第259、260話 ドルトンの依頼

――氷板を利用してマオはドルトンの鍛冶屋まで数分で辿り着くと、鍛冶屋の前に降り立つ。通行人の何人かは空から降りてきたマオを見て驚きの声を上げる。



「うわっ!?な、何だ!?」

「だ、誰か落ちてきたぞ!!」

「……って、なんだ魔法学園の生徒か。びっくりさせやがって」

「あ、すいません。お騒がせしました」



街中を歩いていた人間達はマオの格好を見て魔法学園の生徒だと知ると、すぐに騒ぎが収まって立ち去った。魔法学園の生徒は有名なので彼等が魔法を使う場面を見ても街の人々は騒いだりはしなくなった。


鍛冶屋に到着したマオは店が開いているのを確認して中に入ると、そこには難しい表情を浮かべたドルトンが椅子に座っていた。彼は机の上に並べた剣に視線を向けながら頭を抱えて座り込んでいた。



「おはようございます、ドルトンさん」

「ん?誰だ?悪いが今は忙しいんだ、客なら後に……って、なんだお前か」

「どうかしました?」



ドルトンはマオに気付くと溜息を吐き出し、そんな彼の様子を見てマオは不思議に思う。ドルトンは立ち上がるとマオに椅子に座るように促す。



「装備を取りに来たんだな?まあ、そこに座っていてくれ。すぐに用意してやる」

「あの、ドルトンさん……この剣は?」

「あ、ああ……実は常連が持って来た剣なんだが、ちょいと困った事になってな」



机の上に置かれた剣を見てマオは一目で魔法金属製の武器だと見抜く。なぜならば机の剣は刃が青色の水晶のような輝きを放ち、それを見ただけでマオは刃を構成する魔法金属を見抜く。



「これって、もしかしてオリハルコンですか?あの希少金属の……」

「ああ、そうだ。こいつは先代、つまりは俺の親父が造り上げた代物だ」



魔法金属のオリハルコンはこの世界ではミスリルよりも価値が高く、滅多に手に入らない希少金属だった。外見は青色の水晶を想像させるほどに煌びやかで美しく、それでいながら見た目の美しさに反して凄まじい頑強さを誇る。


ミスリルよりも魔法耐性が高く、鋼鉄の数十倍以上の硬度を誇ると言われており、伝説の聖剣の素材にも利用されている。そんなオリハルコンの剣を作り上げたのがドルトンの父親らしいが、その息子であるドルトンは非常に困っていた。



「こいつを直すように依頼したのは親父と古くから付き合いのある奴なんだが、実は困った事があってな……ここを見てくれ、先っちょが少しだけ欠けているだろ?」

「あ、本当だ……でも、これぐらいならすぐに直せるんじゃないですか?」



ドルトンに指摘されてマオはオリハルコンの剣の先端部がほんの僅かだが欠けている事に気付く。しかし、見た限りでは大した損傷に見えないが、ドルトンによるとオリハルコン製の武器は壊れると簡単に直せる代物ではないという。



「こいつは硬すぎて砥石ですら研ぐ事ができないんだ。こいつを直す場合、数千度の熱を与えて溶かして打ち直すしかないんだ。だが、実は俺がっている炉がちょいと壊れちまってな……」

「壊れた?」

「ああ、こいつを直すには炉をまずは直さないといけないんだが、直す前に必要な素材が足りねえんだ」

「どんな素材ですか?」

「魔石だ。火属性の魔石が必要だ……しかも市販で売っているような奴じゃなくて、ゴーレム種のような魔物の体内で熟成された魔石じゃないと駄目なんだよ」

「ゴーレム……」



マオは見た事はないがゴーレムと呼ばれる魔物は有名であり、絵本などでは岩石のように硬い外殻を持つ魔物として描かれていた。ドルトンによれば彼が普段から作業場で扱っている炉はゴーレムから採取した特別な魔石を利用して加熱していたらしい。



「ゴーレムは体内に「核」と呼ばれる魔石を秘めている。その核が俺の炉に扱う魔石なんだ。だから炉を直すためにはゴーレムから核を回収しないといけないんだが、そう簡単に核なんて手に入らなねえからな」

「冒険者ギルドに依頼したらどうですか?」

「ゴーレムを倒せる冒険者なんて王都でも滅多にいねえ……できるとすれば白銀級か黄金級冒険者だけだが、生憎と俺のような一般庶民じゃ奴等を雇う金がねえんだよ」

「なるほど……」

「はあ、本当に参ったぜ。親父の代から世話になっている客の依頼だから何とかしたいが、どうしようもできねえ」



ドルトンからすれば今回の依頼相手は先代の頃からの常連客らしく、どうにか依頼人の希望に応えたいがゴーレムの核が回収しなければどうしようもできないらしい。


困っているドルトンを見てマオは考え込み、ゴーレムを倒せるのが白銀級以上の冒険者だと聞いて彼は真っ先に思い浮かんだのはバルルの顔だった。彼女はドルトンとは昔からの付き合いであり、一時期は黄金級冒険者にまで上り詰めようとしていた話を思い出す。


