第289話 ゴヨクの復讐

「そうだ、薬だ……これを飲めば俺たちだって!!」

「お、おい!?本当にそれを飲む気か!?」

「止めとけって!!絶対にやばいって!!」



ゴヨクが怪しげな色合いの液体が入った薬瓶を取り出すと、それを見た二人の生徒は冷や汗を流す。この二人も最上級生から例の魔法効果を強化すると言われる薬は受け取っているが、後々に冷静になると非常に危険な薬としか思えずに未だに飲んでいない。


薬を取り出したゴヨクは最上級生が上級魔法を使った時の事を思い出し、彼はこれを飲めば自分が中級魔法やあるいは上級魔法を使えるようになるかもしれないと思い込む。



「大丈夫だって、あの先輩だって飲んでたけど特に何も変化はなかっただろ?」

「いや、でもよ……本当にその薬、効果があるのか?」

「俺達、騙されているだけじゃねえの?」

「何言ってんだ!!お前等だって見ただろ、あの先輩が上級魔法を使う所を!!」

「そ、それはそうだけどよ……」



上級魔法を使える魔術師は魔法学園の教師の中にも滅多におらず、ゴヨクは薬の効果を疑わなかった。彼は緊張した様子で薬瓶を握りしめ、これを使用してもう一度マオに挑む事を決意する。



「俺はやるぞ、あいつの鼻っ柱をへし折ってやる!!」

「「…………」」



他の二人の生徒はゴヨクの言葉に呆れてしまい、先ほどあんな惨めな敗北をしたばかりだというのに諦めようとしない彼に二人とも溜息を吐く――





――その日の夕方、マオは自室で休んでいると扉の隙間から手紙が差し込まれた。不思議に思ったマオは手紙を確認すると、その内容を見て呆気に取られた。



「何だこれ?」



手紙には「学校の屋上で待つ」と書かれ、その下には「お前の大切な人を預かっている」という脅迫めいた文章が記されていた。手紙の内容から察するに誰かがマオを屋上に誘き寄せようとしているが、疑問を抱いたマオは腕を組む。



「またさっきの奴等かな?懲りないな、もう……でも、大切な人を捕まえたか」



先ほど自分に絡んできた不良生徒達の仕業かとマオは呆れるが、大切な人を捕まえたという部分が気になった。この学校内でマオと親しい人間と言えばバルル達しか思い浮かばず、流石に教師であるバルルを誘拐するのは有り得ないのでバルトとミイナが対象になる。


バルトとミイナの二人がマオに敗れた不良生徒達に捕まるとは思わず、特にバルトの方は不良生徒達にとっては憧れの存在でもあるので有り得ない。ミイナもあの三人に簡単に捕まるとは思えず、十中八九は嘘である可能性が高い。



(師匠も先輩もミイナも捕まるとは思えないけど……人払いまでする奴だから絶対にないとは言えないか)



不良生徒の一人は貴族で兵士に金を渡して人払いまで行う輩であるため、もしかしたら他の人間を金で雇ってマオの知る人物を嵌めた可能性もある。それでも限りなく低い可能性だが、マオは手紙に従うかどうか考えた。



「とりあえず、先生に相談しようかな」



男子寮には生徒指導の教師も寝泊まりしており、手紙の事を教師に報告しようかとマオは外に出た。すると、部屋の前に一人の男子生徒が立っていた。



「うわっ!?」

「おっと、驚かせてすまない……ひひっ」

「な、何ですか貴方!?」



部屋の前に立ち止まっていた生徒にマオは驚き、すぐに相手が最上級生だと知る。その男はマオを見ると顔に賭けていた眼鏡に手を伸ばし、何かを確認するように呟く。



「ふむ、正に噂通りの魔力量……だが、安定しているな」

「え?」

「おっと、何でもない……ただの通りすがりだから気にしないでくれ」

「は、はあっ……」



男はそのまま通り過ぎるとマオは疑問を抱き、ここで彼はある事を思い出す。この魔法学園の生徒は100人程度しか存在せず、だいたいの生徒の顔はマオも覚えていた。しかし、先ほどの男の顔にはあまり見覚えがない。


何が目的で男が自分の部屋の前に立っていたのかとマオは不思議に思うが、マオは手紙の事を思い出して教師に報告に向かおうとした。しかし、いつの間にか手紙が無くなっている事に気付く。



「あ、あれ!?どうして!?」



手紙が消えた事にマオは驚き、慌てて床を見渡すが落としている様子はない。いったいどうなっているのかとマオは驚くと、この時に彼は先ほど通り過ぎた男を思い出す。



「まさか!?」



男が立ち去った方向にマオは駆けつけるが、既に彼の姿は消えていた。部屋の前に待ち構えていた男が消えた途端、マオは手に持っていた手紙がなくなった。この事から考えられるに先ほどの男は不良生徒の仲間で証拠に残りそうな手紙をマオから盗んだ可能性が高い。



「あいつ……!!」



手紙を盗まれた以上は仮に教師に報告したとしても悪戯と思われる可能性もあり、明確な証拠がなければ不良生徒達の悪事を暴けない。だからこそ男はマオから手紙を盗んだとしか思えず、マオは悔し気な表情を浮かべるが手紙に指定されていた時刻が迫っていた。


悔しいがマオは手紙に従うしかなく、証拠となる手紙がない以上は教師に相談する事もできない。だが、このまま屋上に向かう前にマオは準備を行う――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る