第266話 ロックゴーレム

――ゴォオオオオッ!!



マオが洞窟に踏み込んだ瞬間、岩壁に浮き上がった人面が鳴き声を上げた。その声を聞いて驚いたマオは振り返ると、そこには岩壁に擬態していた人型の生物が姿を現わす。


全身が岩石のような外殻に覆われ、体長は2メートルを超える巨体、そして胸元の部分には赤く光り輝く魔石がめり込んでいた。それを見たマオは一目でロックゴーレムだと見抜き、彼は咄嗟に後ろに下がろうとした。



「うわっ!?」

「ゴアッ!?」



咄嗟にマオは手に持っていたランタンをロックゴーレムの顔面にぶつけた事で注意を反らし、その間に洞窟から離れた。ロックゴーレムはマオの後を追って洞窟から出ると両腕を伸ばす。



「ゴオオッ!!」

「わああっ!?」



追いかけてきたロックゴーレムに対してマオは慌てて距離を取ろうとしたが、思っていたよりもロックゴーレムの動きは遅く、伸ばしてきた腕を躱して側面に回り込む。



(落ち着け!!ロックゴーレムは力は強いけど動きはそんなに早くない!!)



授業で習った内容を思い出したマオはロックゴーレムの後ろ側に回り込み、三又の杖を構えて魔法の準備を行う。しかし、攻撃の直前でロックゴーレムの後頭部に異変が生じた。


マオが後ろに回り込んだ瞬間に後頭部に人面が浮き上がり、マオに目掛けて腕を伸ばす。この時にマオは後頭部に浮き上がった人面に驚いて攻撃を完全に躱す事はできなかった。



「ゴオオッ!!」

「うわぁっ!?」



ロックゴーレムの伸ばした腕がマオの身体を掠り、それだけでマオは派手に吹き飛ぶ。ロックゴーレムの力は赤毛熊にも匹敵し、彼は掠っただけで地面に転がり込む。



「がはぁっ……!?」

「オォオオッ!!」



倒れ込んだマオの元にロックゴーレムが接近し、大きな足を振りかざしてマオを踏み潰そうとした。それを見たマオは三又の杖を握りしめ、どうにか攻撃が繰り出される前に三又の杖を構えて氷を生み出す。



「このっ!!」

「ゴアッ!?」



攻撃の瞬間に円盤型の氷塊がマオとロックゴーレムの間に誕生し、氷の盾によってロックゴーレムの攻撃は防がれた。ロックゴーレムは氷に触れた途端に慌てて距離を取り、その行動を見てマオは違和感を抱く。



(何だ?今の……氷から逃げた?)



氷に触れただけでロックゴーレムは慌てて距離を取った事にマオは疑問を抱き、ここで彼はロックゴーレムというよりはゴーレム種の情報を思い返す。ゴーレム種は環境によって外見や能力が変化するが、唯一にゴーレム種には共通の弱点が存在する。


ゴーレム種の弱点は水に弱いという点であり、どんなゴーレムであろうと水を浴びると弱体化してしまう。そしてマオの作り出した氷は火山の熱の影響ですぐに溶けてしまい、それが逆に功を奏してロックゴーレムを僅かに濡らす事に成功した。



(あいつの足元、変色している……)



マオを踏みつけようとした際にロックゴーレムは右足の足の裏が氷に触れた。その影響かロックゴーレムの足の裏は僅かにだが変色しており、それに気づいたマオは試しに変色した箇所に攻撃を行う。



「氷弾!!」

「ゴアッ!?」



速射性に優れた氷弾をマオは放ち、ロックゴーレムは避けきれずに右足に衝突した。その結果、右足の一部が崩れるのを見てマオは確信を抱く。



(やっぱりもろくなっている!!となるとこいつを倒すには……あれが一番だ!!)



マオは三又の杖を構えるとこの時に先端部分を回転させ、次々と新しい氷塊を生み出す。その光景を見たロックゴーレムは焦りを抱き、一方でマオは杖を振って氷塊同士を繋ぎ合わせる。



氷鎖チェーン!!」

「ゴアアッ!?」



輪の形に変形させた複数の氷塊を繋ぎ合わせ、相手を拘束するための鎖へと変化させる。魔法で造り出した氷はマオの意思で自由に動かせるため、彼は鎖をまるで蛇のようにロックゴーレムに絡みつかせた。


最初は逃げようとしたロックゴーレムだったが、氷鎖は逃さずにロックゴーレムに絡みつく。力ずくで氷鎖を破壊しようとロックゴーレムは踏ん張るが、マオの氷は鋼鉄以上の硬度を誇る。



「溶けろ!!」

「ゴァアアアッ……!?」



ロックゴーレムに絡みついた氷鎖が火山の熱気で溶け始めると、拘束されていたロックゴーレムの岩石の外殻が変色する。やがて全身に絡みついていた氷鎖が溶け切る頃にはロックゴーレムの全身は泥のように崩れていく。



(止めだ!!)



変色したロックゴーレムに対してマオは三又の杖を構えると、止めの一撃を繰り出すために氷柱弾を生み出そうとした。この一撃が決まればロックゴーレムは粉々に吹き飛ばせるが、攻撃の寸前にロックゴーレムの胸元の魔石が光り輝く。



「ゴァアアアッ!!」

「な、何だっ!?」



胸元の魔石が光った瞬間にロックゴーレムの人面に赤色の光が灯る。そして魔石が埋め込まれた箇所を中心に変色化していた箇所が徐々に元に戻り始め、それを見たマオは嫌な予感を抱いて魔法を放つ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る