第228話 氷弾の進化
――魔術痕を扱って風の魔法を使えるようになったマオはこの日から訓練に励む。これまでは魔石を使わなければ操れなかった風の魔力を自力で生成し、それを扱えるようになった。このお陰でもう風の魔石を無理に使う必要はなくなり、それを聞いたバルルは一番安堵した。
魔法の効果を強化するには魔石を使用するのが一番なのは間違いないが、魔石に頼らずともこれまでの鍛錬でマオの魔法は最初の頃とは比べ物にならないほど強化されていた。
「ふうっ……せいっ!!」
訓練場にてマオは木造人形に狙いを定め、離れた位置から三又の杖を繰り出す。マオが杖を突き出すと先端部分に弾丸のような形をした氷塊が誕生し、そこに風の魔力が纏って回転力を上昇させる。
魔石を使用すれば一瞬で撃ち込む事ができるが、まだ完全には風の魔法を扱えないマオでは加速させて発射するのに時間が多少掛かった。しかし、練習を繰り返す事に確実に攻撃までの段階を早く終わらせるようになっていた。
「せりゃあっ!!」
杖を突き出した直後に風の魔力を纏った氷が発射され、木造人形の頭部を貫通した。既にここまでの練習で木造人形は穴だらけと化しており、攻撃を終えたマオは額の汗を拭う。
「ふうっ……少し休憩するか」
「精が出てるじゃないかい」
「マオ、頑張ってる」
「あっ……師匠、それにミイナも」
練習中に声を掛けられたマオは振り返ると、そこにはおにぎりを貪るバルルとするめを口に含むミイナの姿があった。今は昼休みなので生徒も教師も食事中だが、マオは食事も忘れて練習に励んでいた。
「練習に夢中なのは悪い事じゃないけど、飯ぐらいはちゃんと食べな。ほら、あんたの分のおにぎりだよ」
「うわわっ!?」
バルルはマオに目掛けておにぎりを投げ渡し、慌ててマオは床に落ちないように受け止める。彼がおにぎりを受け取る間にバルルは木造人形に近づき、穴だらけと化した人形を見て疑問を抱く。
「こいつは……」
「バルル、どうかした?」
「いや、別に何でもないよ」
木造人形を確認したバルルは何かに気付いた様子だったが、敢えてそれを口にしない。そんな彼女にミイナは違和感を抱き、一方でマオは受け取ったおにぎりを食す。
バルルが気づいた事は木造人形の「弾痕」であり、これまでのマオならば木造人形に魔法を仕掛けた時は人形をすぐに木端微塵に破壊していた。しかし、今回の人形は急所の部分が穴だらけではあるが人形としての形は保っており、瓦解する様子はない。
(こんなに穴だらけなのに罅すら入っていない。無駄な力を込めずに打ち込んだ証拠だね)
穴だらけになりながら木造人形は罅割れ一つなく、これはマオの氷弾の貫通力の高さを示し、無駄な破壊を引き起こさない程の正確な射撃を行った事を意味している。風の魔石がなくとも正確に急所を貫いており、もしも人形ではなく魔物や人にマオが氷弾を使用したらどうなるか考えるだけで背筋が震えた。
(こいつはもしかしたら……いや、過度な期待はしない方がいいね)
穴だらけの木造人形を放置してバルルはマオに振り返り、弾痕の数から既にマオは十数発の魔法を使用しているはずだが身体に不調はないのかを問う。
「マオ、あんた魔力の方は大丈夫なのかい?」
「はい、定期的に休憩を挟んでいるので平気です」
「休憩ね……それならいいんだけどね」
以前にマオは魔力を回復させる機能強化の訓練を行っており、そのお陰で普通の魔術師よりも魔力の回復速度が桁違いに早い。彼は魔力量が少ないが、その分に回復させる魔力も少なくて済むため、少しの休憩で魔力を完全回復させられる。
氷と風の魔法を同時に発動させるのはマオに負担は大きいが、魔法を発動した後に一定の休憩を挟めばいくらでも魔法を生み出す自信はあった。これまでの訓練の成果が実を結んでおり、バルルも師匠として弟子の成長を素直に喜ぶ。
(少し前までは氷の欠片を作る事しかできなかったのにね……)
最初の頃と比べてもマオは魔術師として間違いなく成長しており、この調子ならばリオンとも肩を並べる立派な魔術師に成れるかもしれない。しかし、まだまだ油断はできず、バルルは木造人形を回収してマオに指導を行う。
「動かない的ばかりを狙うのはもう飽きただろ?これからは実戦であんたの力を試しな!!」
「実戦?」
「という事は……」
「魔物狩りさ!!」
バルルは木造人形に魔法を当てる練習を切り上げさせ、実戦で彼に魔法を扱うように促す。マオもそろそろ他の練習にするべきか考えていたため、バルルの提案を受け入れる。
「また王都の外へ行くんですか?」
「いや、今回は冒険者ギルドへ行くよ。ちょっとギルドマスターに用事があってね」
「ギルドマスターに?」
「まあ、ちょっとした野暮用さ。飯を食ったら行く……」
「おい、ここにいるのか!?」
マオ達を連れてバルルは冒険者ギルドに向かおうとした時、慌てた様子のバルトが屋上に駆けつけてきた。彼の登場にマオ達は驚き、一方でバルトの方はかなり興奮した様子だった。
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