第278話 収束術の副効果

収束術を身に付けたばかりの頃、マオはこれまでよりも強力な攻撃魔法を繰り出せるようになった。収束術で生み出した氷は射程距離も攻撃速度も通常よりも倍近く上昇し、さらに新しい能力を身に付けた。


収束術で生み出された氷は凄まじい冷気を放ち、あまりの冷気で標的を凍結させる事ができた。この能力はマオも最近になって気が付き、ある時に訓練を行っていた時に的当てに利用していた木造人形が凍り付いたのを見て気が付いた。


魚人が川に沈めた時にマオは収束術で造り出した氷を撃ち込み、それを利用して魚人を凍り付かせようと考えた。氷弾でも大した損傷を与えられない程の頑丈な鱗を持つ魚人だとしても、全身を凍り付かせれば鱗の強度など関係なく倒せる。


マオの咄嗟の閃きによって商団は再び窮地を救われ、ネカは彼に感謝して今度こそお礼を受け取るように頼み込む。マオも流石に今回は断り切れず、彼のお礼を受け取る事にした。



「さあ、どうぞ好きな物をお選びください」

「えっ……あの、これは?」

「他国で入手した魔石でございます。この国では採取できない物も含まれております」



ネカはマオの前に木箱を置くと、中身を開いて見せつける。木箱の中には宝石のように光り輝く魔石が並べられており、マオの目から見てもどれもが一級品の魔石ばかりだった。



(凄い、こんなに煌めているの初めて見た……本当に貰っていいのかな?)



磨き上げられた魔石を見てマオは戸惑い、どの魔石も金貨が数十枚単位で取引される代物で間違いない。マオが使用するのは水と風の魔石のため、この二つのどちらかを受け取ろうかと悩む。



(まだ魔石は余ってるけど、多い分に越したことはないかな……あ、待てよ?そういえば前にミイナの魔石が切れかかっていると言っていたような……よし、お土産に持って行こう)



マオは悩んだ末に自分が使う魔石ではなく、王都に置いて来たミイナのために火属性の魔石を選ぶ事にした。



「これをお願いします」

「……本当にそれでいいのですか?」

「え、あ、はい……」

「そうですか……分かりました、では袋に包みましょう」



ネカはマオが水属性や風属性の魔石を選ばなかった事に意外そうな表情を浮かべるが、すぐに火属性の魔石を袋に包むと彼に渡す。下手な宝石よりも価値があるため、マオは受け取った魔石を大切に鞄にしまう。


王都に戻る前に良いお土産を手に入れたマオは嬉しく思う一方、王都に到着次第に早々に商団から離れる事にした。これ以上に彼等の傍にいると正体が気づかれる恐れがあり、早々に王都へ向かうように促す。



「あの、そろそろ王都へ行きませんか?」

「そうですな、では出発しましょう。お前達、すぐに準備しろ」

『はっ!!』



ネカの言葉に部下達は即座に行動に移し、やっと王都に戻れる事にマオは安堵する。しかし、その様子をネカは意味深な表情で観察していた――






――商団の馬車が王都へ帰還する準備を整える間、ネカは御者の男と同じ馬車に乗って報告を受けていた。御者の男はマオが凍結して倒した魚人を調べ、案の定というべきか魚人に契約紋が刻まれていた事を伝える。



「ネカ様の予想通り、先の魚人には契約紋が刻まれていました」

「やはりそうか。という事は魚人を連れ出した人間が王都に居るという事か……契約紋の紋様は?」

の紋様で間違いありません」



リクの名前を口にするとネカは目つきを鋭くさせ、自分と同じ七影であるリクが魚人を王都の近辺に潜ませていた事に不審に思う。



「リクの奴め、何を考えている……この俺の命を狙いに来たか?」

「い、いえ……それは考えにくいのでは?我々がここへ休んだのはあくまでも偶然ですし……」

「分からんぞ、奴は抜け目ない男だからな。だが、一先ずは奴の事はいい。それよりもあの少年の事だが……」

「ええ、実はその事でご報告が……」



御者の男はネカに耳打ちし、彼は驚いた様子で男の顔を見る。御者の男は何処からか水晶玉を取り出し、それをネカに渡した。



「その話、確かか?」

「はい、間違いございません。彼が魔法を扱う際、確認しました」

「……信じられんな、あれほどの魔法を使う人間が」



御者の男が取り出した水晶玉はただの水晶玉ではなく、魔術師の魔法の強さを計るための魔道具だった。この水晶玉は魔術師が魔法を発動させる際、その人間がどの程度の魔力を所有するのか計る事ができる。


マオが魔法を扱う際、御者の男は密かに水晶玉で彼の魔力量を計った。そして判明したのはマオの魔力量は一般の魔術師よりも遥かに少ないという事だった。しかし、ネカは魚人を倒した時のマオの魔法を見ているため、とても彼が魔力量が少ないなど信じられなかった。

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