閑話 リオンの治療

――赤毛熊との戦闘で片目に傷を負ったリオンだったが、視力その物は平気だったので気にしなかった。しかし、傷を負ってから数日後に彼は高熱を出して意識を失う。



「リオン様!!しっかりしてください!!」

「ぐうっ……耳元で騒ぐな」

「も、申し訳ございません!!」



横たわるリオンをジイは心配した様子で見つめ、彼はリオンの額に触れると熱がまた上がっている事に気付く。このままではリオンの命が危うく、どうにかしなければならないと思った彼は騎士達に怒鳴りつける。



「ええい、まだ薬師は連れてこれんのか!?」

「も、申し訳ございません!!間もなく到着するはずなのですが……」

「だから騒ぐな……お前の声が頭に響いて休む事もできん」

「す、すいません……」



怒りのあまりに喚き散らすジイにリオンは注意すると、彼等の元に遂に待ちに待った人物が到着した。



「お待たせしました!!薬師殿をお連れしました!!」

「おお、やっと来たか!!」

「……早く通せ」



案内役の騎士が「薬師」と呼ばれる人物を連れてくると、すぐに部屋の中に白いローブで身を包んだが現れた。その女性を見た途端、ジイは呆気に取られた。



「ま、待て……誰だその娘は?いつもの薬師はどうした!?」

「そ、それが……」

「どうも初めまして、私の名前はイリアです。いつも師がお世話になっています」

「師だと!?という事はお主は薬師殿の弟子か!?」



ジイは現れた少女に驚愕の表情を浮かべ、リオンも彼女を見て疑問を抱く。いつもは彼が病気や怪我をした時は老齢の男性の薬師が訪れて治療するのだが、今回はいつもの薬師ではなく、その弟子を名乗る少女が現れる。


少女の年齢はリオンとそれほど変わらず、恐らくは彼と同い年ぐらいだろうと思われた。少女は驚いた表情のまま固まるジイの横を通り過ぎ、横たわっているリオンの容体を伺う。



「なるほど、これは思っていた以上に酷い状態ですね」

「ま、待て!!小娘、これはどういうことだ!?いつもの薬師殿はどうした!?」

「三日ほど前にお亡くなりになりました。だから弟子の私が代わりに仕事を引き受けます」

「亡くなった!?な、何故!?」



さらりと自分の師が無くなった事を語るイリアと名乗る少女にジイは驚愕するが、彼女はリオンの片目の傷を確認しながら説明する。



「医者の不摂生ですよ。あの人、お酒が大好きだったでしょう?それで酒を飲み過ぎて身体を壊してずっと寝たきりだったんですけど、遂にぽっくり逝ってしまいました」

「ぽっくり!?」

「貴様……その年齢で師の代わりに仕事ができるのか?」

「もうあの人から学べる事は全部学びましたから、あの人にできて私にできない事なんてありませんよ」



説明を行いながらもイリアはリオンの目元を確認し、赤毛熊に傷つけられた傷跡を確認して薬を取り出す。彼女が取り出したのは緑色の泥のような物が入った瓶を取り出し、それを傷跡に塗り込む。



「鼻を抑えてください、かなり臭いますからね」

「うっ!?」

「き、貴様!!リオン様になんて失礼な真似を……!!」

「いいから黙っててください!!このままだと死んじゃいますよ!?」

「うっ!?」



イリアの言葉にジイは彼女に伸ばした腕を止め、その間にイリアは飲み薬を取り出してリオンの口元に運ぶ。こちらもかなりきつい臭いがしたが、リオンは我慢して飲み込む。



「全部飲んでください」

「うぐっ……何だ、これは?」

「私が調合した解熱剤です。ほら、身体も楽になってきたでしょう?」

「……ああ」



薬を飲んだ途端にリオンの身体の熱が下がり、一気に身体が楽になった。イリアはその後も包帯を取り出して彼の片目を塞ぎ、その後も様々な薬を飲ませる――






――翌日、リオンは体調を復帰すると片目を塞いでいた包帯を外す。すると彼が赤毛熊から受けた傷跡が完全に消えてしまい、元通りの状態に戻っていた。それを見た騎士達は驚き、リオン自身も傷跡が消えたのを見て驚く。



「傷が消えた……これもお前の薬のお陰か?」

「そうですよ。そもそも体調を崩したのはあの傷跡のせいです」

「どういう事だ?」

「怪我を受けた後にちゃんと適切な治療をしなかったんでしょう?そのせいで熱を出してぶっ倒れたんですよ。赤毛熊の爪には毒に近い成分がありますから、それが体内に入ったせいで体調を崩したんです」

「……そうだったのか」



赤毛熊の爪に毒がある事をリオンは初めて知り、もしもイリアが治療していなければ彼は今頃死んでいたかもしれない。リオンはイリアに感謝すると、彼女は早々に立ち去る。



「なら私はここで失礼します。あ、ちゃんと報酬の方は期日までに振り込んでおいてください」

「……助けてくれた事には感謝する。だが、その口調は何とかならないのか」

「命の恩人なんだから大目に見てください。それじゃあ、また怪我をしたら呼んでください」

「変わった女だ……」



イリアをリオンは見送ると、彼は傷跡が完全に消えた片目に手を伸ばし、立ち去っていくイリアに笑みを浮かべた――

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