第292話 ゴヨクの暴走

「ボム!!」

「くっ!?」



再び火球を生み出したゴヨクはマオに目掛けて放ち、今度はマオも杖を構えて氷刃ブレイドを作り出す。チャクラムのように変化させた氷の刃を高速回転させ、迫りくる火球へと放つ。


氷刃は火球を切り裂こうとすると爆発を引き起こし、それを見たゴヨクは舌打ちする。一方でマオは冷静に三又の杖を構えながらゴヨクの魔法に対処した。



「このっ……ボム、ボム!!」

「遅い!!」



懲りずにゴヨクは魔法を次々と撃ち込むがマオは今度は氷弾を発動して火球を撃ち抜く。下級魔法のボムは火属性の魔力を球体状に圧縮させ、衝撃を受けた瞬間に爆発を引き起こす。それならばマオは最低限の魔力で造り出した攻撃を当てるだけでボムを無効化する。



「はあっ、はあっ……こ、このっ!!」

「もう諦めなよ。そろそろ限界でしょ?」



ゴヨクは胸元を抑えながらも杖を構え、彼は先ほどからの魔法の連発で明らかに体調不良を引き起こしていた。いくら薬の効果で魔力が活性化しているとはいえ、魔法を使い続ければ魔力は消耗していずれは限界を迎える。



「くそっ、馬鹿にしやがって!!まだだ、僕はまだ……!!」

「なら、これで終わりだよ」



諦めずに魔法を仕掛けようとするゴヨクに対し、彼が魔法を発動させる前にマオは狙いを定めて氷弾を放つ。今度は腕を狙わず、ゴヨクの頭部に目掛けて放つ。



「はあっ!!」

「うがぁっ!?」



頭部に氷弾が的中するとゴヨクは目を見開き、後ろ向きに倒れそうになった。威力を最小限に抑えたとはいえ、氷弾を頭に受けて無事でいられるはずがない。


勝利を確信しかけたマオは杖を下ろそうとしたが、倒れる寸前にゴヨクは白目を剥いた状態で体勢を持ち直す。先ほどの攻撃で脳震盪を引き起こしてまともな思考もできないはずだが、ゴヨクは獣のような声を上げて杖を振り回す。



「がぁあああっ!!」

「うわっ!?」



杖先から魔光を放ちながらゴヨクは雄たけびをあげ、そんな彼の様子を見てマオは動揺する。ゴヨクは理性が吹っ飛んだかのように暴れ狂い、無茶苦茶に魔法を乱発させた。



「ボム、ボム、ボム!!」

「止めろ!?そんな事をしたら……うわぁっ!?」



周囲に火球を散らすゴヨクにマオは声をかけるが理性を失った彼には届かず、屋上のあちこちで爆発が生じた。このままでは先ほど気絶した二人が危険だと判断したマオは氷板を作り出す。


氷板に乗り込んだマオは上空へと移動すると、ゴヨクは空に飛んだマオを見て狙いを切り替え、中級魔法を撃ち込む。



「フレイムアロー!!」

「くっ!?」



空に飛んだ瞬間に中級魔法を撃ち込んだゴヨクに対し、咄嗟にマオは氷板を操作して攻撃を回避した。しかし、それを見たゴヨクは鼻血を噴き出しながらも次の魔法を発動させようとした。



「ボム……げほっ!?」

「ゴヨク!?」



魔法を発動しようとした瞬間、ゴヨクは吐血してその場に膝をつく。それを見たマオは彼の肉体が限界を迎えた事を知り、これ以上に魔法を使うと彼が死ぬ事を伝えた。



「止めろ!!それ以上に魔法を使えば本当に死んじゃうぞ!?」

「う、ううっ……あぁあああっ!!」



声が届いていないのかゴヨクはわめき声を上げてマオに杖を構え、それを見たマオはもう彼が止められないと判断して自分も杖を構えた。そしてゴヨクが魔法を撃ち込んだ瞬間、マオも同時に魔法を放つ。



「フレイムアロー!!」

氷柱弾キャノン!!」



ゴヨクが熱線を想像させる魔法を放つと、マオも自分が扱える最強の魔法を繰り出す。三つの氷塊を結合させて氷柱を作り出し、更に風属性の魔力を加える事で回転させて速度を上昇させる。


熱線に向けて放たれた氷柱弾はゴヨクの元に向かい、その過程で氷は徐々に溶かされていく。それでも勢いは止まらずに最終的には掌ほどの大きさの氷塊に縮小化しながらもゴヨクの放つ魔法を正面から打ち消して彼の胸元に衝突した。



「ぐへぇっ!?」

「はあっ……今だ!!」



魔法が当たった事でゴヨクは怯むと、それを見たマオは彼が次の魔法を使う前に三又の杖を回転させ、次々と氷の輪を作り出す。それらを繋ぎ合わせる事で氷鎖チェーンを作り出し、怯んでいる隙にゴヨクを拘束した。



「よし!!」

「ああっ……!?」



身体を拘束されたゴヨクは膝を突き、その手から杖が落ちた。それを見たマオは急いで氷板を降下させると杖を拾い上げ、ゴヨクの様子を伺う。



「おい、しっかりしろ!!」

「あ、ううっ……」

「……駄目か」



ゴヨクは鼻血を涎を垂らしながら虚空を見つめ、その様子を見て彼が正気ではないと判断するとマオは他の二人の様子を伺う。どちらも気絶しているのか動かず、仕方なくマオは誰か人を呼びに行こうとした。



(しょうがないな、とりあえずは校舎に残っている先生か生徒会の人に報告に行かないと……!?)



三人を助けるためにマオは校舎に戻ろうとした瞬間、彼は直感で足元に違和感を抱いて即座に視線を向けると、そこには自分の元に近付く黒くて不気味な触手が視界に入った。

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