第243話 襲撃犯の正体

――魔法学園にてガーゴイルが打ち破れた瞬間、王都の郊外に存在する建物の中で一人の男が目を覚ます。その男は七影の「リク」であり、彼は床に魔法陣が刻まれた場所で横たわっていた。



「ぐうっ……くそっ!!しくじったか!!」



彼が横たわっていた魔法陣の他にも複数の魔法陣が床に刻まれており、それぞれの魔法陣にはゴブリン、コボルト、ファング、オーク、ガーゴイルの紋様が刻まれていた。ガーゴイルの紋様だけは二つ存在し、その内の一つにリクは横たわっていた。


彼は全裸の状態で魔法陣に横たわり、胸元の部分が痛むのか眉をしかめながら手を押し当てる。まるで誰かに殴りつけられたかのような鈍い痛みに襲われ、リクは忌々し気な表情を浮かべる。



「爆拳のバルル……想像以上の使い手だな」



まるで自分が戦ってきたかのようにリクは語り、彼は壁際に置いていた自分の衣服を着こむ。そして彼は事前に用意していた松明に火を灯し、木造製の床に放り込んでその場を後にした。



(ここはもう使えん。ちっ……また新しい隠れ家を探すか)



松明の炎が木造製の床に燃え広がり、リクが出て行ってからしばらくした後に建物が燃え始めた。これによって彼が床に刻んでいた魔法陣は灰と化し、誰にも気づかれる事はない。





――七影のリクは魔術師であり、彼の扱う魔法は魔法陣を利用して自分と契約を交わした魔物を意のままに操る「魔物使い」と呼ばれる魔術師だった。


魔物使いは名前の通りに魔物を使役し、場合によっては強制的に操る事ができる。但し、操れるのは契約紋と呼ばれる魔法陣を刻んだ魔物だけであり、本人の力量によって操れる魔物の数と強さは異なる。


未熟な魔物使いならばゴブリンさえも操る事ができないが、リクの場合は複数の魔物と同時に契約を交わし、ガーゴイル程度の力を持つ魔物ならば魔法陣を通して意のままに操る事ができた。彼は魔法学園に送り込んだ二体のガーゴイルを操作してマオ達を襲った張本人である。



(今回はしくじったが、大きな収穫はあった。シチを殺したのはあの子供ガキだ。何としても殺さねば……)



魔法学園に魔物を送り込むという危険な賭けまでしたのはリクが七影のシチを殺した犯人を見つけ出すためであり、彼は魔物を操りながら学園内の様子を伺う。そして遂に彼は「氷」を扱う魔術師を発見した。


シチが殺された時に現場の一部が凍っていた事から犯人は「氷属性」の魔術師の使い手という可能性が高い。そして氷属性の魔術師など滅多に存在せず、探すのにそれほど時間は掛からなかった。リクは噂で冒険者ギルドに氷を扱う魔術師が出入りしているという話を聞く。


噂では氷を扱う魔術師はまだ幼い少年と聞いてリクはシチが子供にやられるような未熟者ではないと思ったが、念のために確かめる必要があった。しかし、魔法学園の生徒は簡単に接触はできず、そもそもマオが外に出向く時はバルルが傍に控えていた。


考えた末にリクは魔法学園で騒動を引き起こし、そのどさくさに紛れてマオに襲撃を仕掛ける。幸いにも魔法学園は訓練の際に本物の魔物を生徒に戦わせるという情報は掴んでおり、彼はそれを利用して学園内部に自分と契約を交わした魔物を送り込んだ。



(今回の一件で学園長マリアが俺達の存在を嗅ぎつけるかもしれん。だが、俺が使役した魔物は死んだ。俺の仕業だとバレる可能性はないが……)



契約を交わした魔物は死亡すれば魔法陣は自動的に消え去り、リクが送り込んだ魔物の死骸から彼と関りがある魔物は既にマオ達の手で倒されている。だからこそ彼の正体が気づかれる可能性は低いが、それでも油断はできない。



(今しばらくは大人しくしておくか……他の七影も相手が学園長の庇護下にある生徒と伝えれば無茶な要求はできまい)



リクはシチを殺した犯人を見つけ出し、始末するように他の七影から促された。それをしなければ彼は七影の座から降りるしかなかったが、相手が魔法学園の関係者と知れば流石の他の七影も彼に与えた指示を撤回せざるを得ない。


盗賊ギルドが最も恐れるのは魔法学園を管理するマリアであり、何があろうとマリアにだけは接触しないように心掛けていた。マリアはかつて盗賊ギルドを幾度も壊滅の危機に追い込んだ恐るべき存在であり、そのマリアがマオを保護しているのならばリクも迂闊に手を出せない。



(もうしばらくの間は生かしてやる……だが、その顔は覚えたぞ)



ガーゴイルを通してマオの素顔を確認したリクは怒りの表情を抱き、長年相棒として活動してきたシチを死に追いやった彼を許す事はできなかった。今は手を出せないが、もしも機会が訪れればリクは自分の手でマオを殺す事を誓う。

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