第291話 薬の副作用

「はあっ!!」

「ちぃっ!?」

「うわぁっ!?」

「うひぃっ!?」



氷板を盾代わりに利用してマオはゴヨクの放ったボムを受けると、氷塊と火球が衝突して爆発が生じた。マオの作り出した氷板は跡形もなく吹き飛び、一方で三人組の方は爆発に巻き込まれないように距離を取る。


ゴヨクが火属性の中級魔法を扱った事にマオは驚いたが、生憎とバルトの扱う中級魔法と比べると攻撃速度は格段に落ちる。だが、爆発の威力を考えるともしかしたら彼のスラッシュを上回るかもしれず、少なくともまともに爆発を受けていたマオは戦闘不能に陥っていた。



(危なかった……あんなのまともに受けたら死んでた)



もしも自分の反応が遅かったらと考えるとマオは冷や汗を流し、同時にゴヨクが本気で自分を殺しに来たと知って彼を睨みつける。一方でゴヨクの方は興奮した様子で杖を見つめ、を噴き出した状態で他の二人に話しかける。



「は、ははっ!!おい、見たか今の!?」

「あ、ああ……」

「すげぇっ……いつもなら三回使っても一回ぐらいしか成功しないのに」



ゴヨクが中級魔法の発動に成功した事に他の二人は驚き、普段の彼では三分の一の確率でしか中級魔法を発動できなかったらしい。しかし、現在の彼は自信に溢れた表情で杖を握りしめる。


薬を飲んだ瞬間にゴヨクは自分の魔力が溢れだすような感覚を抱き、今ならば普段は扱えない魔法も使えるような気がした。彼はボムよりも習得難易度が高い中級魔法を繰り出す。



「喰らえっ!!フレイムアロー!!」

「えっ!?おい、その魔法は……」

「やべぇっ!?おい、早く逃げろ!!マジで死ぬぞ!?」

「えっ!?」



杖を突き出したゴヨクが魔法を唱えた瞬間、それを見た他の二人は咄嗟にマオに声をかけた。マオはゴヨクの杖に視線を向けると、今度は火球ではなく、直線状に炎が発射された。



「はああっ!!」

「うわっ!?」



他の生徒が事前に注意した事でマオは咄嗟に左に避けると、彼が先ほどまで断っていた場所に炎が通過した。フレイムアローは直線状に収束した火属性の魔力を放つ技であり、それが功を奏してマオは避ける事ができた。


杖から放たれた炎は屋上を取り囲む鉄柵に的中し、魔法耐性が高い素材で構成されているはずの鉄柵の一部が黒焦げと化す。それを見たマオはもしも自分が直撃していたら間違いなく死んでいたと悟り、やはりゴヨクは自分を殺すつもりだと知って目つきを鋭くさせる。



「くっ……今の本気で殺す気だったの!?」

「へへっ、すげぇっ……これが俺の力か」

「おい、ゴヨク!?いったいどうしたんだよ!!」

「落ち着けって、おい!?聞いてるのか!?」



先ほどからゴヨクは興奮した様子で仲間達の声ですら聞こえておらず、彼はマオに狙いを定めると再び魔法を繰り出す。今度は中級魔法ではなく、下級魔法を連発して攻撃を行う。



「ボム!!ボム!!ボム!!」

「うわっ!?」

「止めろ!!マジで殺す気か!?」

「おい、逃げろ!!こいつ、マジで殺す気だぞ!?」



小さな火球を連発して攻撃を仕掛けるゴヨクにマオは慌てて動き回って火球を回避する。他の二人も見ていられずに後ろからゴヨクを止めようとするが、暴走したゴヨクは二人を引き剥がして魔法を放つ。



「邪魔をするな!!」

「うわぁっ!?」

「な、何だ!?こいつ、こんな力が……ぎゃあっ!?」



強化されたのは魔法の力だけではないのか、ゴヨクは片腕で仲間の一人を掴むと力尽くで投げ飛ばし、もう一人は投げ飛ばされた仲間に巻き込まれて床に倒れる。これで邪魔者は居なくなったゴヨクは遠慮なくマオに魔法を繰り出す。



「死ねぇっ!!」

「くっ……いい加減にしろ!!」



マオはゴヨクが魔法を発動させる前に三又の杖を取り出し、彼の腕に狙って氷弾を発射させた。ゴヨクが次の魔法を発動する前に氷弾は彼の腕にめり込み、ゴヨクは悲鳴を上げて腕を抑える。



「ぎゃあああっ!?」

「ふうっ……」



如何に強力な魔法を扱えようとゴヨクはあくまでも人間であり、氷弾の攻撃速度には対応できない。彼は右腕に氷弾を受けた事で杖を落とし、その様子を見てマオは勝利を確信しかけた。


だが、ゴヨクは腕を撃たれながらも歯を食いしばり、信じられない事に彼は腕に力を込めると彼にめり込んだはずの氷弾が床に落ちた。それを見たマオは信じられず、魔物さえも撃ち抜く威力を誇る氷弾を受けながらゴヨクの腕は出血すらしていなかった。



(そんな馬鹿なっ!?手加減はしたけど、あれを受けて何で平気なんだ!?)



ゴヨクを傷つけないようにマオは氷弾の威力を調整して撃ち込んだが、少なくとも普通の人間だったら骨が折れてもおかしくはない威力の攻撃はした。しかし、ゴヨクは弾丸に撃たれた箇所が少しだけ跡が残っただけで骨も筋肉も傷ついておらず、彼は何事もなかったかのように杖を拾い上げて攻撃を再開した。

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