第288話 一発だ

「て、てめえ……こんな状況で何を笑ってやがる!?」

「君達さ……魔物と戦った事はある?」

「馬鹿にするな!!実戦の授業で何十回も戦ってる!!」

、ね」



マオの言葉に不良生徒の一人が怒鳴り返すが、そんな彼の言葉を聞いてマオはため息を吐き出す。確かに彼等も授業の一環で魔物との戦闘は経験しているかもしれない。しかし、それはあくまでも人の手によって捕えられた魔物でしかない。


授業の際に利用される魔物は生徒の安全を守るために事前に餌を食べさせずに弱らせていたり、あるいは魔物使いの調教を受けて生徒を殺さないように飼育されている。しかし、マオの場合は万全な状態で自分を常に殺しにかかる野生の魔物とも戦っていた。



(魔物の方と戦う方がまだ緊張感があるよ)



三人の魔術師に取り囲まれているといっても所詮は相手はであり、バルトやリオンのような腕利きの魔術師ではない。現に先ほどから何度も攻撃する好機があるのに彼等は魔法を仕掛けようとしない。


表向きはマオと戦うふりを装いながらも実際は彼等は人に向けて魔法を撃つ事自体が初めてだった。無論、授業の一環で生徒同士が戦う事もあるだろうが、訓練と実戦は大きく違う。もしも魔法を使えば下手をすれば相手を殺しかねない危険性もあり、それを理解しているので三人は不用意にマオに魔法を撃てない。



(そろそろ終わらせようかな)



マオは三人の位置を確認すると、黙って人差し指を伸ばした状態で腕を上げた。その行為に三人は警戒するが、マオは堂々と告げた。



「一発だ」

「は?」

「一発で終わらせる」

「な、何だと!?」

「ふざけやがって、俺達に勝てると思ってるのか!!」



マオの言葉に三人は激昂するが、それでも彼等は魔法を唱えようとしない。それを見たマオは懐に手を伸ばすと三又の杖を取り出し、天に伸ばして魔法を唱えた。



アイス!!」

「ぎゃあっ!?」

「はぐぅっ!?」

「いでぇっ!?」



三又の杖を天に掲げた状態でマオは魔法を唱えた瞬間、三つの先端から球体型の氷塊が出現して三人の元へ向かう。突如として迫ってきた氷に三人組は避ける暇もなく、一人は頭部に衝突し、一人は腹部に衝撃を受け、最後の一人は杖を持っていた腕が弾かれた。


攻撃を受けた三人はその場に倒れ込み、頭に攻撃を受けた生徒に至っては気絶した。残りは腹部を抑えてうずくまり、もう一人は腕を抑えて情けない悲鳴を上げる。



「うぐぐぐっ……!?」

「い、痛い!?痛いよぉっ!?」

「……あ、ごめん。一発だと言ったけど三発撃っちゃった」



マオは自分が攻撃を仕掛ける際に三つの氷塊を作り出した事を思い出して謝罪するが、不良生徒達にとってはどうでもいい事だった。彼の攻撃を受けた生徒達は怪我をした箇所を必死に抑えるが、そんな彼等にマオは近づいて淡々と告げる。



「今回は手加減したけど、もしも次に絡んできた容赦はしないよ」

「ひいっ!?」

「……早く回復薬で治しなよ。ここには誰もいないから助けてくれないよ」



不良生徒の一人が事前に人払いしていたお陰でマオは他の人間に見られる事を気にせずに魔法で攻撃を仕掛ける事ができた。不良生徒は自分で自分の首を絞める結果となり、マオはそんな不良生たちを残して帰ろうとした。



「じゃあね、悪さはほどほどにしておきなよ」

「う、ううっ……」

「ちくしょうっ……」

「がはっ……」



不良生徒達はマオの言葉に言い返せず、悔し気な表情を浮かべて歩き去ろうとする彼を見送る。昔と比べて対人戦も慣れてきたマオにとっては同級生の生徒など相手にもならなかった――






――相手を怪我させた後に治療するはずだった回復薬を使用して不良生徒達は怪我を治すと、改めて彼等は今後どうするかを話し合う。あんな負け方をしたせいで三人ともマオの事をもうの魔術師だとは思っていなかった。



「なあ、おい……もうあいつに関わるのは辞めようぜ」

「そうだな……あんな魔法が使えるなんて聞いてないぞ」

「くそ、くそくそっ!!あいつ、俺達の事を馬鹿にしやがって!!」



三人の中で唯一の貴族である男子生徒の名前は「ゴヨク」と言い、他の二人の生徒と違って彼は今回の件で相当な金を使ってしまった。相手に怪我をさせた場合の証拠隠滅の回復薬を購入し、更には目撃者を出さないように人払いのために兵士に金まで支払った結果、この様である。


他の二人は怪我はしたが回復薬のお陰で完治し、ゴヨクと違って損はしていなかった。しかし、ゴヨクからすればここまで自分が準備したというのにあっさりと諦める二人に怒鳴りつけた。



「こんな事で諦めて堪るか!!お前等だってあいつに仕返ししたいだろ!?」

「いや、それはそうだけどよ……」

「あいつはマジでやばいって……」



マオに負けた事ですっかりと二人は心が折れたらしく、そんな二人に対してゴヨクは苛立ちながらも少し前に最上級生から受け取った薬の事を思い出す。

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