第297話 青の閃光

「近づくな!!一歩でも動いたらこいつの首をへし折るぞ!!」

「うっ!?」

「くぅっ……」

「ひ、ひひひっ……油断したな」

「うぐぅっ……!?」



首元を影の触手に締め付けられたマオを見てバルトもミイナも動けず、マオは自分の首元を締め付ける触手を掴むが力で引き剥がす事はできない。


これまでの戦闘からマオの魔法は影魔法で実体化させた影には一切通じない事が判明しており、氷刃や氷柱弾でさえも影を切り裂く事や破壊はできない。だが、ここまでの戦闘でマオはある予測を立てる。



(影を打ち消す方法……もしかしたら)



首元を締め付けられながらもマオは反撃の隙を伺い、後ろ手に隠していた三又の杖を握りしめる。一方でブラクの方は黒焦げと化した義足と義手に向けて自分の影を伸ばし、どうにか四肢を取り戻すと立ち上がろうとした。



「ちぃっ……お前等のせいで俺の大切な手足が台無しだ。また新しいのを作らないとな、だがその前に……」

「うわっ!?」

「きゃっ!?」

「ぐふっ!?」



マオを人質にして動けないバルトとミイナに対してもブラクは影の触手を伸ばし、二人の足元を拘束する。これで二人とも動けなくなり、三人を拘束したブラクは勝利を確信した。



「ひゃははははっ!!馬鹿だなお前等……仲間を犠牲にすれば生き残れたのによぉっ!?」

「て、てめえっ……」

「下衆!!」

「…………」



影の触手を利用してマオ達を拘束したブラクは勝ち誇った笑みを浮かべるが、それに対してマオは三又の杖を伸ばす。この状況下でまだ自分に杖を向けてきたマオにブラクは驚いた表情を浮かべる。



「お、お前はまだ理解していないのか!?お前の作り出す氷は俺には効かない……この馬鹿がっ!!」

「いや……馬鹿はお前だ」

「何だと!?」

「お前の影の弱点は……これだ!!」



三又の杖を握りしめた瞬間、マオは目を見開いて杖先からを放つ。魔光とは未熟な魔術師が魔力を魔法に完全に変換できない際に発生する魔力の残滓であり、それを利用してマオは青の光を放つ。


最初の頃よりも魔操術を極めた事によってマオは魔光を閃光のように放つ事ができた。そして杖先が光り輝いた瞬間、マオ達を拘束していた影の触手がを浴びた途端に消滅していく。



「ぎゃあああああっ!?」

「にゃっ!?」

「ま、眩しいっ!?」

「くっ……!!」



光の中でブラクの悲鳴が響き渡り、マオ達も青の閃光によって視界が一瞬だけ奪われた。結果から言えば閃光が消えた時にはマオ達の身体を拘束していた影の触手は消え去り、地面には身体を痙攣させて義足と義手が切り離された状態のブラクが倒れていた――






――影魔法の弱点は炎ではなく、光その物だと見抜いたマオによってブラクは倒された。魔光を浴びた際にブラクはまたもや身体を構成する影が消えた事により、胴体だけの彼は受身も取れずに地面に倒れて気絶した。


ブラクを倒したマオ達はすぐに教師を呼び出し、彼を拘束して部屋の中に閉じ込めた。ブラクが影魔法を駆使して逃げ出さないように彼には特性の吸魔腕輪を装着させ、こうして七影のブラクを拘束した。


学園長のマリアは七影を捕獲した事に驚き、ブラクの本名は「シシ」と呼ばれる男だった。シシは影魔法の使い手で元々はシチと同じく暗殺者であったが、彼女と違う点は彼は暗殺だけではなく拷問や捕縛を得意とする。


影魔法を扱いこなせば相手を拘束させ、無理やりに身体を動かす事もできる。そればかりか失った手足の代わりに義足や義手を自由自在に操作する事もできた。そもそも闇属性の魔術師自体が滅多に存在せず、七影の中で最も厄介な男だとマリアは考えていた。



「よくも私の学園を怪我し、可愛い子供達に手を出したわね」

「ひ、ひひっ……お、俺を殺すつもりか?」

「安心しなさい、まだ貴方には使い道があるから殺さないわ」



特製の吸魔腕輪を首に取り付けたブラクをマリアは見下ろし、彼女はブラクに大して生徒達には絶対に見せない冷たい表情を浮かべていた。ブラクはマリアを前にしてもいつも通りの態度を貫くが、その頬には冷や汗が伝っていた。



「それにしても生徒に化けて薬を横流しするなんて……随分と大胆な行動を取ったわね。それほど盗賊ギルドは私に潰されたいのかしら?」

「ふんっ……調子に乗るなよ、いくらお前が力を持っていようと俺達はもう恐れない」

「違うわね、貴方の本当の目的は私の動向を探るため……生徒達に薬を流したのはあくまでも囮、他の情報を探るために私の目を生徒に向けさせようとしたのでしょう?」

「…………」



ブラクはマリアの言葉に言い返せず、彼女の推察は間違ってはいなかった。ブラクの目的はあくまでも魔法学園の生徒ではなく、マリアを学園に留まらせるために彼は送り込まれた。


魔法学園の生徒の間に危険な薬が出回っていると知れば学園長としてマリアは問題を対処しなければならない。その間、盗賊ギルドはマリアが学園に滞在する間は自由に動けるはずだったが、計画はマオ達と接触したせいで失敗に終わる。

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