第251話 氷鎖

――新しい魔法の扱い方を覚えたマオは次の日から木造人形を相手に魔法を使用し、相手を拘束する術を磨く。三又の杖の特徴を生かして複数の氷塊を一度に作り出し、それらを同時に同じ形に変形させて結合させ、木造人形の拘束を行う。



「せい、やあっ!!はあっ、はあっ……ちょっと休憩しよう」



今回の訓練は多数の氷塊を生み出して使用するせいでいつもよりも魔力消費が激しく、定期的に休憩を挟んで魔力の回復を行う。マオは毎日の精神鍛錬の成果で数分もすれば魔力を全回復できるようになったため、休憩を終えると訓練を再開した。


木造人形に氷鎖を絡みつかせ、決して壊れず尚且つに相手が抜け出せない程の力加減で氷鎖で拘束を行う。魔物のような存在ならば多少の力で締め付けても問題はないが、人間が相手の場合は手加減しなければならない。



「大分慣れて来たかな……いや、もっと早く作り出せるようにしないと」



複数の氷塊を連続で造り出して結合させる事で氷の鎖を生み出し、それを相手に目掛けて放って拘束を行う。これらの手順は本来であれば魔力量が少ないマオにはかなりの負担だが、それでも訓練を繰り返す事に着実に「氷鎖」を作り出す時間は短くなっていた。



(リオンも今頃は凄い特訓をしてるはず……僕だって頑張らないと!!)



リオンはあれから学校には訪れておらず、教師のバルルすらも彼が何をしているのかは知らないらしい。だが、今頃もマオを倒すために厳しい特訓を重ねていると思われ、マオも負けじと訓練に集中する。



「リオンにだけは……負けたくない!!」



マオが一流の魔術師を目指す切っ掛けはリオンとの出会いが理由だった。彼に魔術師として大成する事はないと言われた時、マオは負けん気を抱いて一流の魔術師になる事を誓った。


魔術師の素質があると言われた時のマオは漠然と絵本のような魔術師になりたいと思って王都へ旅立ったが、リオンからマオは魔術師として致命的な弱点を持っている事を告げられた。彼は生まれながらに魔力量が少なく、魔術師として欠陥を持っていると知らされた。


リオンはマオに魔術師になる事を諦めるように勧めたが、マオとしてはこんな場所にまで来て諦めきれず、何が何でも彼は魔力量が少なくても一流の魔術師になると誓う。その強い意思が芽生えたお陰で彼は今日まで生き延びる事ができた。



(必ず勝つ!!勝って証明するんだ!!僕は魔術師の落ちこぼれじゃないって!!)



魔力量が少なくとも一人前の魔術師に慣れる事を証明するため、マオは昼夜問わずに訓練に励む。何度か精神が限界を迎えて倒れてしまったが、それでも彼は目を覚ますと訓練を再開し、最低限の休息を取って新しい魔法の訓練を続けた――






――決闘の前日、マオは座禅を行って魔力の回復に集中を行う。そして次に目を開くとマオは10メートル程離れた場所に設置されている木造人形に視線を向け、立ち上がるのと同時に三又の杖を繰り出す。



「はあっ!!」



三又の杖から次々と新しい氷塊を作り出し、それらを結合させる事で鎖へと変化させる。空中に出来上がった氷鎖を木造人形に目掛けて放ち、氷鎖は木造人形の身体を拘束した。


時間にすれば10秒も満たず、息を荒げながらもマオは氷鎖で拘束した木造人形の元に近付く。念のために木造人形を調べてみると傷一つない事を確認し、遂に成功した事を知るとマオは力が抜けてへたり込む。



「できた……完成だ」



数日を費やして遂に決闘前日に新しい魔法を編み出したマオは屋上に横たわり、緊張の糸が途切れたせいか意識を失ってしまう。この時に木造人形を拘束していた氷鎖も解除された



「リ、オン……」



寝言でもリオンの名前を呟き、それからマオは今までの疲労が回復するまで眠り続けた――






――同時刻、リオンは王都を離れて山の中に存在した。彼の目の前にはボアが倒れており、他にもコボルトやファングの黒焦げと化した死骸が転がっていた。



「はあっ、はあっ……」



息を荒げながらもリオンは魔物達の死骸を見下ろし、自分の所有する魔剣に視線を向けた。彼もこの数日の間、魔剣の力を完全に使いこなせるように特訓を続けた。そして遂に彼は魔剣の真の力を引き出す。



「兄上、もう少しで貴方に……」

「ガアアアアッ!!」



魔剣に語り掛けるようにリオンは呟くと、彼の後方から巨大な熊が出現した。赤毛熊並の大きさを誇り、恐らくはこの山の主と思われる巨大熊を見てリオンは魔剣を構えた。



「雑魚が、消えろ!!」

「ガアッ――!?」



次の瞬間、巨大熊は魔剣から放たれた炎を浴びて死を迎えた――

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