第253話 決闘当日
――決闘当日の早朝を迎えると、全ての準備を整えたマオは屋上に赴く。果たし状には決闘を行うのは本日の昼休みだと記されていたが、その前にマオは学校が始まる前に決闘の舞台となる屋上へ赴く。
まだ生徒どころか教員も訪れていない時間帯のため、
「来たか」
「リオン……まさか、ここでずっと待ってたの?」
「自惚れるな、目が冴えたから偶々にここに来ていただけだ」
マオと同じくリオンも決闘の開始時刻前に屋上に赴き、自分達が戦う場所を確認しに来た様子だった。マオは氷板から降りると、リオンの腰に剣を差している事に気付く。
「その剣は……」
「……俺はもう魔術師じゃない」
「え?」
リオンの言葉にマオは呆気に取られ、一方でリオンは腰に差している魔剣に手を伸ばすと、立ち上がってマオの横を通り過ぎた。そんな彼にマオは振り返って先ほどの言葉の意味を尋ねようとした時、リオンは振り返りもせずに淡々と告げる。
「お前が魔術師として俺を越えた事は認めよう。だが、それでもお前は俺には勝てない」
「リオン?」
「俺は魔術師である事を捨てた。ただ、それだけの話だ」
自ら魔術師である事を辞めた事をマオに告げると、リオンは初めて少しだけ寂し気な表情を浮かべて腰に差していた予備の杖を手に取る。一流の魔術師ならばどんな状況でも予備の杖を用意しておく事、その教えを守ってリオンは杖を二つの所持していた。
一つ目の杖は一週間前にマオに破壊され、残されたもう一つの杖を彼は握りしめる。このままへし折る事もできるが、彼は力を抜いてマオに放り投げた。
「これはお前にやる。好きに使え」
「うわっ!?」
「……いらないのなら捨ててくれ」
王都で別れた際にリオンはマオに杖を渡したが、それはあくまでも彼の同情に過ぎなかった。しかし、今回の場合はリオンは自分が魔術師である事を決別するために杖をマオに託す。
渡された杖を見てマオは立ち去ろうとするリオンに視線を向け、色々と思う所はあるが彼が魔術師の道を諦めて魔法剣士になろうとしている事を知り、敢えてマオは彼を止める事はしなかった。
(リオン……)
魔術師としての才能があるにも関わらず、リオンは魔法剣士になる道を選んだ。彼が魔法剣士になる事を決めた理由はマオは分からないが、最後に杖を渡した時の彼の声が震えていた様に聞こえた――
――それから数時間後、再び屋上にマオは赴くとそこには既に見知った顔が並んでいた。師匠であるバルルはもちろんの事、同じ教室で学ぶ先輩のミイナとバルト、そして学園長の姿もあった。
「皆、どうしてここに……」
「あんた達だけで決闘をさせるわけがないだろ?万が一の場合はあたしらが止めるよ」
「安心しなさい、野暮な真似はしないわ。貴方達が全力で戦えるように既に準備は整えているわ」
「俺達はまあ、ただの見物人だ。気にしないでくれ」
「マオ、応援してる」
決闘の舞台となる闘技台はマリアが結界を施し、万が一の事態に陥った場合は結界を解除してバルルが二人を止めるつもりだった。ミイナとバルトは応援のために来て呉れた様であり、そんな二人にマオは頷く。
闘技台にマオが上がると以前にバルトと戦った時よりも緊張していた。これから戦うのは自分が初めて憧れを抱いた魔術師であり、同時に彼を越えるためにここまで頑張ってきたと言えなくもない。
「……来たようだね」
「へっ、待たせやがって……」
「自分から指定した癖に遅刻なんて感心しない」
「…………」
他の人間の声を耳にしてマオは振り返ると、屋上の扉が開かれて遂にリオンが姿を現わす。リオンが現れた途端に場の雰囲気が一変し、彼はこれまでに見た事がない程の真剣な表情を浮かべていた。
(凄い気迫だ……赤毛熊と対峙した時以上かもしれない)
ただ歩くだけのリオンの姿を見てマオは冷や汗を流し、一方でリオンの方は闘技台に待ち構えるマオを見て彼は考え込む。
(まさかあの時のお漏らしがここまで成長するとはな……)
最初にリオンがマオと遭遇した時、彼は生まれて初めて見る
闘技台にリオンが登ると他の者たちも緊張し、バルルもミイナもバルトも冷や汗を流す。ただ一人だけ冷静なのはマリアだけであり、彼女は二人が闘技台に移動したのを確認すると結界を作動させる準備を行う。
「二人とも準備はいいかしら?」
「はい」
「……何時でも」
「なら……この火球が消えた時を決闘の合図としましょう」
結界を発動させる前にマリアは無詠唱で闘技台の中心部に火球を作り出す。そして彼女は闘技台の結界を作動させると緑色の障壁が取り囲み、彼女が作り出した火球が徐々に小さくなっていく。
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