第298話 先代の学園長の正体

「さてと……私は忙しいからそろそろ行かせてもらうわ。そうそう、一つだけ言っておくけれど誰かが助けに来るとは期待しない方がいいわ。この部屋の場所を知っているのは私と一部の教員だけよ」

「ひひっ……俺を一人にするつもりか?」

「影魔法を使って逃げようと目論んでも無駄よ。その吸魔腕輪は先代の学園長が開発した代物……つまり、の長が開発した魔道具よ。その恐ろしさは理解しているわね?」

「……ふん、やはり奴の正体を知っていたのか」



魔法学園の先代の学園長の話題になるとブラクは眉をしかめ、一方でマリアは無表情のまま彼を見下ろす。




――先代の学園長は「アーク」という名前の人間であり、何十年も学園長を務めてきた。しかし、その正体は盗賊ギルドの七影の中でも一番の実力と権力を誇る男だった。




アークは魔法学園の生徒に拷問紛いの授業を行い、魔力量が多い生徒を優遇していた。彼は生徒達を利用して魔法を封じる魔道具の開発を行い、この過程で吸魔腕輪と呼ばれる代物が誕生した。


魔力量が多い生徒を優遇した理由は単純に彼は魔力量が多い人間ほど優れた魔術師になれるという考え方を持ち、実力はあったとしても魔力量が低い人間は容赦なく退学させた。この学園長の方針のせいでバルルも魔法学園去る事になり、彼女が去ったのを切っ掛けに当時は一教員だったマリアはアークのやり方に不満を抱く。


結局はアークはマリアによって正体を暴かれ、彼が盗賊ギルドと関りがある証拠を掴んだマリアはアークを捕縛した。捕縛後にアークは牢の中で自害し、盗賊ギルドに関わる情報を漏らす事なく死亡した。



「皮肉な物ね、あの男が作り出した魔道具に貴方が苦しめられる事になるなんて」

「ひ、ひひっ……七影になった時から、こんな風になる事は覚悟していた。だが、覚えておけ……俺を殺せば必ずお前等も無事では済まないぞ」

「どういう意味かしら?この期に及んで私が貴方達を恐れるとでも?」

「いや、恐れるさ……確かにお前の力は絶大だ。世界で一番の魔術師様に敵う存在はいない。だが、お前の大切な子供達はどうかな?」

「……何ですって?」



ブラクの言葉にマリアは目つきを鋭くさせ、生徒こどもの話題になると彼女も黙ってはいられない。そんな彼女にブラクは淡々と告げた。



「俺を捕まえたガキ、あいつがシチを殺した奴だな?」

「…………」

「その沈黙が答えだ……ひ、ひひ、ひひひっ!!気の毒だな、あのガキは……楽に死ぬ事はできないぞ。盗賊ギルドに害をなす存在なら俺達はどんな手を使っても報復するぞ!!」

「……語るに落ちるわね」



これ以上の問答は必要ないと判断したマリアは部屋から立ち去ろうとすると、ブラクは狂ったように笑い声を上げてマリアに告げた。



「断言してやる!!あのガキは必ず殺されるぞ!!ひゃははははっ!!」

「――黙りなさい」

「あがぁっ!?」



笑い声をあげていたブラクはマリアの一言で声を発せなくなり、彼の首元の吸魔腕輪が縮まっていた。アークが作り出した魔道具をマリアは更に改造を加え、言葉も口にできなくなったブラクに告げる。



生徒あの子に手を出す前に、私が盗賊ギルドを滅ぼすだけよ」



遂にマリアは盗賊ギルドを壊滅させる決意を固め、この日からマリアは本格的に盗賊ギルドと対立するために黄金の鷹を動かす――






――その一方でシチとブラクを失った盗賊ギルドの方でも動きがあった。残された七影は五人、未だにシチの後釜も見つかっていないのに続けてブラクが捕縛された事で他の七影も動揺を隠せなかった。



「あのブラクが捕まっただと?信じられん……いったい何が起きた?」

「まだ詳しい情報は分からない。だが、奴との連絡が途絶えた」

「それだけならばまだ捕まったとは限らんだろう」

「馬鹿を言え、どんな時でも奴は定期連絡を行っていた。それに学園長が魔法学園に急遽戻ってきた事を考慮すれば奴はもう戻ってはこない」

「何という事だ……くそっ!!」



シチが捕まった時以上に幹部たちは動揺し、七影の中でもブラクは重要な役割を持つ人間だった。彼はある意味ではシチ以上の暗殺者でもあり、場合によってはマリアを殺せる可能性を秘めていた。


影魔法の弱点を突かれなければブラクに敵う存在はおらず、ブラク本人も変装の達人でありとあらゆる機関に潜入し、重要な情報を持ち返る事もできた。場合によっては盗賊ギルドに害をなす存在、あるいは有益をもたらす人材を見つけて拘束し、連れて帰る力を持っていた。


どんなに強い人間だろうとブラクの影魔法には抵抗はできず、巨人族であろうと彼の影に拘束されればどうする事もできない。そういう意味では対象を殺す事しかできないシチよりも優秀な人材だと言えるかもしれない。

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