第303話 獣牙団の頭

「くくく、残念だったな。俺達は貴族様なんて怖くねえんだよ。おい、服を脱がせろ!!」

「いやぁっ!?や、辞めてぇっ!!」

「ひひっ、年の割には可愛い悲鳴をあげるじゃねえか。興奮してきたぜ……うぐぅっ!?」



捕まえた貴族の娘を傭兵達が服を脱がそうとした瞬間、何者かが現れて服を掴んだ男の首を後ろから締め付ける。それに気づいた他の者たちは驚いた声を上げた。



「か、頭!?」

「ひいっ!?」

「あががっ……!?」

「お前等……何をしている?」



現れたのは身長が2メートル近くも存在する獅子の耳を生やした大男であり、彼が登場した瞬間に先ほどまで騒いでいた傭兵達は顔色を青くした。そのあまりの迫力に貴族の娘は声も出せず、大男の顔を見た瞬間に顔面蒼白になる。


大男は片目に大きな傷を負い、顔だけではなく身体中の至る箇所に傷を負っていた。この男は最近に頭になったばかりであるが、その腕力は先代の頭を遥かに上回る。



「聞こえなかったのか、何をしていると聞いてるんだ」

「あ、あの……その、新しい女を捕まえてきたと聞いたんでちょいと顔を見ようと思って……」

「そ、そうです!!手を出すつもりはありませんでした!!」

「か、頭……ぐるしいっ……!?」



傭兵達は大男に対して先ほどまでの態度を一変させて彼に跪き、首元を締め付けられている傭兵は苦し気な声をあげる。しかし、それを無視して大男は貴族の娘を見下ろし、冷めた様子で答えた。



「大方、俺のいない間に女を犯すつもりだったんだろう」

「い、いや!!そんな事は……ぎゃあっ!?」

「ぐへぇっ!?」

「ひいいっ!?」



言い訳を行おうとした他の傭兵に大男は首元を掴んでいた男を放り投げ、あまりの怪力に二人とも地面に倒れ込む。獅子の獣人族である大男は巨人族に匹敵する怪力を誇り、残されたもう一人の傭兵に告げた。



「そいつらが起きたらしっかりと伝えておけ。捕まえた女は俺が最初に味わう、その後は好きにしろとな」

「へ、へい!!分かりました!!」

「……来い」

「えっ……い、いやぁあああっ!?」



大男は貴族の娘の髪の毛を掴み、そのまま地面を引きずって連れ出す。貴族の娘は必死に逃げようとするが力で敵うはずがなく、そのまま大男に連れ出されていく。残された傭兵はそれを見て安堵するが、倒れた二人を見て危うく自分も同じ目に遭うところだった顔色を青くする。


新しく頭になった大男は実は貴族に痛めつけられた頭の弟であり、その腕力は兄を遥かに越えていた。獣牙団の中でも一番の腕力を誇り、更に彼は特別な武器を所有している。そのために他の傭兵は逆らう事はできず、もしも逆らおうものならばとんでもない目に遭う。



「はあっ……死ぬかと思ったぜ。あの女、生きて帰ってくるかな」



獣牙団の掟で捕まえた女は必ず最初は頭に引き渡す決まりが存在し、これを破った場合は頭から直接に処罰を受ける。今回はまだ未遂だったので痛めつける程度で済んだが、前に掟を破った者は全員の目の前で頭が始末した。


掟を破ったのは先代の頭の右腕を務めた男であり、本来であれば先代が亡くなった後に新しい頭を務めるはずだった。しかし、それを不満に思った頭の弟が決闘を申し込み、見事に弟の方が勝利して新しい頭となった。


決闘に敗れた先代の頭の右腕は表向きは新しい頭に従っていたが、ある時に自分が捕まえた女を頭に引き渡さずに犯した。その時は頭に気付かれる前に女を始末しようとしたが、仲間の一人が密告して頭に報告を行う。そしてそれを知った新しい頭は皆の前で罰を与える。



『も、もうやめふぇてくれ……ゆるぢて……』

『駄目だ』



顔面を殴られ過ぎて全ての歯が吹き飛び、顔が腫れあがっても頭は自分に逆らった男を容赦なく痛めつけた。腕や足もへし折り、さらには両手や両足の指を一本ずつ追っていく。あまりの拷問の壮絶さに仲間の傭兵達も目を背けるぐらいだった。



『次は舌を出せ』

『ひいっ!?そ、それだふぇは……あがぁあああっ!?』

『うっ……!?』

『そ、そこまでしなくても……』

『おええええっ!!』



最後に頭は男の舌を引っ張り出し、容赦なく切り落とした。そこまで見ていた傭兵達は嘔吐する人間も現れ、しかも一思いに殺さずに頭は拷問を終えた男を砦の外に放り込む。



『お前はもう仲間じゃない。ここから出て行け』

『っ……!?』



痛めつけられた男はもう動く事もままならず、放置しておいてもいずれは死ぬ。それならばいっその事ここで殺した方が救いになるかもしれないが、頭は無慈悲にも止めを刺さずに森の中に放り込む。


しばらくすると様子を見に行った仲間の一人が森の中でファングの群れと発見した。ファング達は人間の手足のような物を食しており、どうやら男は野生の魔物に殺された。


自分に歯向かう者に惨たらしい死を与えた頭に傭兵達は震え上がり、この時から傭兵達は決して頭に逆らわないように心に決めた。獣牙団の頭と部下の間柄は主従関係というよりも、暴力での服従に等しい。

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