第286話 強魔薬
「――バルト、ここにいましたか」
「あん?何だ、リンダか。お忙しい生徒会長がこんな所で何してんだ?」
マオと別れた後、バルトは学校の屋上で昼寝をしていたらリンダが訪れた。彼女は現在は生徒会の生徒会長を勤め、寝そべるバルトの元に歩み寄る。
「それはこちらの台詞です。ここは今は立ち入り禁止ですよ」
「別にいいだろ、俺はここが好きなんだよ」
「はあっ……全く、一年生や二年生の時はあんなに真面目だったのに」
「おい、止めろ。あの時はまだガキだったんだよ……」
リンダの言葉にバルトは罰が悪そうな表情を浮かべ、一年から二年生の時はバルトは誰よりも校則を律儀に守る生徒だった。普段から真面目に行動していれば月の徽章を与えられるかもしれないと考えたバルトは決して校則を破らずに勉学に励んでいた。
バルトが今のような性格になったのは三年生に入ってからであり、リオンの件で揉めた事でバルトは不良生徒と化し、今現在も他人に気付かれない場所で色々とやらかしている。そんな彼を止められるのは同級生のリンダだけであり、バルトに手を伸ばす。
「ほら、立ちなさい」
「たくっ……あ、パンツ見えた。お前、その年齢で熊さんパンツはどうかと……」
「ふんっ!!」
「ぎゃあっ!?あ、あぶねえっ!?」
自分のスカートの中を覗いたバルトに対してリンダは容赦なく踏みつけようとしたが、咄嗟にバルトは起き上がった事で顔面を踏み潰されるのは回避した。頑丈なはずの屋上の床に僅かにだが亀裂が走り、それを見たバルトは冷や汗を流す。
「お、お前殺す気か!?」
「ちっ……そんなわけないでしょう」
「今、舌打ちしたよな!?」
「そんな事よりも真面目に話を聞きなさい」
リンダはあからさまに眉をしかめながらもバルトに自分の話を聞くように促し、彼女は定期的に悩み事があるとバルトに相談する事が多かった。
彼女が生徒会長になってからは副会長の時と比べて仕事量も増え、しかも他の生徒の手前もあるので気軽にバルトに相談できなくなり、こうして二人切りになれる時にしか彼に相談をできなくなっていた。
「実は最近、学校内の生徒の間に怪しげな薬が出回り始めています」
「はあ?薬?何だよそれ、回復薬の事か?」
「いいえ、何でも噂によればその薬を飲めば魔法の効果が強化されるそうです」
「……そんなもんあるのか?」
魔力を回復するならばともかく、魔法の効果その物を強化する薬と効いてバルトは興味を抱き、そんな便利な薬が実在するのかとリンダに尋ねると彼女は難しい表情を浮かべる。
「今の所はその薬は確認されていません。しかし、生徒達の間で噂になっています」
「噂ね……だけどそんな薬、本当に存在するのか?」
「薬学に詳しい先生にも聞いてみましたが、世間では出回っていませんが確かに魔法の効果を強める薬はあるそうです。しかし、その薬の製作は現在は法律で禁止されています」
「どうしてだ?」
魔法効果を強化する薬ならば世間に出回っていたとしてもおかしくはないが、リンダが教師に聞いた限りだとその薬は魔法効果を強める反面に危険な副作用がある事を話す。
「その薬を飲めば確かに魔法効果は一時的に強化されます。しかし、薬の効果が切れると肉体に大きな負担を与え、場合によっては二度と魔法が使えなくなる危険性もあります」
「何だと……詳しく話せ」
魔法が使えなくなる可能性もあると聞いてバルトは表情を一変させ、薬の副作用の詳細を尋ねた。リンダは教師から聞いた話を伝える。
「その薬の名前は「
「ど、どんな風に危険なんだ?」
「この薬を飲めば魔力を生み出す機能が強制的に強化され、普段以上に魔力を体外に放出する事ができるようになります。しかし、薬を飲めば飲む程に魔力を抑えきれなくなり、何もせずとも勝手に魔力が体外に放出されてしまいます。自然に回復する魔力よりも体外に放出される魔力が上回った場合……最悪の場合は死に至ります」
「おい、ふざけんな!!そんなの毒薬じゃねえか!!誰がそんなもん作ったんだ!?」
「戦争が頻繁に起きていた時代に開発された薬なんです。戦の時は魔術師ほど大きな戦力になる存在はいませんでしたから、力の弱い魔術師でも戦えるようにさせるために開発されたと聞いています」
「ちっ、魔術師は戦争の道具かよ。くそったれが……」
強魔薬と呼ばれる薬が開発された経緯を知ってバルトは悪態を吐くが、重要なのはその強魔薬らしき薬が生徒達の間に出回っているという噂が流れた事である。
「あくまでも噂にしか過ぎませんが、もしも本当に強魔薬が出回っていたとしたら何としても薬を流している人間を捕まえなければなりません。バルト、貴方も気をつけてください」
「ああ、分かったよ。たくっ……何処のどいつの仕業だ?」
「……分かりません」
バルトはリンダの忠告を聞き入れ、念のためにマオやミイナにもこの話を伝えるべきかと彼はその場を後にした――
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