第274話 氷人形

「行け!!」

『フゴォッ!?』



ロックゴーレムを参考にして作り出された氷人形が地上に降り立つと、ボアの群れは唐突に出現した氷の巨人に戸惑う。マオは杖を構えると氷人形は彼の意思に応じて動く。


本物のロックゴーレムと違ってマオが作り出した氷人形はあくまでも氷の塊でしかなく、本物のように鳴き声を上げる事や特殊能力を持っているわけでもない。それでもマオの意思に応じて動くため、まるで本物のロックゴーレムのように振舞う事もできた。



「フゴゴッ……!?」



氷人形が動き出すのを見てボアの群れは最初は戸惑っていたが、やがて痺れを切らしたのか1匹のボアが氷人形に目掛けて突進を繰り出す。



「フゴォオオオッ!!」

「来るか……ていっ!!」



氷人形に突進してきたボアに対してマオは杖を上に振り払うと、氷人形が浮上してボアは反対側に立っていたボアに突進してしまう。



「フゴォッ……!?」

「プギャアアアッ!?」



突進を受けたボアは吹き飛び、誤って仲間に攻撃したボアは戸惑う。一方でマオは氷人形を地上に再び着地させ、今度は仲間を攻撃して混乱するボアの身体を掴ませる。



「どっせい!!」

「プギィイイイッ!?」



巨人族の如き怪力で氷人形に持ち上げられたボアは頭から地面に叩き付けられ、あまりの衝撃に頭が地面に突き刺さって動けなくなった。仲間が2体もやられたのを見て他のボアは焦りを抱き、一方でマオは氷人形を操作して次の敵を狙う。


氷人形は3体目のボアに対して拳を振りかざし、鼻頭に叩き付けた。強烈な衝撃を受けたボアは怯み、近くに立っていた仲間を巻き込んで倒れ込む。



「てりゃあっ!!」

「フガァッ!?」

「フゴゴッ!?」



マオの意思に応じて氷人形はボアに攻撃を仕掛け、瞬く間に4体のボアが草原に倒れる。それを見た他の6体は怖気づき、逃走を開始した。



『フゴォオオオッ!?』

「あ、逃げたか……まあ、これぐらいで十分かな」



倒れた仲間を残して逃げ去ったボアを見送り、改めてマオは倒したボアの様子を伺う。先ほど商談の馬車を追いかけていたボアの群れはまるで何者かに操られているかのように見えたが、もしも魔物使いの仕業ならばボアの肉体の何処かに紋様が刻まれているはずだった。


魔物使いが魔物を使役する際に必ず「契約紋」と呼ばれる特殊な紋様を刻む必要があり、もしもマオの予想が正しければボアの身体の何処かに契約紋が刻まれているはずだった。そして彼は氷人形を利用して気絶したボアの肉体を調べると、毛皮に隠れるように刻まれている紋様を確認する。



「やっぱり操られていたのか……でも何だろうこれ、豚の鼻みたいな形をしてる」



契約紋は魔物使いによってそれぞれ形が異なると聞いた事があるが、マオが見つけたボアに刻まれた契約紋は「豚の鼻」を想像させる紋様だった――





――ボアを追い払った後にマオは馬車を探すと、最初にマオが魚人が襲われた川の近くで馬車が停まっている事に気付く。魔物が潜む川の傍で馬車が停まっている事にマオは焦りを抱いたが、商団の人間は特に警戒もせずに川の傍で馬を休ませていた。



「あの……」

「あっ!?貴方は先ほどの……旦那様、この御方です!!この魔術師様が我々を助けて下さった方です!!」



氷板に乗り込んだマオが商団に近付くと、すぐに先頭を走っていた馬車の御者が声を上げて彼を迎え入れた。先ほど助けてくれたマオに恩を感じているのか今度は口調を但し、商団の主人を呼び出す。



「おお、貴方が先ほど私達を助けてくれた御方ですか!!いやはや、本当に助かりました!!」

「いえ、そんな気になさらず……皆さんはご無事でしたか?」

「ええ、貴方様のお陰で全員無事です。まあ、馬たちは無理をし過ぎてしまいましたが……」



商団の人間は無事だったが馬車を引いていた馬たちは無理をさせすぎたせいで疲れ切っており、川の水を飲ませて休ませている様子だった。改めてマオは商団の主人と向き合うと、彼が40代半ばの男性だと知る。



「私は王都で商いを行っているネカと申します。どうか、お見知りおきを……」

「あ、どうも……」

「よろしければお名前を伺っても?」



名前を尋ねられたマオは反射的に答えようとしたが、ここでマオは本当の名前を答えるべきか悩む。相手が王都の商人ならば当然ながらに王都の住民であり、しかも商人となると顔も広いと思われるのでマオは正体を明かすべきか悩む。



(どうしよう、この人に名前を名乗って他の人に僕の事を話しでもされたら王都の外に抜け出した事が師匠や他の人に知られるかも……)



マオは王都の外に勝手に出向いてしまった事をバルルに知られると色々とまずく、たった一人で危険を犯してグマグ火山に出向いて事が彼女にバレると激しく叱られてしまう。そう考えたマオは名乗る事を躊躇すると、不思議そうにネカは首を傾げた。

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