第277話 氷人形の使い道

「今のうちに早く!!」

「あ、ああっ……」

「おい、こっちだ!!」

「早くしろ!!」



マオが魚人の注意を引いている間に他の人間が男を救出すると、魚人はマオを睨みつけた。先ほどの氷弾はまともに当たったはずだが、特に損傷を与えた様子はない。



(なんて硬さ……もしかしたらロックゴーレムよりも硬いかも)



鮫型の魚人は全身が鱗で覆われ、その硬度はロックゴーレムをも上回るかもしれない。氷弾をまともに受けたにも関わらずに魚人は怯んだ程度で怪我一つなく、むしろ怒りを煽っただけだった。



「シャアアッ!!」

「くっ!?」

「いかん、早く魔除けの香を持ってこい!!」



マオに目掛けて魚人が近付く姿を見てネカは慌てて部下に魔除けの香を出すように告げる。しかし、既に部下は魔除けの香を焚いている事を伝えた。



「そ、それが香はもう炊いてるんです!!なのに効かなくて……」

「何だと……そういえば前に海に潜む魔物には魔除けの香は殆ど効果がないと聞いた事があるが、まさかそれが原因か!?」



ネカは思い出したように言葉を告げると、それを耳にしたマオは魚人は魔除けの香が効かないのであれば自力で撃退するしかないと知る。しかし、撃退しようにもマオの氷弾は通じない。


氷弾が通じないのであれば氷刃も効かない可能性もあり、魚人の全身を覆う鋼鉄よりも遥かに頑丈な鱗が厄介だった。氷柱弾ならば魚人にも効果はあるかもしれないが発動までに時間が掛かり、その間に襲われる可能性もある。



(どうする!?どうすれば……そうだ!!)



マオは川に視線を向け、ある方法を思いつく。その一方で魚人は昨夜に襲い損ねたマオが現れた事に興奮し、今度こそ仕留めるために牙を剥けた。



「あ、危ない!!」

「早く逃げて!!」

「シャアアッ!!」

「くっ……このっ!!」



牙を剥き出しにして突進を仕掛けてきた魚人に対してマオは三又の杖を構え、相手の口元に目掛けて氷塊を作り出す。魚人はマオが作り出した氷塊によって口元を塞がれて慌てふためく。



「アガァッ!!」

「皆さん、離れて!!」

「うわぁっ!?」

「は、離れろ!!」



マオが魚人を抑えている間に他の人間は距離を取り、その間にマオは目を閉じて意識を集中させる。魚人の動きが止まっている間に彼は変換術で魔力を集めてより大きな氷塊を作り出す。



(氷人形アイスドールを作り出す暇はない!!それなら……これでどうだ!!)



火山で使用したロックゴーレムの氷人形を作り出す程の時間の余裕はなかったが、ロックゴーレムの全体ではなくだけならば再現する事はできた。マオは杖を構えた先に氷の巨人の腕が出現し、杖を振りかざして巨人の拳を叩き込む。



「どりゃあっ!!」

「アガァッ!?」

「何っ……!?」



氷の巨人の腕だけを作り出したマオは魚人の腹部に拳を叩き込むと、あまりの威力に魚人は後ろに仰け反り、そのまま川の浅瀬で倒れ込む。その光景を見ていたネカは驚くが、マオの攻撃はまだ終わっていない。


巨人の拳を作り出したマオはここから更に収束術で魔力を凝縮させる。氷の腕が徐々に縮小化し、別の形へと変化を果たす。巨人の腕から今度は鋭利に尖った氷柱のように変化すると、マオは魚人が浅瀬から起き上がる前に放つ。



「喰らえっ!!」

「シャウッ!?」



鋭利に尖った氷柱が魚人に放たれるが、それを見た魚人は咄嗟に身体をずらして攻撃を避けた。マオの放った氷柱は魚人に命中せずに川の底に沈み、それを見た者達は落胆した。



「よ、避けられた……」

「くそっ、あと少しだったのに……」

「……いや、もう終わりです」

「えっ?」



攻撃を避けられたにも関わらずにマオは三又の杖を腰に戻し、その様子を見ていた者達は呆気に取られた。しかし、次の瞬間に彼等はマオの言葉を理解した。



「シャギャアアアッ!?」

「な、何だ!?」

「これは……!?」



川から悲鳴が聞こえて全員が振り返ると、そこには浅瀬に沈んでいた魚人が凍り付く姿が映し出された。マオが先ほど放った氷柱を中心に川が凍り始め、氷柱の傍に居た魚人も凍り付いていく。


魚人は必死にもがくが身体が凍り付いて上手く動けず、数秒後には全身が凍結して動かなくなった。それを確認したマオは額の汗を拭い、流石に魔力が使いすぎたのか膝をつく。



「はあっ……どうにかなった」

「い、いったい何をしたのですか?」

「えっと……」



ネカは信じられない表情を浮かべて川の中で凍り付いた魚人に視線を向け、マオがどんな魔法を使ったのかを問い質す。そんな彼の質問に対してマオはどう答えるべきか悩んだ。




――実は彼が覚えた収束術で造り出した氷塊にはある能力が付与され、その能力に気付いたのはごく最近であった。

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