第262話 黄金の鷹
「――結局、師匠には会えなかったか……」
その日の晩、マオは学生寮の自室にてベッドの上に横たわる。結局は黄金の鷹の人間にバルルに用件だけを伝えるように頼んだが、彼女がいつ戻ってくるのかまでは教えてもらう事ができなかった。
黄金の鷹は王都では最も人気がある
「どうしようかな、ドルトンさんにはお世話になってるから力になってあげたいけど……」
ドルトンに依頼した人間は10日後に戻ってくるらしいが、それまでに彼は炉を修理してオリハルコンの剣を修理しなければならない。しかし、修理に必要不可欠な炉が壊れてしまっては彼にもどうする事もできない。
一応はマオも黄金の鷹を去った後にバルトやリンダと共に城下町を巡ってゴーレムから採取した魔石が販売されていないのかは調べた。だが、結果から言えばゴーレムの魔石など滅多に手に入らず、結局は夕方まで探し回っても見つからなかった。
「グマグ火山か……」
グマグ火山には馬で移動しても三日は掛かる距離はあるが、正確には馬で移動する場合は定期的に休憩を挟まなければならない。しかし、休憩を挟まずとも移動し続ける乗り物があれば三日も掛からずに辿り着ける。
「……明日から二連休か」
壁に立てかけた授業の日程表を確認したマオは休日である事を確かめると、彼は起き上がって夜明けを迎える前に着替えを行う。かつて倒した赤毛熊の毛皮で作ったマントを取り出し、旧学生服に着替えて三又の杖とリオンから受け取った小杖を装着した。
「よし、行こう」
赤毛熊は強い熱耐性を誇り、これを身に付ければグマグ火山のような熱帯地帯でも活動できるはずだった。実際に修行の一環で王都から離れて熱い地域までバルルに連れ出された時は赤毛熊のマントのお陰で熱を防げた。
(先輩やミイナには話しておきたいけど、もう時間がないしな……手紙だけは残しておこうかな)
マオは手紙を書いて同じ学生寮に暮らすバルトの部屋の扉の隙間に手紙を差し込む事にした。内容は休日の間は王都を離れる事を記し、学校が始まる日までに戻ってくる事だけを書いておく。
「これでよし、後は地図と方位磁石を用意して……うん、何とかなるかな」
荷物を鞄に詰め込んだマオはクローゼットに押し込んでいた小さな金庫を開く。この金庫はマオが個人的に購入した代物であり、中身は回復薬の類が入っていた。回復薬は訓練の際にバルルから渡されて余った物を収納し、時々旅に出ているリオンからも送られる事があった。
「念のために薬は多めに持って行こうかな……よし、これで準備万端!!」
鞄の中に荷物を詰め込むとマオは空模様を確認し、もうすぐ夜が明けようとしていた。猶予は二日、それまでにマオはグマグ火山に生息するゴーレムを倒し、核を回収してドルトンに渡した後に魔法学園に戻らなければならない。
ドルトンは10日後に依頼人が戻ってくると言ったが、実際の所は炉の修理やオリハルコンの剣の修復にどの程度の時間が掛かるのかは分からない。だからこそマオは早めに行動に移り、休日の間にゴーレムを倒して核を回収する事を誓う。
(よし、行こう!!)
覚悟を決めたマオは両頬を軽く叩き、気合を込めて窓から外へ抜け出す。そして窓を潜り抜ける際に足元に
氷板は昔と違って現在では移動手段としても扱え、彼がその気になれば馬よりも早く移動する事ができた。しかも魔力が続く限りは自由自在に動かせる事ができるため、マオは学園を飛び出してグマグ火山へと向かう――
――時間帯が夜明けという事もあって王都の城門は閉まっていたが、空を飛べるマオには関係なく城壁を飛び越えて移動する事ができた。城壁の兵士達に気付かれない程の高度まで上昇し、その後は王都の外へ降り立つと高度を落として移動を行う。
「ウォンッ!?」
「ガアアッ!?」
「ごめんね、相手をしている暇はないんだ!!」
地上には魔物が存在するがマオはそれらを無視して移動を行う。魔物達は奇怪な乗り物に乗って移動を行うマオを見て呆気に取られるが、獲物を発見したと思った魔獣の群れは彼の後を追いかける。
「ガアアアッ!!」
「しつこいな……加速!!」
「ガウッ!?」
後を追いかけてきたファングやコボルトを見てマオは氷板の速度を上昇させ、魔獣脚ですら追いつけない程の移動速度で先を急ぐ。やがて魔獣の群れを振り切るとマオは王都の北側に流れている大きな川に辿り着く。
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