第238話 昆虫種
「キィイイッ!!」
「うわっ!?」
奇怪な鳴き声を上げながら黒蜘蛛はマオに向けて糸を放つと、糸は空中で拡散して投網のようにマオの身体を拘束した。糸を引き剥がそうとしたがマオだったが、粘着性が強く、下手に動けば動く程に絡まっていく。
「な、何だこの糸!?」
「おい、大丈夫か!?今、俺の魔法で……うわっ!?」
「危ない!!」
「キィイッ!!」
バルトが杖を構えてマオを拘束する糸を魔法で切り裂こうとした瞬間、黒蜘蛛は口元を開いて紫色の液体を吐き出す。それに気づいたミイナがいちはやくバルトに抱きついて離れると、二人が立っていた場所に液体が降り注ぐ。
黒蜘蛛が放ったのは酸性の毒液らしく、校舎の床の一部が溶けて下の階にまで崩れていく。それを見たマオ達は背筋が凍り付き、もしもこんな毒液を浴びたらひとたまりもない。
「こ、こいつ毒まで……この、スラッシュ!!」
「キィイッ!?」
天井に向けてバルトは魔法を放つと、彼が魔法を発動させる寸前に危険を感じ取ったのか黒蜘蛛は移動して攻撃を避けた。バルトの放った風の斬撃は天井に衝突するが、魔法学園の校舎は魔法に強い耐性の素材で構築されているので天井に衝突した瞬間に四散してしまう。
黒蜘蛛は尻の部分から伸ばした糸を引き寄せて拘束したマオを連れ出し、天井から降りて廊下を駆け抜ける。糸に拘束されたマオは引きずられる形となり、それを見たバルトとミイナは慌てて後を追う。
「キィイイイッ!!」
「うわぁあああっ!?」
「マオ!?」
「お、おいこら!!何処へ連れて行く気だ!!」
マオを引き連れて逃げ出した黒蜘蛛に慌ててバルトとミイナは後を追いかけ、この時に獣人族のミイナは持ち前の身体能力の高さを生かして三角跳びの要領で壁を蹴って黒蜘蛛の頭上から蹴りを放つ。
「ていっ!!」
「ギャッ!?」
「うわわっ!?」
「よし、今だ!!」
ミイナが黒蜘蛛の頭部を蹴りつけた事で一瞬だが動きが泊まり、それを見ていたバルトは杖を構えた。彼もこの数か月の間に訓練は欠かさず行っており、マオを拘束する糸に目掛けて風の斬撃を放つ。
「スラッシュ!!」
「キエエッ!?」
「わあっ!?」
バルトの放った風の斬撃が黒蜘蛛の糸を切断すると、マオを廊下に倒れ込む。一方で糸を切られた黒蜘蛛は振り返って口元を開くが、毒液を吐き出す前にミイナが止めを刺す。
「炎爪!!」
「ギャアアアッ!?」
「や、やった!!」
ミイナは鉤爪に炎を纏うと黒蜘蛛の頭部を切り裂き、頭を切りされるのと同時に黒蜘蛛は炎に包まれた。それを確認したマオは切り離された糸を引き剥がそうとした。
しかし、黒蜘蛛が倒れた直後に窓に影が差す。いち早く異変に気付いたマオは窓に視線を向けると、そこには窓に目掛けて突っ込む人型の魔物の姿があった。
――グギィイイイッ!!
窓が割って廊下に入り込んだのはゴブリンに酷似した生物であり、通常のゴブリンはせいぜい人間の子供程度の大きさしかないが、こちらのゴブリンは成人男性並の身長と筋骨隆々とした体格を誇り、窓を破壊して廊下に降り立つ。
「うわぁっ!?」
「こ、今度は何だよ!?」
「まさか……ホブゴブリン!?」
「グギギッ……!!」
窓を割って入り込んだ侵入者にマオとバルトは混乱する中、ミイナは敵の正体を知って驚く。ホブゴブリンとはゴブリンの上位種であり、通常種のゴブリンよりも力を誇り、オークすらも殴り殺す腕力を誇る。
唐突に現れたホブゴブリンはマオに視線を向け、彼を拘束する糸を見ると躊躇なく掴み取る。糸に拘束されたマオは逃げる事もできず、ホブゴブリンは糸を引き寄せてマオを窓から放り込む。
「グギィイイイッ!!」
「うわぁあああっ!?」
「マオ!?」
「止めろっ!?」
ホブゴブリンが破壊した窓からマオは外に放り出され、それを見たミイナとバルトは慌てて止めようとした。しかし、間に合わずにマオは外に放り出されてしまう。
(やばい!?この高さだと死んじゃう!!何とか魔法で……駄目だ!?)
糸に拘束された状態なのでマオは腰に差した杖を取り出す事もできず、地上へ目掛けて落下する。このままでは落下の衝撃で死んでしまうと思われた時、彼の魔術痕が反応した。
(そうだ!!風の魔力で……!!)
魔術痕の輝きに気付いたマオは一か八か魔力を集中させ、自分の身体に風を纏わせる。かつて生徒会の副会長のリンダが風の魔力を纏った事を思い出し、魔術痕を利用してマオは風の魔力を生み出す。
風の魔力に全身が包まれた影響でマオの降下速度は低下し、ゆっくりと地面に降りていく。身体に巻き付いた糸がクッションの役割もしてくれて無事にマオは地上へ降り立つが、この時に体内の魔力を相当に消費する。
(やばい、早く魔力を回復させないと……)
意識が途切れる前にマオは魔力の回復に集中し、一刻も早く魔力を回復させようとした。だが、マオが魔力を回復させようとした瞬間に窓が割れる音が鳴り響く。
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