知られていないはずだが、盗賊ギルドは未だにシチを死に追いやった存在を探している事を知る。



(盗賊ギルド……もしも僕の事に気付いたら、また命を狙ってくる)



盗賊ギルドの存在はマオもよく知っており、この国の裏社会を支配する悪の組織だと認識していた。しかし、その盗賊ギルドが最も恐れるがマリアであり、この魔法学園に居る間は彼女の庇護下で平穏に暮らせる。



(学園に居る間は学園長や師匠が守ってくれると言ったけど、もしも学園を卒業したら……僕はどうしたらいいんだろう)



学園の卒業後に関してはマオは今の所は特に何も考えておらず、一流の魔術師になるという目標はあるが、具体的にはどんな事をすれば一流の魔術師として認められるのか分からない。


師匠であるバルルのように卒業後は冒険者になるか、あるいはバルトのように学園長が作り出した黄金の鷹に入ろうかと考える。黄金の鷹に関してはバルトからも誘いがあり、黄金の鷹に入ればバルトとも卒業後も気軽に顔を合わせられる。



「ミイナは卒業後はどうするの?やっぱり、先輩と同じく黄金の鷹に入るの?」

「……私は旅がしたい」

「旅?」



マオはミイナの卒業後の進路を尋ねると、意外な答えが返ってきた事にマオは驚き、彼女は窓の外を眺めながら告げる。



「私は一度、国に帰りたいと思う」

「国……もしかして獣人国?」

「そう、国に戻ってお母さんとお父さんに会いに行く」

「あ、そっか……なら僕も故郷に戻ろうかな」



遠く離れた場所で暮らす両親の事を思い出したマオはまずは両親と再会するべきだと考える。もう三年以上も顔を合わせておらず、手紙のやり取りは行っているがやはり両親とは直接会いたい気持ちはあった。

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