第306話 マリア暗殺計画

「あの女を始末すれば盗賊ギルドを脅かす存在は消える。奴が死ねばこの国で我々を止められる者はいなくなり、裏からこの国を支配する事もできる」

「それほどの力がお前等にあるとは思えんがな」

「忘れたのか?言っておくがお前等も既に盗賊ギルドに属しているんだ。その言葉は自分達を乏しめていると自覚しろ」

「…………」



盗賊ギルドに属しているという言葉にコウガは黙り込み、そんな彼にリクは改めて自分達の立場を理解させるために伝える。



「国から逃げ出して生き場所のないお前達を救ったのは誰だ?お前達が国の兵士に脅かされず安心して暮らしていけるのは誰のお陰だ?その事を忘れるなよ」

「……忘れてはいない」

「獣人族は種族なんだろう。なら受けた恩はしっかりと返して貰うぞ」

「……俺達は何をすればいい?」



リクの言葉にコウガは指令の内容を尋ねると、彼が話を聞いてくれる事に内心ではリクは安堵する。獣人族の間では受けた恩義は必ず返さなければならないという習わしがあり、どんなに粗暴な性格の獣人でも恩義がある相手は無下にはしない。


コウガが話を聞く事を承諾するとリクは机の上に王都の地図を取り出す。王都にはまだコウガも他の傭兵も訪れた事はなく、まずは彼等に暗殺計画の全貌を教える前に王都の説明を行う。



「これが王都の地図だ。この地図をしっかりと頭に叩き込め」

「これがこの国の王都か……獣人族の王都よりも広いのか?」

「ああ、巨人国の奴等が暮らす都市と比べれば小さいが、それでもお前等の国の王都よりは断然に広い」

「ふん……それで地図を覚えて俺達に何をさせるつもりだ」



人間の国の王都には訪れた事がないのでコウガは少し興味を抱いた様子で地図を見下ろし、この時にリクは魔法学園が存在する位置を指差す。



「今回、お前等には誘拐してもらいたい相手はここにいる」

「誘拐だと?どういう事だ、暗殺の間違いじゃないのか?」

「無駄だ、あの女は用心深い。直接に危害を加えようとすればお前でも命はない」

「……この俺が魔術師如きに後れを取ると思っているのか?」

「ひっ!?」



リクの言葉にコウガは杯を握りしめるとひびが入り、それを見た女達は怯えた声を上げる。しかし、そんな彼に対してリクは堂々と言い返す。



「ああ、後れを取るだろうな。今回の相手はただの魔術師じゃない。この大陸一の魔術師だ……お前の方こそ油断するな」

「馬鹿な……魔術師など非力な存在に俺が敗れるはずがない」



コウガからすれば魔術師など恐れるに足らず、実際に彼はこれまでに何十人もの魔術師を手にかけてきた。どんなに優れた魔法の使い手だろうとコウガは負けた事はなく、彼は魔術師の弱点を知っていた。


魔術師が持つ魔法の力は厄介である事はコウガも認めているが、大抵の魔術師の弱点は接近戦に弱い事だった。魔拳士のような存在は例外だが、杖などを武器として扱う魔術師は接近戦を不得手とする。


理由としてはどんなに強力な魔法を繰り出せる魔術師だとしても、相手との距離が詰められれば魔法を撃ち込む事ができない。距離が近すぎる相手に魔法を当てた場合、暴発して自分も巻き込まれる恐れがあるからである。それを知っているからこそリクは魔術師に後れを取る事はないと自負していた。



「俺ならばどんな魔術師だろうと殺せる。奴等が魔法を発動させる前に仕掛ければいい」

「そんな単純な相手じゃない。ともかく、マリアを始末するのはこの俺の役目だ。お前等はあくまでも援護に徹しろ」

「何だと……」

「おい、コウガ!!誰がお前等を助けたと思っている!?こうしてお前等が平和に暮らせるのは俺がお前等をここに導いたお陰だろうが!!」

「ちっ……いいだろう」



反論しようとしてきたコウガに大してリクは恩着せがましく怒鳴りつけると、そんな彼に対してコウガは舌打ちしながらも言い返すことはしない。獣人族は義理堅いというのは間違いではなく、配下が相手には傍若無人な振る舞いをするコウガもリクが相手だと不遜な態度は取れない。



「お前達の役目はこの学園にいる生徒を誘拐してもらう。但し、誘拐するのは一人でいい」

「一人だと?」

「この絵に描かれている子供を攫えば他の子供はどうでもいい。下手に攫おうとすれば動きにくくなるからな……だが、何としてもこの絵の子供は誘拐しろ。どんな手を使ってもだ」



コウガに対してリクは羊皮紙を差し出すと、それを見たコウガは訝し気な表情を浮かべた。絵に記されているのは「女子」であり、この女子が今回の暗殺対象とどのような関係を持っているのかを問う。



「誰だ、この娘は?」

「……学園長の姪だ」



絵に記されている人物は魔法学園の学園長であるマリアの姪であり、マオの先輩で獣人族の魔拳士である「ミイナ」の顔が描かれていた。

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