第290話 男の正体
「ひひっ、馬鹿共が……手紙なんて書いたら言い訳出来ないだろうが」
先ほどマオと遭遇した男は学生寮の裏にて彼から盗み出した手紙を取り出し、その場でライターで火をつけて燃やす。手紙の処分を終えると男は学生寮の出入口を確認し、マオが出てくるのを待つ。
彼が外に出てきたのは手紙に指定された時刻の数分前であり、マオが学生寮を離れる姿を確認すると、男はその後を追う。彼の目的はマオと彼の同級生を争わせるのが目的だった。
(ひひっ……せいぜい、俺の実験の役に立ってくれよ)
男の目的は自分が作り出した薬の効果を確かめるため、下級生であるマオ達を利用するために工作を行った。マオの事を快く思わない生徒達に自分の作り出した薬を渡し、結果から言えばマオは不良生徒達と明確に対立した。
先ほどのマオ達の勝負も男は実は観察していたが、結局はマオの魔法に反撃する暇もなく不良生徒達が敗れた事は落胆した。しかし、性懲りもなく不良生徒の一人が自分の薬を使ってマオに勝負を挑もうとしていると知って彼はすぐに行動に移す。
(今回は良い実験結果が得られそうだ)
マオに気付かれないように後を追いかけ、彼が校舎に辿り着くと杖を取り出す。そして直接に屋上に向かうつもりなのか
「はあっ!!」
氷板に乗り込んだマオは浮上して屋上へ向かうと、それを確認した男は感心した表情を浮かべる。先ほどマオを間近で観察した時は、彼が他の魔術師と比べても平均以下の魔力量しか持ち合わせていない事は見抜いていた。だが、実際の所はマオは自分の少ない魔力を上手く活用して魔法を使っている。
(こいつは面白い……もっと間近で見た方がいいな)
男は周囲に人がいないのを確認すると、杖を取り出して自分の影に構えた。男は無言のまま自分の影に杖の先端を向けると、次の瞬間に彼の影が形を変えて校舎の屋上を取り囲む鉄柵に伸びる。
夕日に照らされた男の影が校舎の屋上にまで移動すると、影が黒色の触手のように変化して鉄柵に絡みつく。自分の影を実体化させ、まるでロープのように男は自分の影を利用して屋上へ向かう――
――氷板を利用してマオは直接に屋上に辿り着くと、そこには例の不良生徒三人組が待ち構えていた。彼等は屋上の扉の前に立っていたが、マオが氷板に乗って空から現れると驚愕の表情を浮かべた。
「うわっ!?な、何だ!?」
「お、お前……何処から現れたんだ!?」
「今、空を飛んでなかったか!?」
「……また君達か」
氷板から降りるとマオは自分を呼び寄せた三人組に呆れた表情を浮かべ、念のために周囲を見渡すが人質にされてそうな人物はいない事を知って安堵する。やはり先ほどの手紙はただの脅しであり、それを確かめられただけでマオは安心した。
「あの手紙、君達が書いたの?」
「へ、へへっ……手紙?何のことだか分からないな」
「そう、なら僕はこのまま帰るね」
「ま、待ちやがれ!!何を勝手に帰ろうとしてやがる!?」
この状況でも惚ける三人組に対してマオは氷板に乗り込んで帰ろうとすると、慌ててゴヨクが引き留めた。彼はマオに杖を構えると、薬瓶を取り出す。
「さっきは油断したが、今回は本気で戦ってやる!!おい、お前等もさっさと出せ!!」
「な、なあっ……本当に飲むのか?」
「止めとこうぜ……こんなの不味いって!!」
「……?」
不良生徒達が言い争っている姿を見てマオは不思議に思い、彼等が取り出した薬瓶を見て疑問を抱く。ゴヨクはこの期に及んで躊躇する二人に対して怒鳴りつけた。
「いい加減にしろ!!お前等だって強くなりたいんだろ!?覚悟を決めろ!!」
「うわっ!?」
「ゴヨク!?」
他の二人が止める暇もなくゴヨクは薬瓶の蓋を開き、一気に中身を飲み干す。それを見たマオは嫌な予感を抱き、急いでゴヨクから距離を取った。
薬瓶の中身を飲み込んだゴヨクはあまりの味のひどさに顔をしかめたが、彼はどうにか飲み切ると自分の両手を見つめる。最初の内は特に変化は起きずに彼は不安げな表情を浮かべたが、しばらくすると彼の身体に異変が起きた。
「う、うおおおおっ!!」
「うわっ!?」
「ど、どうした!?大丈夫か!?」
「何をして……」
唐突に叫び声を上げたゴヨクに二人の仲間は心配そうに声をかけるが、マオは訳が分からずに戸惑う。ゴヨクは興奮した様子で杖を握りしめると、マオに目掛けて魔法を放つ。
「ボム!!」
「うわっ!?」
「危ないっ!?」
「うひぃっ!?」
ゴヨクが杖を構えると火球が飛び出し、それを見た他の二人は慌てて逃げ出す。ボムは下級魔法の一種だが、マオはそれを見て咄嗟に足場に利用していた氷板を操作して火球に衝突させた。
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