第287話 リオンの手紙
――同時刻、マオは学生寮の自室で手紙を読んでいた。手紙の差出人はリオンであり、彼は今現在は他国に出向いていた。リオンは魔法学園に戻るのはひと月に一度歩かないかであり、その代わりに定期的に手紙をマオの元に送っていた。
「へえ、今は獣人国にいるのか……」
マオはリオンの手紙を読んで彼が獣人国で修行を受けている事を知って笑みを浮かべた。現在のリオンは魔法剣士になるために修行し、各地を渡り歩いていた。魔法学園にも一応は魔法剣士の教師は存在するが、もう既にリオンはその教師を越える実力を誇る。
一年生の時にリオンはマオに敗れた後、一から鍛え直すと告げて旅に出た。時々帰ってくるときは旅に訪れた地方のお土産を持参する事が多く、今度戻ってくるときは獣人国の土産を持ってくると手紙に書いてあった。
「お土産を買ってきてくれるのは嬉しいけど、リオンのお土産ってセンスがないんだよな……」
マオは困った様子で部屋の隅に並べている土産物に視線を向けた。マオの部屋の一角にリオンが持って来た土産物が並べられているが、そのどれもが木彫りの人形だった。動物の人形だけではなく、時には魔物の人形も送ってくるので置き場所に困っていた。
(前に先輩を連れてきた時に土産物を見て不気味に思われたからな……でも、捨てるのも何だか悪い気がするし、本当にどうしよう)
様々な動物や魔物の木彫り人形を見てマオは困った表情を浮かべ、今度リオンが戻って来た時にもう人形を送るのは辞めてもらうように頼むか悩んでいると、突如として部屋の窓に罅が入った。
「何だ!?」
急に罅割れた窓にマオは驚くと、どうやら何者かが外から石かなにかをぶつけたらしく、外を覗くと先ほど絡んできた生徒の一人が裏庭を駆けていた。
「あいつ!!」
今までは遭遇する度に絡んできた程度だったのでマオも苛立ちはしたが怒りはしなかった。だが、部屋の窓に石をぶつけるのはやりすぎであり、怒りを抱いたマオは窓を開いて外に飛び出す。
「待て!!」
「へっ、付いてこれるなら付いてこい!!」
逃げ出す生徒の後をマオは追いかけると、相手もマオが追ってくるのに気づいて挑発する。どうやら正体を隠すつもりはないらしく、怒ったマオは生徒を追いかけた。
授業の一環でマオは普段から体力作りの訓練も行っており、魔術師であろうと身体を鍛えておいて損はないという理由でバルルから厳しい指導を受けていた。そのお陰で同級生と比べてマオは足も速く、体力にも自信があったのですぐに追いつく。
「逃がすか!!」
「うわっ!?く、来るな!!」
だんだんと追いついて来たマオに対して逃げていた不良生徒は学生寮から離れると、学園を取り囲む防壁の傍に移動する。防壁には生徒の安全を守るために見張りの兵士が配備されているはずだが、何故か姿を見かけなかった。
「はあっ、はあっ……くそっ、しつこい奴だな!!」
「もう諦めろ!!」
息切れを引き起こした不良生徒に対してマオは怒鳴りつけると、彼を捕まえようとした。しかし、何処からか物音が聞こえたマオは咄嗟に振り返ると、後方から他の二人の生徒が杖を構えた状態で現れる。
「へへ、馬鹿な奴だな……」
「罠に嵌まったのはお前の方だ!!」
「そういう事だ。さあ、これで逃げられないぜ」
「……はあっ」
三人の不良生徒に取り囲まれたマオは面倒な表情を浮かべて溜息を吐き出す。そのマオの態度に彼を誘き寄せた不良生徒は苛ついた表情を浮かべて怒鳴る。
「ちっ、余裕こきやがって!!てめえの状況を理解してんのか!?」
「そっちこそ、まさか本当に魔法を使うつもり?生徒同士の争いはご法度だと先輩に言われたのを忘れたの?」
「ふんっ!!生憎とここは人払いを済ませてある。いくらお前を痛めつけようとバレる事はないんだよ!!」
マオを誘き寄せた生徒は貴族であり、事前に裏工作で防壁で見張りを行う兵士達を下がらせている。そのために目撃者がいなければいくらマオを痛めつけようと罪には問われない。
「安心しろ、お前のためにとっておきの回復薬を用意した。こいつを飲めばどんな怪我もすぐに治るからな……その代わり、俺達の前で調子に乗った行動ができないようにボコボコにしてやるぜ」
「下衆め……」
どれだけ相手を傷つけようとこの世界には回復薬が存在し、どんな怪我を負わせたとしても回復薬で身体を治してしまえば証拠はなくなる。事前に人払いをしたのは目撃者が現れないようにしたためであり、まんまとマオは罠に嵌まってしまった。
三人の魔術師に囲まれたマオは状況的には不利だが、不思議と心は落ち着いていた。これまでに体験した危機的状況を思い返すと、今回の相手はあまりにも非力な存在に思えて無意識に笑みを浮かべてしまう。
(おかしいな、僕が不利なはずなんだけど……全然怖くないや)
自分が三人の魔術師に取り囲まれているにも関わらずにマオは全くと言っていいほど不安を感じず、むしろ心に余裕があった。そんな彼を見て不良生徒達は不気味に思う。
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