第305話 盗賊ギルドからの指令

「色々と大変そうだなお前等も……だが、そろそろ頭と会わせてくれ」

「あ、いやそれは辞めた方が……」

「頭は今、貴族の娘とその……」

「ちっ、今頃はお楽しみ中ですよ」



リクが頭と合わせるように頼むと三人の見張りはそれを止め、もしも頭がまだ貴族の娘をいた場合、邪魔をすれば今度こそ彼等の命はない。


しかし、リクとしてもここに長居するつもりはなく、彼は三人が案内してくれないのであれば自分から会いに向かう事を伝える。



「なら勝手に行かせてもらうぞ。こっちも仕事なんでな」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!!辞めてください、もしもあんたが頭と会ったら俺達が通した事になるじゃないですか!!」

「そんな事になれば俺達が殺されちまう!!」

「リクさん、待ってください!!俺達は死にたくねえ!!」



先ほど頭のお仕置きを受けたばかりなので三人は頭に会いに行こうとするリクを止めようとするが、そんな彼等に対してリクは右手を構えた。



「悪いな、お前達の相手をする暇はない」

「えっ……うぎゃっ!?」

「があっ!?」

「ぐふっ!?」



リクを引き留めようとした男達は頭部に衝撃を受け、脳震盪を起して倒れ込む。この際に金貨が落ちると、リクは三人を放置して高台から飛び降りる。


見張り役三人を倒したリクは頭がいると思われる建物へ向かい、この時に彼は足音も立てずに他の傭兵に見つかる事もなく砦の中を進む。盗賊ギルドの幹部を務めるだけはあってリクもそこいらの暗殺者顔負けの技能を持ち合わせていた。



(奴は……ここだな)



砦内に存在する最も大きい建物に辿り着くと、リクは見張りがいない事に気付く。普通ならば頭が暮らす建物ならば見張りがいてもおかしくないが、建物から聞こえてくる声を聞いて納得した。



(……お楽しみのようだな)



建物の中から女性の喘ぎ声を耳にしてリクは眉をしかめ、どうやら三人の見張りが言っていた言葉は嘘ではないらしく、仕方なく彼は声が聞こえる部屋に移動を行う。


声が聞こえてきたのは一階に存在する部屋であり、リクは窓に近付くと頭と思われる男の声も聞こえてきた。男はどうやら女を激しく抱いているらしく、中から女の悲鳴が響く。



「いやぁっ……もう許して」

「駄目だ。さあ、来い」

「やめてぇっ……ああっ!?」



リクは声を聞くと頭を抑え、このままではいつ終わるか分からないので仕方なく彼は窓から声をかける事にした。



「おい、聞こえるか!!俺の声を忘れたわけじゃないだろうな!!」



窓越しに声をかけると頭と女の声が聞こえなくなり、やがて窓が凄まじい勢いで開かれると大男が飛び出す。大男は半裸の状態で片手には裸の女を抱いた状態で姿を現わす。



「……お前か」

「あ、ああっ……」

「……お楽しみの所、悪かったな。だが、こっちも急用だ。中で話をさせてもらおうか」



仮にも盗賊ギルドの幹部であるリクを前にしても大男は不遜の態度を貫き、そんな彼にリクは内心苛立ちながらも建物の中に入らせるように促す――






――獣牙団の頭が暮らす建物にはこれまで攫ってきた女性が数多く集まり、全員が給仕服に着替えていた。改めてリクは頭と向かい合う形で席に座り、給仕の一人が二人に酒を注ぐ。



「ど、どうぞ……」

「「…………」」



怯えた様子で給仕が酒を注ぐとまずは二人とも杯を交わし、その後に酒を一気飲みする。リクは酒を飲みながらも周囲の給仕を確認し、率直に尋ねた。



「ここにいる女共は全員がお前の女か?」

「そうだ」

「これだけの女を独り占めとは……他の奴等がよく黙っているな」

「奴等は俺に逆らえん」



頭は多数の女を抱いて自分の物にしているのに対し、配下の男達は女に飢えていた。この事に関してはリクは注意しておく。



「あんまり奴等を我慢させると後で後悔する事になるぞ。今はお前を恐れて従っているが、もしも不満が爆発すればどうなると思う?」

「その時は皆殺しにするだけだ」

「……恐ろしい事を言うな」



仮に配下が反逆したとしても頭は全員を殺せるだけの力を自分が持っていると断言し、それは決して虚言ではない。その気になればリクの目の前にいる男は一人で他の団員を皆殺しにできる。


獣人国に居た時も国が派遣した軍隊を相手に大暴れし、傭兵団を国外まで逃れさせる事ができたのはリクの目の前に立つ「コウガ」という名前の頭のお陰だった。コウガはリクがこれまでに遭遇した獣人族の中でも最強の力を誇り、そして彼には恐るべき武器を持っていた。



「さて、世間話をしに来たつもりはない。お前達に指令だ」

「指令?いったい何をさせるつもりだ」

「この国で一番の魔術師を殺す。そのためにお前等にも協力してもらうぞ」

「ほう……噂に聞くエルフの女魔術師か」



国一番の魔術師と聞いただけでコウガは正体を見抜き、マリアの存在は他国でも有名だった。

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