第241話 絶体絶命
バルトが所有していた魔石は風、火、雷の魔石だった。風の魔石の場合は破壊された瞬間に周囲に衝撃波を放ち、火の魔石は爆炎、そして雷の魔石は広範囲に電流が拡散した。
ゴブリンは衝撃波を受けて吹き飛び、ファングは爆炎に飲み込まれて悲鳴を上げ、コボルトは電流で黒焦げと化して倒れ込む。結果から言えば魔物の群れは一掃する事に成功したが、最後の魔力を使い切ったバルトは倒れる。
「ぜえっ、ぜえっ……も、もう流石に限界だ」
「はあっ……マオ、無事?」
「ううっ……」
ミイナは押し倒したマオに視線を向け、苦しげな声を漏らしながらも生きている事を確認すると安心する。校舎内の魔物の群れは一掃され、もう安全だと判断したミイナはマオの隣に寝転がる。
三人が並んで横たわる形となり、それぞれが疲弊しきっていた。しかし、これで学校内に現れた魔物は倒したと思われ、バルトとミイナは笑みを浮かべて気絶しているマオの手を掴む。
「ははっ、やったな俺達……」
「凄く頑張った……これだけ頑張ったんだから月の徽章ぐらい欲しい」
「おいおい、俺とマオはもう持ってるっての……」
自分達が生き残れた事にバルトとミイナも喜ぶが、不意に二人の視界に何かが移った。二人は空を見上げる形で横たわっていたが、上空から何かが近付いてくる事に気が付いた。
「何だ?あの黒いの……」
「あれは……まさか!?」
「おい、どうした!?」
普通の人間よりも視力にも優れるミイナは上空に現れた影の正体を見抜き、彼女は慌てて起き上がろうとした。それを見たバルトは彼女が何に気付いたのか問い質そう年たが、その前に上空から鳴き声が響く。
――キィエエエエエッ!!
不快感を催す奇怪な鳴き声、というよりも超音波が魔法学園内に響き渡り、この声を聞いた瞬間にマオも目を覚ます。バルトとミイナは耳元を抑え、上空を浮かぶ存在を目にした。
鳴き声を放ったのはマオが少し前に倒したガーゴイルとは色違いの存在である事が判明し、どうやら学校内に侵入してきたガーゴイルは一体だけではないと判明する。ガーゴイルは地上に降り立つと、倒れているマオ達に視線を向け牙を剥きだしにする。
「グゥウウウッ……!!」
「う、嘘だろおい……ふざけんな、こっちはもう魔力がないんだぞ!?」
「くっ……」
「二人とも、逃げて……」
二体目のガーゴイルの到来にマオ達はお互いが寄り添い合って互いを庇い合う。もう三人共戦える状態ではなく、ここまでの連戦で流石のマオも魔力を回復させる体力は残っていない。
(最悪だ、こんな時に……どうすればいい!?)
魔力を使い切っているので魔法の力には頼れず、仮に三人がかりで挑んだとしても勝てる相手ではない。万全の状態であっても確実に勝てる保証がない相手なだけにマオ達は冷や汗が止まらない。
「先輩、魔石は……」
「もうねえよ……お前の方こそ魔力は回復できないのか?」
「すいません、もう無理です……」
「……逃げるしかない」
三人はお互いに肩を貸し合って立ち上がり、どうにかガーゴイルから逃げる手段を考える。しかし、ガーゴイルはマオに視線を向けると怒りを露わにして咆哮を放つ。
「キィイイイイッ!!」
「うわぁっ!?」
「み、耳が!?」
「にゃうっ!?」
超音波のように発せられるガーゴイルの鳴き声を聞くだけで精神が乱され、この状態では仮に魔力が残っていても魔法は扱えない。マオ達は耳を抑えて膝を崩し、身体を動かす事もままならない。
ガーゴイルから逃げなければならないのは理解していても身体が言う事を聞かず、このままでは殺されると思ったマオは必死に何かないのかと必死に辺りを見渡す。しかし、そんなに都合よく役立ちそうな物が落ちているはずがなかった。
(どうすればいい!?どうすれば……くそっ、頭が痛い!!)
鳴き声のせいでまともな思考も行えず、このままでは殺される事を理解できても何も思いつかない。やがてガーゴイルは鳴き声を辞めると、マオに目掛けて突っ込んだ。
「キェエエエエッ!!」
「うわっ!?」
「マオ!?」
「逃げろ!?」
マオに目掛けてガーゴイルは接近すると、慌ててバルトとミイナが彼を庇おうとした。マオも杖を構えるがもう魔光すら生み出す事ができず、ガーゴイルの振り翳した右腕の爪がマオの胸元に迫った瞬間、唐突に突風が発生した。
「ギャウッ!?」
「うわっ!?」
「な、なに!?」
「こ、これは……まさか!?」
突風がガーゴイルを押し退けるとマオ達は驚いて振り返り、そこには見知った人物の姿があった。その人物の傍にはバルルも控えており、彼女は隣に立つ人物に声をかける。
「流石は先生、腕は落ちてないようだね」
「あら、随分と生意気な口を叩けるようになったわね」
「し、師匠!?」
「学園長まで!?」
「ふうっ……びっくりした」
マオ達の前に現れたのは完全武装したバルルとマリアであり、先ほどガーゴイルを吹き飛ばした強風はマリアが発生させた魔法だと判明する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます