第237話 脅威は去っていない

――魔力を回復させた後にマオは教室に戻ると、そこには傷ついた生徒を解放するバルトとミイナの姿があった。二人は怪我を負った生徒を横に並べ、傷口の部分に回復薬を注ぐ。



「おい、しっかりしろ!!まだ生きてんだろうが!!」

「ううっ……」

「ぬりぬり……」

「やんっ、そ、そこは敏感なの……」

「ミイナ!!先輩!!無事だったんですね!!」



バルトは倒れた生徒に声をかけて意識を保たせ、ミイナの方は怪我をした女子生徒に回復薬を塗り込んでいた。この時に胸元の部分を執拗に薬を塗り込んでいたように見えたが、一先ずは二人が意識を取り戻していた事にマオは安堵する。



「マオ!!お前の方こそ無事だったのか!?」

「あのガーゴイルは……」

「どうにか倒せたよ。死にかけたけど……」

「流石はマオ」

「マ、マジか……あんな化物を良く一人で倒したな!?」



ガーゴイルを倒した事を伝えるとミイナは親指を立て、一方でバルトの方は冷や汗を流す。ガーゴイルは間違いなく赤毛熊を越える恐ろしい敵であり、一流の魔術師でも油断すれば命を落としかねない。


これまでの技術を全て生かしてマオはガーゴイルを倒した事を伝えると、とりあえずは怪我をした生徒を連れて避難する事にした。校内は先ほどまでと比べると大分静かになっており、恐らくは学校内に残っている生徒の殆どは避難が済んだのだろう



「俺達以外にもう学校に残っている奴等はいないのかもな」

「魔物はまだ残ってるかな……」

「多分、もう平気だと思う。さっきまであちこちで魔物が暴れているような音がしたけど、今は静かだから……」



獣人族の聴覚でミイナは学校内が静けさを保っていると発言し、恐らくは校舎内に現れた魔物は一掃したか、あるいは既に校舎を離れていると考えられた。しかし、油断はできないためマオ達は早急に他の生徒を連れて避難を行う。



「怪我をしている人はこれに乗せてください。背負って移動すると魔物に襲われた時に対処できませんし……」

「お、おう。助かるぜ」

「マオの魔法は本当に便利」



マオは氷塊同士を結合させて大きめの氷塊を作り出すと、その上に教室のカーテンを引きちぎって氷の上に敷くと、怪我をした生徒達を横たわらせる。



「これでよし、後はこの氷を移動させれば……問題ありません」

「なあ、お前さっきからバンバンと魔法を使ってるけど平気なのか?」

「大丈夫です、魔力はきっちり回復させてきましたから」

「そ、そうか……凄いな」

「さすマオ(省略)」



何事もないように答えるマオにバルトは冷や汗を流し、ミイナは拍手を行う。その後はマオは氷塊を操作して怪我をした生徒達を運び出し、安全な場所まで避難を行う。途中でバルトはマオに視線を向け、氷塊を操作しながら歩く彼の姿に冷や汗を流す。



(いくら魔力が回復するからって普通はこんなに魔法が使えるもんなのか?このでかい氷塊だって普通ならこいつの魔力量で作り上げる限界の大きさを越えてるだろ……)



生徒三人が並べられる大きさの氷塊を操作しているにも関わらずにマオは汗すら流しておらず、これを見た人間は彼の魔力量が並の魔術師よりも遥かに小さいなどと言われても信じられないだろう。



(俺も精神鍛錬の修行はやっているが、こいつみたいにすぐ魔力を回復させる事なんてできねえ……たくっ、リオンにしろマオにしろ今年の一年生は化物だらけか)



少し前までは自分こそが学園内に通う魔術師の中で一番の才能があると思い込んでいたバルトだったが、リオンに敗れてマオの成長を見せつけられると少し前の自分が恥ずかしく思う。


実際の所はバルトも魔術師の才能に溢れた生徒だが、リオンとマオは才能だけではなく、強くなるための努力を惜しまない。バルトも強くなるための努力を怠ってきたわけではないが、それでも二人と比べると明確に強くなりたいという意思が薄い。



(くそっ……後輩がこんなに頑張ってるのに俺は役立たずかよ)



ガーゴイルとの戦闘ではバルトの機転のお陰で助かった場面もあったが、最終的にガーゴイルを倒したのはマオである。バルトはもう彼だけに面倒事を押し込まないため、次に危機が訪れたら自分が何とかしようと考えた時、ミイナが足を止めた。



「待って」

「どうしたの?」

「……変な気配を感じる」

「気配?」



先頭を歩いていたミイナは目つきを鋭くさせて廊下の様子を伺い、彼女の態度を見てマオとバルトは杖を構えた。この時にバルトは後ろを警戒し、マオは前方を注意するとミイナは天井を見上げた。



「上!!」

「何!?」

「まさか!?」



3人は天井に視線を向けると、そこには異様な光景が広がっていた。天井には黒色の巨大な蜘蛛が張り付いており、それを見たマオ達は呆気に取られた。



「こいつは……昆虫種か!?」

「昆虫種!?」

「マオ、避けて!!」



バルトのあげた声にマオは反射的に彼に顔を向けた。それを見たミイナは慌ててマオに注意するが、天井に張り付いていた黒蜘蛛はマオに目掛けて糸を放つ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る