第300話 盗賊ギルドの最終兵器
「案ずるな、いくらあの女が化物だとしても所詮はただの魔術師……弱点ならばいくらでも存在する」
「何だと?何をするつもりだ?」
「これを覚えているか?」
リクが他の幹部に見えるように机の上にある物を置くと、それを見た幹部たちは驚愕の表情を浮かべた。彼が取り出したのは腕輪であり、十数年前に魔法学園で使用されていた魔道具である。
「これは……吸魔腕輪か?」
「そうだ、こいつを嵌めればどんな魔術師でも魔法を封じる事ができる」
「これはあの御方が作り出した魔道具ではないか……何故、お前がこれを持っている!?」
魔法学園の先代の学園長が作り出した吸魔腕輪は生徒達を実験にして作り出した拷問器具であり、これを装着するとどんな魔術師でも魔法を扱えない。
魔力量が少ない代わりに魔操術に優れているマオでさえも吸魔腕輪を装着した状態では魔法を使おうとしても上手くいかず、魔法を発動しようとした瞬間に腕輪は装着者の魔力を奪い取る。正に魔術師にとっては最悪の拷問器具だった。
十数年前までは生徒達の魔力を回復させる機能を強化するという名目で授業にも使われていた魔道具だが、この魔道具のせいで生徒達の肉体に大きな負荷を与え、中には死亡した人間もいる。無論、学園長は死んだ人間は事故で死亡した風に偽装し、吸魔腕輪の開発のために生徒達を利用し続けた。
結果から言えば吸魔腕輪の開発は成功したが、その後にマリアは学園長の悪事を暴いて彼を糾弾した。結局は学園長は捕まった後に自害した。そして吸魔腕輪の使用は禁じられ、現在の学園長であるマリアが管理する事になった。
現在の吸魔腕輪は魔法学園で管理されているため、一般には出回っていない。盗賊ギルドの方も吸魔腕輪は持ち合わせておらず、あくまでも吸魔腕輪の管理は先代の学園長に任せていた。しかし、その吸魔腕輪をリクが持ち出した事に全員が驚く。
「リク、貴様これを何処で手に入れた!?」
「忘れたのか?俺はあの学園に魔物を送り込んだ。その時にどさくさに紛れて、な……」
「何だと……では貴様、ずっとこれを隠し持っていたというのか!?」
「まあ、その話はどうでもいいだろう。それよりもこれを使えばあの女の魔法を封じられるという事だ」
「貴様、ぬけぬけと……」
魔術師の力を封じ込める吸魔腕輪をこれまで隠し持っていたリクに他の七影は不満を抱くが、確かに彼の言う通りに今はマリアの魔法を封じられる可能性を持つ魔道具が手に入った事は喜ばしい。
「この腕輪をあの女に装着させれば魔法は封じられる。そうなれば奴を殺す事は容易い」
「しかし、問題はどうやってこの腕輪をあの女に嵌めるかだ」
「魔法学園の生徒を人質にして呼び寄せるか?」
「簡単に言うな、魔法学園の生徒は学園の敷地内の寮で暮らしている。こんな事件が起きた後だ、学園側の警備もまたさらに強化されるだろう。そう簡単には忍び込めんぞ」
「ならばどうする?策はないのか?」
「……俺に任せろ」
リクは吸魔腕輪を拾い上げると、彼は余裕の態度でマリアを始末する方法があると断言する。
「あの女を殺すにはこいつを装着させなければならない。ならばいっその事、奴に親しい間柄の人間にこれを託し、殺させればいい」
「なっ!?」
「お前は何を言っている!?」
「そんな事ができるはずが……」
「できるさ、俺にならばな」
吸魔腕輪を握りしめたリクは笑みを浮かべ、マリアを確実に殺す方法は既に彼も思いついていた。だが、その方法を実践する前にリクはある人間を先に殺す必要があった。
「あの女の始末は俺に任せて貰おう。邪魔はするな、俺一人で片づける」
「何だと……」
「図に乗るな、そもそも貴様がシチを殺したという少年を早々に始末していれば……」
「これ以上の口論する暇はない、俺は行くぞ」
「待て!!」
他の幹部の制止の言葉を振り切ってリクは立ち去り、そんな彼の態度に残された者達は憤る。しかし、ニノだけはリクの動向が気になった。
(奴め、何をするつもりだ?)
七影の中でもリクは若手で他の幹部からの信頼は薄いが、彼の腕だけはニノは認めていた。リクはどんな仕事も必ず遂行し、彼が学園長を殺す手段を考えたというのならば嘘ではないだろう。
問題なのはリクが本当に学園長を殺せるかどうかではなく、どのような手段を用いて学園長を殺すかだった。仮にも盗賊ギルドを何度も窮地に追い詰めた学園長を殺す手段があるとすればリクの立場は一変する。
「皆の者、リクの動向には注意しておけ」
「何だと?いったいどういう事だ?」
「仮に奴が本当にあの女を殺した場合、それは奴がこの国で一番の魔術師を殺す力を手に入れたという事だ。そうなればあの女を葬った後、奴が大人しく我々に従うと思うか?その力を我々に向けないとは限らんぞ」
『…………』
ニノの言葉に他の七影は黙り込み、盗賊ギルドは決して一枚岩ではない。同じ七影だとしてもニノは油断せずにリクの動向に注意する様に告げた――
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