第304話 獣牙団の掟
「はあ、マジでびびったぜ。おい、お前等起きろ!!」
「う、ううっ……」
「くそがっ……あの野郎、ぶっ殺してやる」
「馬鹿言うな、お前如きに勝てる相手かよ」
先ほど吹き飛ばされた二人が意識を取り戻すと、見逃された男はため息を吐きながら仕事に戻る事にした。この三人は本来は見張り役だったのだが、どうせこのような場所に訪れる人間など滅多にいない。
退屈な見張りを続けるぐらいならば捕まえている女で暇つぶしでもしようかと考えていた所、狩猟に出かけていたはずの頭が予想以上に早く戻ってきた事で三人は危うく死にかけた。これ以上に仕事をさぼれば今度こそ殺されるかもしれず、三人は砦の出入口にある高台へと戻る。
「あのガキ、俺達よりずっと下の癖に調子に乗りやがって!!こうなったら夜に他の連中を集めて不意打ちすれば……」
「馬鹿を言うんじゃねえ。仲間全員集めたってお頭に勝てるわけがねえだろ。だいたい、お頭がいないと俺達はどうするんだ?お頭が盗賊ギルドの連中に気に入られたからここに住まわせてもらってるんだろ」
「その通りだ。お前が頭に恨みを抱くのは勝手だが、俺達を巻き込むな」
「ぐっ……」
投げ飛ばされた傭兵は頭に不満を抱いて誘いをかけてくるが、他の二人は頭を恐れて恨みを抱くどころかこれ以上の揉め事を起こすのは御免だとばかりに提案を拒否した。
「たくっ……ん?ちょっと待て、誰かいるぞ」
「誰かって、誰だよ?」
「馬鹿、あそこを見てみろ!!高台に誰か登ってやがる!!」
「なにっ!?いったい誰だ!!」
見張り役を任されている三人は高台に戻ると、何者かが高台に上がっている事に気付いて焦りを抱く。見張り役以外で高台に登る事は許されず、勝手な行動をすれば頭の罰を受ける事になるのは誰もが知っているので仲間が勝手に高台に登ったというのは有り得ない。
高台に誰かがいるという事は何者かが勝手に砦の中に入り込んで上がってきた事を意味しており、大慌てて男達は武器を手にして高台の梯子を登る。
「てめえ!!誰だ!?」
「ここを何処だと思っていやがる!!」
「ぶっ殺してや……あ、あれ?」
見張り役として侵入者を見逃したとあれば三人は頭にどんな罰を受けるのか分からず、彼に気付かれる前に三人は侵入者を始末しようとした。しかし、高台に登った人物を見て彼等は呆気に取られた。
「随分と物騒な物言いだな、俺の顔を忘れたのか?」
「あ、あんたは……盗賊ギルドの!?」
「そうだ、確か名前は……」
「えっと、なんだっけ?ロ、ロクさんか?」
「……リクだ」
高台に座り込んでいた人物の正体がリクと知ると三人は警戒心を緩め、盗賊ギルドの幹部であるリクとは顔見知りだった。実を言えば盗賊ギルドが獣牙団を勧誘する際に相手をしたのはリクだった。
リクはシチの一件で他の幹部から面倒な仕事を押し付けられ、獣牙団の勧誘も彼が任された。他の七影は獣牙団を盗賊ギルドに取り込むなど不可能だと考えていたが、リクは見事にそれを成し遂げて彼等を盗賊ギルドに招き込む。
「久しぶりだなお前等……相変わらず派手にやっているようだな」
「へへへ、久しぶりじゃないですか」
「全く、驚かさないでくださいよ」
「それで今日は何の用ですか?」
侵入者がリクだと気付くと見張り役の三人は安心するが、そんな彼等に対してリクは盗賊ギルドからの指令を言い渡す前に三人に金貨を放り込む。
「受け取れ」
「こ、こいつは!?」
「この国の金貨!?」
「い、いいんですかい貰っても!?」
ひとりずつに金貨を渡すと三人は受け取った途端に表情を緩ませ、そんな彼等を見てリクはまずは頭に会う前に獣牙団の内部情報を探る。
「それで最近はどうだ?何か問題はないのか?」
「いや、まあ特には……」
「その割にはお前等、怪我をしているじゃないか。何かあったのか?」
「ああ、これは……その、頭にやられまして」
「聞いて下さいよリクさん!!実は頭の奴、俺達に理不尽な掟を与えて……」
三人は金貨を渡した途端に警戒心を失くし、ぺらぺらと最近の出来事を話す。その中でリクが興味を抱いたのは頭が捕まえた女を最初に味見するという話であり、その話を聞いただけでも収穫はあった。
(なるほど、思っていた以上に切れ者のようだな)
獣牙団を統率する頭は腕っ節だけではなく、統率力にも優れている事をリクは見抜く。頭は配下に掟を課した理由は決して自分が良い思いをしたいわけではなく、自分勝手に行動する連中を戒めるために掟を作ったのだと知る。
先代の頭の時は配下達は好き勝手に色々とやらかし、そのせいで色々と問題を起こしては面倒事に巻き込まれていた。しかし、新しい頭が掟を課すと配下達は不平不満を抱きながらも従うしかなく、その代わりに問題行動を起こす者も減った。
暴力で人を従わせるという点はあまり感心できないが、それでも新しい頭によって獣牙団は秩序を保ち、ただの犯罪者集団とは一線を画す。
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