第285話 不穏な影

「ひひっ……面白い話をしているな」

「うわ、だ、誰だ!?」

「俺達の話を聞いてたのか!?」

「な、何だお前!?」



不良生徒達の前に現れたのは彼等と同じく魔法学園の生徒であり、恐らくは最上級生だと思われた。いきなり現れた上級生に不良生徒達は警戒するが、そんな彼等に上級生は落ち着くように促す。



「まあまあ、落ち着け……俺はこう見えてもお前等の先輩だぞ」

「せ、先輩……」

「ど、どうも……」

「……俺達に何か用すか?」



相手が上級生となると流石に不良生徒達も態度を改め、それでも警戒したように近付かない。そんな彼等に上級生は怪しげな色合いをした液体が入った小瓶を取り出す。



「お前等、これが欲しくないか?」

「うっ……な、何ですかそれ?」

「こいつはな、飲めば一時的に魔法の効果を強化する薬だ」

「えっ!?」

「そんな物があるのか!?」



上級生の男の言葉に生徒達は驚き、男は取り出した小瓶には紫色に光り輝く液体が入っていた。見るからに怪しいが男によればこの薬を飲めば魔法の効果が格段に上昇するという。



「こいつを飲むだけで魔法の効果は倍近くにまで上昇する。しかも薬の効果が続く限りは魔法も使い放題だ」

「そ、それ本当なんですか?」

「ああ、何だったら俺が試してやろうか?」

「試す!?ここで!?」



怪しむ不良生徒達に対して男は小瓶の蓋を開き、躊躇せずに一気に口の中に中身を注ぐ。それを見た不良生徒達は唖然とするが、男は中身を飲み干すと杖を取り出す。


男は杖を取り出すと彼は目にも止まらぬ速度で杖を振りかざし、空中に魔法陣を書き込む。それを見た不良生徒達は男が扱おうとしているのが上級魔法だと気付く。



「ま、まさかこれは!?」

「上級魔法!?」

「ちょ、こんな場所でそんな魔法なんて使ったら!!」

「ひひ、安心しろ……よく見ておけ」




――上級魔法は下級魔法や中級魔法と異なる点、それは発動の際には魔法陣を展開しなければならない。魔法陣を作り出さなければ上級魔法は発動できず、各属性によって魔法陣の紋様は色合いが異なり、男の場合は黒色の魔法陣を書き込む。




生徒の中でも上級魔法を扱える魔術師は限られており、最上級生でも扱える人間は1人か2人と言われている。あのバルトでさえも上級魔法の習得はまだであり、教師の中でも上級魔法を扱える人間は滅多にいない。



「よく見ておけ、これがこの薬の力だ」

「うわぁっ!?」

「ひいいっ!?」

「な、何を!?」



魔法陣が完成した途端、空中に浮かんだ漆黒の魔法陣から黒色の触手のような物が出現して不良生徒に絡みつく。触手に掴まれた生徒達は慌てて逃げ出そうとするが、触手は力尽くで引き剥がせず、それどころか直に触れると力が奪われるような感覚に襲われた。


男が使用した魔法は闇属性であり、闇属性の特徴は生物から生命力(魔力)を奪う性質を持つ。触手は男の意思で自由に動かせるらしく、彼が杖を振り払うと不良生徒達を拘束していた触手は解放される。



「ひひっ……離してやれ」

「うわぁっ!?」

「ひいっ!?」

「ち、力が……!?」



魔力を奪われた不良生徒達は逃げる事もできずにその場に腰を抜かすと、そんな彼等の前に男は先ほどのみ込んだ物と同じ薬瓶を差し出す。



「どうだ?これを飲めばお前等でも中級、もしかしたら上級魔法を扱えるようになるかもしれない。こいつが欲しいか?」

「あ、うっ……」

「いや、俺は……」

「それは……」



生徒達は男の言葉に喉を鳴らし、彼等にとっては自分達が上級魔法を扱えるかもしれないと聞かされて動揺を隠しきれない。彼等は成績が悪くて今年に入ってから星の徽章を一つも与えられていないが、もしも薬の力で中級魔法や上級魔法を扱いこなせるようになれば他の人間を見返す事もできる。



「この薬を飲めばお前等の人生は一変するぞ」

「ほ、本当にそれを飲めば俺達も上級魔法が使えるんですか!?」

「ひひっ、それはお前等次第だ……どうする?欲しいか?」

「お、俺は……」



男の言葉に3人は顔を見合わせ、悩んだ末に彼等は薬を受け取る事にした。どうせこのまま真面目に勉学に励んだとしても次の学年に上がるまでの規定の星の徽章を集められる自信はなく、それならば彼等は薬の力で他の人間を見返そうと考えた。



「ほ、欲しい!!下さい!!」

「俺にも!!」

「金ならあります!!俺の家、金持ちなので……」

「ひひっ……毎度有り」



こうして不良生徒達は男から薬を受け取り、後に彼等はこの時の自分の判断を後悔する事になるが、それはまだ先の話だった――





※熱が出てちょっと投稿が遅れました。

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