第299話 報復対象

「これからどうするつもりだ?まさか、このまま奴を見殺しにする気か?」

「いや……すぐに殺されはしないだろう。奴等からしてもやっと捕まえた我が組織の幹部だ。拷問してでも情報を引き出そうとするだろう」

「もしもブラクが寝返ったらどうする?」

「それは有り得ん。あんな男でも我等の同胞だ……それにそんな事をすれば奴もどうなるのか分かっているだろう?」

「我等は何者であろうと報復を実行する……それは奴も理解しているはずだ」



盗賊ギルドはこれまでに自分達に害を及ぼした存在を許した事はなく、唯一の例外は魔法学園の学園長のマリアだった。彼女の力は絶大で盗賊ギルドでさえも手を出せないが、それ以外の存在は必ず抹消してきた。


もしもブラクが盗賊ギルドを売るような真似をすれば他の七影も躊躇せずに彼を殺すために行動に移す。確かにブラクの存在は惜しいが、盗賊ギルドを売るような真似をすれば他の七影も躊躇せずに彼を殺す。



「それよりも仮に奴が本当に捕まったとしたらいったい誰の仕業だ?学園長が魔法学園に離れていたのならば誰か別の人間が捕まえた事になるだろう」

「罠に嵌められたか?」

「いや……一人だけ心当たりがある」

「リク、どういう事だ?」



ここまでの話し合いで今まで黙って聞いていたリクが口を開くと、他の幹部は彼に視線を向けた。リクはかつての自分の相棒を殺し、そしてブラクを捕まえられるかもしれない存在を明かす。



「魔法学園の生徒だ。学園長から月の徽章をマオという名前の少年だ」

「っ……!?」

「マオ?聞いた事もないが……」

「誰だそれは……」

「リク、お前は何故その少年が怪しいと思っている?」



マオの名前を口にした瞬間に他の幹部は訝し気な表情を浮かべ、一方でリクはこれまでに集めたマオの情報を話す。



「俺がこの少年を調べていたのはシチが殺された後、お前達に言われてシチを殺した犯人を特定するために魔法学園に魔物を送り込んだ」

「まさか、あの時の話か?」

「貴様の勝手な行動のせいで我々はどれだけ苦労したと思っている!!あの一件のせいで魔法学園の警備が高まり、碌に情報も得られなくなったではないか!!」

「だが、その代わりに有益な情報を得られた……話を戻すぞ」



今から二年以上前にリクは魔物使いの能力を生かし、魔法学園が管理する魔物を暴れさせた。この時にリクは知性の高い魔物を送り込み、魔物の目を通して魔法学園の生徒や教員が魔物と戦う姿を目にした。


シチが殺された現場では壁や床の一部が凍り付いていた事から敵は氷の魔法を使うと思われ、氷を扱う魔術師は滅多にいない。そして彼は氷の魔法をただ一人だけ扱う生徒を発見し、彼がシチを殺した犯人だと疑う。



「俺が目を付けたマオという少年は氷の魔法の使い手だ。月の徽章を与えられるだけはあって実力は確かだ」

「馬鹿な、シチが子供に殺されたというのか!?」

「俺も半信半疑だった。だから今まではその少年を動向を監視する程度に抑えていた……だが、これで確信した。ブラクがもしも捕まったとしたら犯人はその少年だろう」

「有り得ん!!お前は何を言っている!?ただの子供にシチもブラクもやられたというのか!!」



確信を抱いた表情でリクはマオが七影の二人を倒したと断言するが、話を聞いていた他の幹部が怒鳴りつける。仮にも七影は盗賊ギルドの幹部であり、シチもブラクも子供の魔術師に敗れたなど信じられるはずがなかった。


だが、七影の中で一人だけリクの言葉を否定しきれない人間が存在した。その人間ここそが「ニノ」であり、彼は表の世界では「ネカ」と名乗る商人だった。



(まさか、あの時の少年がシチを殺したという魔術師だったのか?信じられん……しかし、リクの情報が正しければとんでもない者に目を付けた事になるな)



少し前にニノは自分の商団を救ってくれた少年の正体がマオである事を突き止めており、彼が氷の魔法を使う事も魔法学園の生徒である事も見抜いていた。そのため、リクがマオがシチを殺した可能性が高いという話を聞いて冷や汗を流す。



(もしもあの少年を我が勢力に加えていたらリクを敵に回す事になっていたか……惜しいが、諦めるしかあるまい)



マオの実力を高く買っていただけにニノは彼が盗賊ギルドに害を及ぼした存在と知って残念に思う。その一方で彼はリクに視線を向け、ある疑問を抱く。



「リク、仮にその少年がシチとブラクを倒したというのならばお前はどうするつもりだ?殺すのか?」

「いや……今はまずい、魔法学園の生徒に手を出せばあの女を完全に敵に回す」

「何を甘い事を!!既にブラクは奴に捕まった可能性があるのだぞ!!」

「こうなれば我々も動かねばならん!!どんな手を使ってもあの女を始末しなければ……」

「しかし、シチもブラクも失った以上、我等にあの女を殺す手段はないだろう」



ブラクが拘束された以上は盗賊ギルドは本格的にマリアと対立する事になり、この国で一番の魔術師を敵に回した事を意味する。マリアを倒せる可能性を持つ二人の暗殺者は既に片方は死亡し、もう片方は捕まった。しかし、リクには奥の手があった。

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