第232話 ガーゴイル

「だ、大丈夫ですか!?」

「おい、しっかりしろ!!」

「……皆、まだ生きている。でも酷い怪我をしてる」

「う、ううっ……」



倒れている生徒達は血塗れであり、彼等の傍には折れた杖と破壊された魔法腕輪が散らばっていた。それを見たマオは疑問を抱くが、とりあえずは彼等を運び出そうとする。



「すぐに安全な場所に避難させます!!とりあえず、人が乗れるぐらいの氷塊を作って……」

「おい、ちょっと待て……これを見ろ!!」

「これは……爪痕?」



バルトが壁を指差すとそこには爪痕が残っており、まるで赤毛熊のような魔物が校舎の壁を引っ掻いたような跡だった。それを見たマオは生徒達を傷つけたのは魔獣(獣型の魔物)の仕業だと思ったが、ここで疑問を抱いた。


生徒達は血を流して倒れているが全員生きており、魔法が使えないように杖や魔法腕輪は破壊された状態で放置されていた。もしも魔物の仕業だとしたらわざわざ倒した獲物を放置して立ち去る事に疑問を抱き、何か嫌な予感がした。



(まさかこれは……罠!?)



マオ達は傷ついた生徒を救うためにここへやってきたが、それ自体が罠で魔物の狙いは自分が倒した獲物を利用して他の獲物が駆けつけるのを待っているのではないかと考える。



「ミイナ!!近くに魔物はいない!?」

「待って……うっ、血の匂いと獣臭のせいで上手く嗅ぎ取れない」

「そんな!?」



嗅覚の鋭いミイナでも廊下に漂う生徒の血の臭いと魔獣の臭いが入り混じって上手く嗅ぎ取れず、嫌な予感を抱いたマオは急いでこの場を離れるために杖を取り出す。しかし、彼が魔法を扱う前に近くの教室の扉が唐突に吹き飛んだ。




――キィイイイイッ!!




鳴き声というよりはまるで黒板を指で引っ掻いたような奇怪な音が鳴り響き、マオ達は耳元を塞ぎながら音のした方向に視線を向ける。そこにはゴブリンよりも醜く、オークよりも大きくて背中に蝙蝠のような羽根を生やした生物が存在した。


その生物を最初に見た時にマオは頭に思い浮かんだのは「石像」という単語だった。教室から現れたのは全身が石像のような色合いをした魔物であり、石像の姿を模した魔物はこの世界では一種類しか存在せず、よくマオが子供の頃に読んでいた絵本にも出てきた魔物だった。



「ば、馬鹿な……ガ、ガーゴイルか!?」

「ガーゴイル!?こいつが……」

「気をつけて!!こいつ、強い!!」



石像のような外見をした魔物の登場にバルトは驚愕し、マオは三又の杖を構えるがミイナは今までにない程に真剣な表情を浮かべて二人の前に立つ。獣人族優れた生存本能が目の前の相手の危険性を知らせ、ミイナは決して油断しないように注意する。



「キィイイッ……!!」

「くっ!?頭が……!?」

「気をつけろ、こいつの声を聞いたらまともに魔法が使えなくなるぞ……!!」

「うっ……耳が痛い」



ガーゴイルの発する鳴き声は人間や獣人族にとっては不快で耳鳴りを引き起こし、そのせいで精神が乱れて魔法も上手く扱えない。ガーゴイルの別名は「魔術師殺し」と呼ばれ、鳴き声だけで大抵の魔術師は魔法が扱えない。



(こんな魔物まで校内に……何だ?何をしてるんだ?)



ある意味では赤毛熊よりも厄介な相手の登場にマオ達は緊張するが、一方でガーゴイルの方はマオ達の顔を見て立ち止まる。普通の魔物ならば獲物を発見すれば真っ先に襲い掛かってくるはずだが、ガーゴイルは何を考えているのか動こうとしない。



(こっちを観察している?そういえば倒れている人たちも殺されてはいなかった……どうして?)



廊下に倒れていた生徒はガーゴイルにやられたと思われるが、何故か全員が負傷しているが生かされた状態で放置されていた。わざと獲物を生かして放置する事で他の獲物を誘き寄せるという罠も考えられたが、ガーゴイルは新たに現れたマオ達を見ても不用意に攻撃を仕掛けて来なかった。


まるで顔を確認するようにガーゴイルはマオ達をじっくりと観察し、ゆっくりと近付いてきた。この時にマオは危険を感じ取って三又の杖を構えると、ガーゴイルは杖を見て立ち止まる。



「…………」

「な、何だこいつ……急に動かなくなったぞ?」

「こっちを見てる……というよりもマオの杖を見てる?」

「杖?どうして……」



ガーゴイルは急に黙り込むとマオの杖に注目し、本物の石像のように硬直した。ガーゴイルの行動にマオは戸惑うが、ここで彼はためらわずに最大の攻撃を繰り出す。



(今が好機だ!!この距離なら当てられる!!)



何故か動こうとしないガーゴイルに対してマオは狙いを定め、頭部の部分に魔法を撃ち込む準備を行う。三又の杖に装着した魔石の力を利用して彼はかつてバルトのスライサーをも打ち破った「氷柱弾」を撃ち込もうとした。


氷柱弾の威力は上級魔法でしか破壊できないといわれた試合場の結界を壊す威力を誇り、まともに当たれば赤毛熊でさえも一撃で倒せる。しかも今のマオはバルトと試合をした時よりも腕を磨いており、即座に魔法を展開して攻撃を行う。

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