第252話 先輩としてやれる事
――時は少し前に遡り、マオが一人で熱心に訓練を励んでいる頃、彼の先輩であるミイナとバルトはこっそりとマオの様子を伺っていた。
「マオ、また凄そうな魔法を作ってる」
「なるほど、氷の鎖か……あれでリオンの奴を捕まえるつもりだな」
「でも、上手くいくと思う?」
扉の隙間からミイナとバルトはマオが新しい魔法の訓練を行っている事を知り、ミイナはリオンに彼の魔法が通じるのかを尋ねると、バルトは難しい表情を浮かべた。
「あの氷の鎖で拘束されたら巨人族だろうと抜け出す事はできないだろうな。だけど、そう簡単に捕まるかどうか……」
「先輩だったらどうする?」
「俺ならあの魔法が完成する前にマオに攻撃を仕掛けて邪魔をするな。見た所、あの魔法を使うには相当に集中しているようだからな。だから邪魔をして魔法を完成させないようにすればいい」
「ならリオンも同じ方法で破ると思う?」
「どうかな……あの魔法を初見で見たらどんな魔法なのか確かめようとするかもしれねえ」
バルトはマオが訓練する光景を見て彼がどのような魔法を使おうとしているのか把握し、もしも自分との戦闘で使用すれば対処できる自信はあった。しかし、何も知らない状態でマオの新しい魔法を見れば彼がどんな事をしようとしているのか確かめようと様子見していたかもしれない。
もしもリオンがマオの氷鎖を見て様子見しようとすればほぼ確実にマオは勝利を掴む事ができる。氷鎖が完成すればマオはリオンを逃さず、必ず拘束する。拘束に成功すればマオの作り出す氷の強度ならば人間の力では絶対に破壊できない。
「リオンの奴が初見であの魔法に対処できるかどうかだな……まあ、十中八九は成功するだろう」
「どうして?」
「あいつの性格を考えればマオが魔法を繰り出したらきっと正面から破ろうとするだろ。だが、あの数の氷塊を同時に破壊するとしたらスライサーでも難しい。それにスライサーはそんなにすぐに作り出せる魔法じゃねえ」
「流石は風魔法に詳しい」
リオンと同じく風属性の系統であるが故にバルトは彼の魔法の弱点を知りつくし、中級魔法の「スラッシュ」も「スライサー」の長所も短所も把握していた。バルトの見立てではリオンに勝ち目があるとすればマオが魔法を完成させるために彼自身に攻撃を仕掛けて邪魔をするしかない。
しかし、バルトがリオンがマオの魔法の発動の邪魔をするとは思えなかった。彼が見た限りではリオンはマオに強い対抗心を抱いており、もしも彼が魔法を放とうとすればリオンは逃げずに正面から迎え撃ち、正々堂々と破ろうとする。しかし、それをすれば彼に勝ち目はない。
(認めたくはないがあいつは俺以上の天才だ。だが、それでも今のマオには……)
バルトはリオンの才能を認めているが、それ以上にマオの成長力には及ばないと考えていた。魔法学園に入ったばかりの頃と比べてマオは誰よりも成長し、その力は最早先輩である自分でも及ばない。
仮に今のマオにバルトが試合を挑んでも勝てる気がせず、どんな魔法を繰り出しても変幻自在の彼の氷の魔法で対処される気がした。その事に悔しく思う一方、そんな彼だからこそ誰にも負けて欲しくないという思いもあった。
「おい、もう行くぞ」
「行く?何処に?」
「ここにいたらあいつに気付かれるかもしれないだろ……今は訓練に集中させてやれ」
「……本当に私達は手伝わなくていいの?」
「必要ないだろ……あいつなら大丈夫だ」
ミイナを連れてバルトはその場を立ち去り、彼は最後に一度だけ振り返ってマオの様子を伺う。熱心に訓練に集中する彼を見てバルトは彼とリオンが少しだけ羨ましく思えた。
(俺もあいつらみたいに競い合う相手がいたら……もっと強くなれたのかもな)
三年生の中では一番の実力を誇るバルトだが、彼に対抗して強くなろうとする同級生はいなかった。厳密に言えば魔術師のの生徒の中でバルトに張り合おうとする人間はおらず、もしも自分にもマオとリオンのように張り合える友人がいたのならばもっと強くなれるのかと考えてしまう――
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