「それなら師匠に相談しましょうか?」

「師匠というとバルルか?いや、俺もそれは考えたが最近のあいつは忙しいんだろ?流石にこれ以上に迷惑を掛けるのはどうかと思ってな……」

「師匠なら気にしませんよ」



バルルもドルトンとは古い付き合いであり、彼女ならばドルトンが困っていると知れば力を貸してくれるだろうとマオは思った。しかし、ドルトンはバルルに助けを求める事に躊躇する。



「いや、やっぱり駄目だ。いくらあいつが強いと言ってもゴーレムが相手だと分が悪い。ゴーレムは火にも強いからな、いくらあいつでもゴーレムを倒すのは難しいだろう」

「それなら僕も手伝いますよ」

「お前が?ゴーレムと戦った事はあるのか?」

「ありませんけど、こう見えても結構場数を踏んでますよ」



ゴーレムとは戦った事はないがマオは他の魔物との戦闘は頻繁に行い、これまでに様々な強敵を打ち倒してきた。ドルトンもマオの噂は耳にしており、冒険者でもないのに魔物を狩る少年の噂は有名だった。



「う〜ん……お前が強いのは本当だろうが、ゴーレムは恐ろしい相手だぞ?本当に大丈夫か?」

「大丈夫です、もしも危険な目に遭いそうならすぐに逃げますから……」

「そうか……まあ、無茶はするなよ。ゴーレムの生息地は山岳地帯だが、ここから一番近い場所は北の方にあるグマグ火山だ。もしも火山に行くならちゃんと準備はしておけ」

「グマグ火山ですね」



王都の北には火山が存在し、そこにゴーレムが生息していると知るとマオはドルトンに預けていた装備を受け取る。彼が預けていたのは三又の杖であり、一年生の時に使用していた時と比べて色々なが加えられた。



「それにしてもお前さんぐらいだぞ、そんな変な杖を使うのは……」

「あはは……でも、これが一番いいんです」

「たくっ……まあ、ゴーレムの核の方は別にそんなに気にしなくていい。依頼人が戻ってくるまで10日はあるからな」

「連絡は取れないんですか?」

「こいつを預けたきり、王都を離れたんだよ。だから困ってるんだ」



ドルトンにオリハルコンの剣の修理を依頼した人間は王都を離れたらしく、そのせいでドルトンは修理が不可能な件も話せなかったらしい。マオは依頼人が戻るまで10日の猶予があると知ると、魔法学園に戻る前に黄金の鷹が拠点にしている建物に向かう事にした――






――黄金の鷹が拠点にしている場所はバルルが経営している宿屋であり、現在の宿屋は大幅な改装が施されていた。昔は二階建ての建物だったが、現在は四階建てになって三階から上の階は黄金の鷹の関係者しか立ち寄る事が許されない。


マオは宿屋に辿り着くとバルルが戻っているかどうか確認しようとした時、上の階から見知った顔が降りてきた。その人物はマオの先輩であり、現在は魔法学園の生徒の中でも三本指に入ると噂されているバルトと、生徒会の生徒会長になったリンダだった。



「あれ?そこにいるのはマオか?どうしたんだ、こんな場所で……」

「マオさん?」

「あ、先輩!!それに生徒会長も……どうして二人がここに?」



バルトとリンダはマオと顔を合わせると驚き、二人は階段から降りるとここにいた理由を話す。



「俺達は卒業後、黄金の鷹で働く事が決まってるからな。だから早いうちに仕事の手順とかを教えてもらってるんだよ」

「えっ!?じゃあ、先輩と生徒会長は黄金の鷹に入団するんですか?」

「一応はその予定です。まだ先の事は分かりませんが……それよりもマオさんの方こそどうしてここに?今は授業中のはずですが……」

「えっと……話すと長くなるんですけど」



リンダの指摘にマオは冷や汗を掻き、本来であれば学生は簡単に魔法学園の外には抜け出せない。月の徽章を持つ生徒は特別に外出を許可されているが、それでも授業の時間は勝手に外へ出る事は許されていない。


仕方なくマオは素直にここまでの経緯を話し、自分がドルトンの元に訪れた事、そして彼が困っているのでバルルに相談するために黄金の鷹まで訪れた事を話す。全ての話を聞いた二人は納得してくれた。



「なるほど、バルル先生に会いに来たのですか。そういう理由ならば仕方ありませんね、マオ君は授業をサボる生徒ではなくて安心しました」

「おい、なんでこっち見るだよ……最近は真面目に授業を受けているだろうが」

「あの……それで師匠はいますか?」



リンダに睨まれたバルトは罰が悪そうな表情を浮かべるが、マオはバルルがここにいるのかを問うと、二人は困った表情を浮かべた。

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