第272話 バルルとゴンゾウの動向

「ふんっ!!」

「「ゴアッ……!?」」

「終わったかい?なら、早く行くよ」



あっさりと二体のロックゴーレムを倒したゴンゾウにバルルは言葉をかけ、その様子を見ていたマオは冷や汗を流す。自分があれほど苦戦したロックゴーレムを10秒足らずで倒したゴンゾウに動揺を隠せない。


巨人族は人間よりも遥かに優れた腕力を誇るとは聞いた事があるが、並の岩石よりも硬いはずのロックゴーレムを力ずくで破壊したゴンゾウにマオは唖然とする。一方でゴンゾウはロックゴーレムから奪い取った魔石に視線を向け、どうするべきかバルルに尋ねた。



「バルル、この魔石はどうする?」

「あんたが倒したんだから好きにすればいいだろ?持って帰って売れば高く買い取ってくれるよ。いらないのならその辺に捨てちまいな」

「……そうか」



ゴンゾウは回収した魔石に視線を向け、考えた末に懐にしまいこむ。そして彼はバルルの後を追い、それを見ていたマオは尾行を再開する。



(あの人、凄く強い……でも、魔術師には見えないから黄金の鷹の人じゃないのかな?)



黄金の鷹は魔術師と魔拳士で構成された組織クランであるため、巨人族のゴンゾウが所属しているとは考えにくい。巨人族は体格と腕力に恵まれているが、その反面に魔法などの力は他の種族と比べて恵まれてはいない。


魔法学園には様々な種族の生徒が存在するが、その中に巨人族は一人も含まれない。理由としては巨人族は滅多に魔術師や魔拳士の才能を持つ者はおらず、そもそも他の種族と比べて数が少ないとマオは授業で習っていた。



(あの人、冒険者なのかな?でもバッジは付けてないし……師匠とは仲が良さそうだけど、どんな関係なんだろう?)



先ほどの会話の内容からバルルとゴンゾウは昔からの知り合いらしいが、二人がどのような関係なのかは分からない。二人の関係性が気になったマオはもう少しだけ尾行して様子を伺おうとしたが、火口に近付いた途端に異様な熱気に襲われる。



「くぅっ……この装備でもそんなに長くは持たないね」

「確かにな……早く用事を終わらせよう」

「ああ、そうだね」



火口に到着したバルルとゴンゾウはマントの中から色々と道具を取り出し、それを組み立ててピッケルへと変形させる。ピッケルを取り出した二人を見てマオは不思議に思うと、二人は火口付近の岩壁にピッケルを叩き込む。



「おらぁっ!!」

「ぬんっ!!」



二人がかりでピッケルを岩壁に叩き付ける光景を見てマオは疑問を抱くが、やがて岩壁が剥がれ落ちると内部から赤々とした鉱石が出現した。それを見たマオはすぐに鉱石の正体を見抜く。



(あれって……もしかして魔石の原石?そういえば前に師匠から火山から火属性の魔石が採れると聞いた事があるけど、まさかあれが?)



バルルとゴンゾウの目的の物は火山から採掘できる魔石の原石だと判明し、二人は袋を取り出すと魔石の原石を放り込む。バルルは先ほどロックゴーレムを倒した際にゴンゾウが手に入れた魔石には目もくれなかったが、岩壁から出現した魔石の原石は嬉々とした表情で採取する。



「ははっ、こいつ一つだけであたしの一か月分の給料はあるね!!余分に持って行って売っちまおうかね!!」

「バルル……お前、そんなに金にがめつかったか?」

「うるさいね、こっちは三人のガキを抱えてるんだよ!!あいつらの装備を整えるだけで金が掛かるんだよ!!」

「何?子供を産んでいたのか、それも三人も……どうして今まで知らせてくれなかった?」

「ば、馬鹿を言うんじゃないよ!!あたしは生涯独身だよ!!」



ゴンゾウはバルルの言葉を聞いて心底驚いた表情を浮かべるが、すぐに彼女は否定する。会話をしている間も二人は魔石の原石を袋の中に詰め込み、その様子を見ていたマオは立ち去る事にした。


これ以上に二人の様子を観察していたら気付かれる恐れがあり、バルルとゴンゾウの目的が火山の火口で採掘される魔石が原石だと知れば十分だった。どうして二人が魔石の原石を回収しているのかは気になったが、今は二人に気付かれる前に早々に立ち去る必要があった。



(これ以上、ここにいると流石に気づかれそうだな……早く戻ろう)



火口から離れたマオは急ぎ足で坂道を降りると、二人が戻る前に火山からの脱出を計る。帰り道はロックゴーレムに遭遇しない事を祈りながらマオは急ぎ足で離れた――






――グマグ火山から無事に離れる事に成功したマオは氷板に乗り込んで王都へ向けて直行した。しかし、帰る途中でマオはバルルとゴンゾウがどうして火山に居たのかを考える。



(あの二人の目的の代物は火山の火口から採取できる魔石だったみたいだけど、どうして火山の魔石の原石をわざわざ取りに来たんだろう?)



火属性の魔石が欲しいのであれば王都でも販売しているはずだが、二人が危険を犯してわざわざ火山の火口まで出向き、魔石の原石を採取していた事にマオは不思議に思う。


魔石に関しての知識はマオはあまり知らず、その辺の事情は王都に戻ったらドルトンに聞いてみようかと考えた。だが、彼は帰還の途中である物を見かけた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る