第261話 黄金級冒険者ライゴウ

「バルル先生か……お前、知ってるか?」

「確か今は王都を離れていると思います。しばらくの間は戻ってこれないかもしれません」

「そ、そうですか……困ったな、師匠に相談しようと思ったのに」



バルルが王都を離れている事を知ってマオは困り、ドルトンが困っていると知ればバルルなら力を貸してくれると思ったが当の本人が不在ならばどうしようもできない。


10日後に依頼人が戻ってくるとドルトンは語っていたため、それまでにゴーレムの核が手に入らなければオリハルコンの剣を直す事はできない。しかし、肝心のバルルが王都を離れているのならば彼女の力は借りられない。



「師匠は何処に行ったのか分かりませんか?」

「私達は知りません。ここで働いている方なら知っているかもしれませんが……」

「多分、聞いても答えてはくれないと思うぜ。俺達は部外者だからな」



黄金の鷹で働く人間ならばバルルが現在引き受けている仕事内容は把握しているはずだが、黄金の鷹は依頼人の個人情報プライバシーを厳守するため、関係者でもない人間に仕事内容を伝える可能性は低い。



「う〜ん……師匠がいつ戻ってくるかも分からないんですか?」

「無理でしょうね。ですが、先生に用事がある事を伝える事はできると思いますが……」

「そうですね、なら用件だけを伝えるように頼んできます」

「あ、おい。それなら俺達も行くぜ。俺達も一緒の方が話を聞いてくれるだろうしな」

「ええ、そうですね」



マオが階段を上ろうとするとバルトとリンダも後に続こうとした。しかし、階段を上ろうとした三人の前に大きな人影が差し、驚いた三人は見上げるとそこには全身を黒色の甲冑で身を包んだ人物が上の階から降りてきた。



『……退いてくれるか?』

「え、あ、はい……」

「お、おう」

「……失礼しました」



マオ達はその場を下がると甲冑の人物は通り過ぎ、この時にマオは相手の声を聞いた途端に異様な威圧感を感じ取った。別に言葉が荒いわけではないが、その声を聞いた途端にマオは冷や汗を流し、バルトとリンダも同様に異様な雰囲気を感じ取る。


階段を降りると甲冑の人物は外へ出向き、それを見送った三人は彼の姿が見えなくなると緊張感から解放された。マオは玄関を見つめ、バルトは額の汗を拭い、リンダは先ほどの人物を思い出す。



「あの方は確か黄金級冒険者の……ライゴウ、ですね」

「あ、あいつがあの有名な黄金級冒険者か!?」

「ライゴウ……」



黄金級冒険者のライゴウの名前はマオでさえも知っており、王都で数名しか存在しない黄金級冒険者の中でも有名な存在だった。ライゴウは10年ほど前に黄金級冒険者に昇格し、それ以降は王都を拠点にして冒険者活動を行っている。


ライゴウは常に黒甲冑で身を包み、人前でも決して甲冑を外さない。彼が食事やトイレをする姿を見た者もおらず、色々と謎に満ちた人物である。そんな人物が黄金の鷹が拠点にしている宿屋に訪れていた事にマオは疑問を抱く。



「二人はあの人がここへ来ている事を知っていたんですか?」

「いや、知らなかった……」

「私も彼を見るのは初めてです」

「凄い迫力でしたね……」



決して強い口調で言葉を放ったわけではないが、その声を聞いただけでマオは鳥肌が立ち、あまりの迫力に他の二人さえも圧倒されてしまう。赤毛熊と初めて対峙した時と同じぐらいにマオは威圧感を感じた。



(あれが黄金級冒険者……凄いな)



マオはライゴウが立ち去った玄関をしばらく見つめていたが、本来の目的を思い出してバルルに用事を伝えるように黄金の鷹に所属する人間に会いに行く事にした――






――その一方で宿屋を後にしたライゴウはしばらく歩いていたが、不意に立ち止まったライゴウは宿屋の方へと振り返った。先ほど宿屋で遭遇した3人組を思い出し、その内の一人の少年の顔が頭に思い浮かべながら呟く。



『……強いな』



一言だけ告げるとライゴウはその場を立ち去り、この時に街道を行き来する人々は彼を避けるように歩いていた。別にライゴウが怪しい行動を取っているわけではないが、人々は本能で危険を感じ取って決してライゴウに近付こうとしない。


黄金級冒険者にして王都で最強の「魔法剣士」と謳われるライゴウ。その正体は誰も知らず、何者も寄せ付けぬ孤独の戦士だった――

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