第244話 学園の後始末
――魔法学園が魔物の襲撃を受けてから数日後、魔物の死骸は一掃されて校舎の修復も終わると授業が再開された。今回の襲撃の犯人は結局は捕まらなかったが、魔物が現れた経緯は判明した。
学園内には魔物を管理する施設が存在し、その場所には常に警備兵が待機している。しかし、唐突に施設にガーゴイルが襲撃して警備兵を蹴散らし、檻の中に閉じ込められていた魔物を解放したのが事の切っ掛けだった。
今回の一件を反省して魔法学園は侵入者が入り込めないように警備の強化を行い、更に生徒達には自分の身を守るために一層に魔物との訓練を課す。幸いにも今回の襲撃で魔物に怪我をされた生徒は居ても殺された人間は一人もいなかった。
「暴れた魔物が生徒を殺さなかったのは先生が何かしてたのかい?」
「別に大した事はしていないわ。捕まえていた魔物達には人を殺さないように調教していただけよ」
「調教ね……」
今回の襲撃で死亡者が出なかったのはただの偶然などではなく、魔法学園が管理していた魔物達は人を傷つけることがあっても命を奪わないように特別な処置が施されている。
魔法学園では魔物と生徒を実際に戦わせる事はあるが、魔物が生徒を殺せば当然だが大問題に陥る。生徒の中には貴族出身の子供も多く、そんな子供達が死ねば当然だが親が黙っているはずがない。
「魔法学園が管理する魔物達は魔物使いの先生方が契約を交わしていたわ。なにがあろうと生徒の命は奪ってはならないように命令を与えていたから、生徒達は殺される事はなかった」
「つまり、捕まえていた魔物は生徒を殺す事はあり得なかったという事かい。だけど、あたしの目から見たらガーゴイルの奴はマオ達を本気で殺そうとしていた様に見えたけどね」
「……そもそもうちの学園でガーゴイルを管理しているなんて話は聞いた事がないわ」
生徒達が無事だったのは暴れた魔物達が生徒を殺さないように調教されていたお陰だが、ガーゴイルに関してはマリアにとっても予想外の存在だった。もしもバルル達が救援に間に合わなければガーゴイルはマオ達を殺していた可能性も十分にあった。
マオ達から話を聞いた二人は校舎内にガーゴイルが2体も侵入してきた事を知り、どちらも既に死亡していた。しかし、マオはガーゴイルに蛇のような紋様が刻まれていた事を覚えており、それをマリアに知らせるとすぐに彼女はガーゴイルの正体が外部から送り込まれた魔物だと気付く。
「2体のガーゴイルを操作していたのは間違いなく魔物使いね。恐らくは盗賊ギルドが関係していると思うけど、確証はないわ」
「奴等の仕業だとしたら目的はなんだい?あいつら先生の事を恐れてる癖に今回は随分と派手にやらかしたね」
「そこが気になるわ。これが盗賊ギルドの仕業ならば私の怒りを買う様な真似ををしたのか……どんな理由にせよ、私の教え子に手を出した報いは受けてもらうわ」
「おおっ、怖い怖い……」
珍しく怒気を滲ませるマリアにバルルは冷や汗を流し、昔から本気で怒らせたマリアほど恐ろしい存在はいない事は彼女も知っていた。
「それよりも先生、普通に授業を再開しているけど生徒には何も説明しないのかい?流石に生徒の親御さんも今回の件で怒ってるんじゃないかい?」
「ええ、今回の一件で子供を預けている貴族の殆どがお怒りよ。だからしばらくの間は私は貴族の怒りを宥めるために学園を留守にする事になるわね」
「ちっ、貴族共め……いつもは先生に尻尾を振ってるくせにこういう時だけ偉そうに」
「貴族の中には魔法学園に融資してくれる方もいるのだからそんな風に言うのは辞めなさい」
学園長であるマリアは今回の騒動で怒りを買った貴族を宥めるために行動しなければならず、彼女はしばらくの間は魔法学園を離れる事を伝える。魔物を送り込んだ襲撃犯を捕まえればどうにかなったかもしれないが、犯人は周到な人物らしく、証拠らしい証拠はマオが見た「蛇の紋様」しか残っていない。
魔物使いが魔物を使役する契約紋は個人によって形が異なり、マオが見たという紋様だけでは犯人の手掛かりを掴む証拠としては薄い。そもそもマオが見たという紋様もガーゴイルを倒した際に時間経過で消えてしまい、証拠として提示する事はできない。そのためにマリアは貴族を宥めなければならず、しばらくの間は学園はバルルに任せる事を伝えた。
「私がいない間は貴女も他の先生と協力して学園の秩序を守りなさい」
「秩序と言われてもね……あたしはどうもそういうのが苦手なんだよ」
「苦手でも頑張りなさい。それにもうすぐ貴女の一番弟子も帰ってくる頃よ」
「いや、別のあの人はあたしの弟子というわけじゃ……って、戻ってくる!?本当かいそれは!?」
マリアの発言にバルルは驚愕の表情を浮かべ、一方でマリアは部屋の時計を確認すると彼女はこともなげに答えた。
「今頃はもうここに到着している頃合いだわ。もしかしたら貴女の生徒と顔を合わせているかもしれないわね」
「な、何だってぇえええっ!?」
バルルはマリアの発言を聞いて驚愕の声を上げ、急いで彼女は自分の教室へと向かう――
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