第240話 成長しているのはお前だけじゃない

「合わせろ猫娘!!」

「そっちこそ!!」

「グギャアッ!?」



背中から声が聞こえたホブゴブリンは振り返る前に熱と衝撃が同時に襲い掛かり、何が起きたのか理解するのに時間が掛かった。ホブゴブリンの背中に炎に包まれ、慌ててマオを放り捨ててホブゴブリンは地面に転がり込む。



「グギャアアアッ!?」

「ちっ、しぶとい奴だぜ……まだ生きてんのか」

「ならもう一回」



ホブゴブリンは背中の炎を掻き消そうとする中、校舎から降りてきたバルトとミイナは汗を流しながらホブゴブリンと向かい合う。マオを助けるために二人は必死で校舎を降りてここまで辿り着いた。


先ほどのホブゴブリンが受けた攻撃は二人の合体技であり、この数か月の間にバルトはミイナと共に新しい魔法を生み出す。こちらの魔法は最近になって完成したばかりであり、バルトが構える杖にミイナは炎を纏った鉤爪を構える。



「何時でもいい」

「よし、しっかりと合わせろよ!!」

「こっちの台詞」

「グギィイイッ……!?」



ホブゴブリンは背中の炎を掻き消そうとしていると、それを見たミイナは鉤爪に意識を集中させる。この時にバルトは杖先から風の魔力を放ち、彼女の鉤爪の炎が燃え上がる。



「やれ!!」

「大炎爪!!」



バルトが調整した風の魔力をミイナが装備した鉤爪に送り込み、この際に彼女は火の魔力を送り込む。二人の魔力が溶けあうように合体する事でより大きな炎を生み出す。


風属性の魔法は火属性の魔法に取り込まれる性質を持っており、その結果としてミイナはバルトの魔力を取り込んでより強力な火炎を纏う。しかし、この攻撃法は長続きはせず、せいぜい数秒で炎の制御が行えずに消えてしまう。つまりは数秒以内に相手に攻撃を当てなければならない。



「にゃあっ!!」

「グギャアアアッ!?」



ミイナの振り払った炎がホブゴブリンの肉体に的中し、ホブゴブリンの肉体は炎に包まれた。それを見たバルトは笑みを浮かべ、勝利を確信した。



「どうだ見たかこの野郎!!成長しているのはお前だけじゃないぞ、マオ!!」

「……気絶してるから聞こえてないと思う」



バルトは自分とミイナの攻撃で炎に包まれたホブゴブリンを見て嬉しさのあまりに声を上げる。マオでさえも倒しきれなかったホブゴブリンを自分達が倒した事に喜ぶが、ミイナがすぐにツッコミを入れる。


炎に包まれたホブゴブリンは苦しみもがき、この時に首元の蛇のような紋様も焼き消えてしまう。すると糸が切れた人形のようにホブゴブリンは倒れ込み、完全に動かなくなった。それを確認した後にミイナはマオの元へ向かい、彼が気絶しているだけとしって安堵した



「マオ……良かった、まだ生きてる」

「ううっ……」

「はあっ……たくっ、面倒を掛けさせやがって」



死亡したホブゴブリンを確認してバルトは額の汗を拭い、彼もここまでの道中でかなりの魔力を消耗してもう戦う力も残っていなかった。ミイナはマオに肩を貸して立ち上がろうとした時、不意に彼女は鼻を鳴らす。



「すんすんっ……まさか、これはまずいかも」

「はあっ?今度は何だよ……うおっ!?」

「……万事休す」



ミイナの言葉にバルトは彼女に振り返ると、そこには予想外の光景が広がっていた。校舎内に残っていた魔物達が次々と窓を割って飛び出し、ゴブリン、ファング、コボルトなどが姿を現わす。



「ギィイイイッ!!」

「グルルルッ……!!」

「ガアアッ!!」

「お、おいおい……まだこんなに残っていたのかよ!?」

「先輩、マオを運ぶのを手伝って!!」



バルトは魔物の群れを見て顔色を青ざめ、ミイナは急いでマオを避難させようと彼に声をかける。マオは未だに意識を失っているので彼の力は頼れず、二人がかりでマオを運び出す。


魔物の群れは逃げるマオ達を標的に定め、一斉に向かってきた。それを見たバルトとミイナは必死にマオを連れて駆けるが、到底逃げ切れそうになかった。



「お、おい!!このままだと追いつかれるぞ!!」

「なら私が時間稼ぎを……」

「馬鹿野郎、お前だって魔力が残ってないだろ!?」

「だったらどうすればいいの!?」



珍しくミイナは語気を荒げてバルトに問い返すと、バルトは考えた末に自分がまだ他の生徒が所有していた魔石を持っている事に気付いた。



「そうだ、こいつを使えば……おら、喰らいやがれ!!」



魔石を取り出したバルトは空中に放り投げると、最後の魔力を振り絞って三又の杖を構えた。後の事など考えずにバルトは魔石に目掛けて魔法を放つ。



「お前等、伏せてろ!!スラッシュ!!」

「にゃっ!?」

「あうっ!?」



バルトの声に合わせてミイナはマオを抱えた状態で地面に伏せると、バルトは杖から風の斬撃を繰り出す。そして空中に放り込んだ複数の魔石が風の斬撃によって砕かれた瞬間、予想外の事態が発生した。

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