第227話 風魔法の性質
――右腕で風の魔法を扱えるようになったマオは師であるバルルよりも先に
「見ててくださいね。
「……確かに使えているわね」
マリアの前でマオは小杖を取り出すと、最初に氷塊を作り出した後に続けて風圧を発生させた。その様子を見てマリアは彼が二つの魔法を扱える事を知る。
本来であれば魔術痕を刻んだ人間は一か月程度は魔法を発動させる感覚を掴むのに時間を労するが、マオの場合は実質的に三日間程度で感覚を掴む。しかも今まで通りに氷の魔法も問題なく扱えた。
「学園長の話だと片腕だと二つの魔法は扱えないと聞いてたんですけど、これはどういう事ですか?」
「簡単な答えよ。貴方の氷属性は風と水の属性の性質を併せ持つ。つまりは貴方は最初から風属性の魔力を操れるし、生成する力を最初から持っていたという事よ」
「な、なるほど……」
マオの氷の魔法は元々から風と水の両方の性質を併せ持つため、二つの属性に適性を持っていると言っても間違いではない。最初からマオは風属性も水属性の魔力を所有しているからこそ風属性の魔法を習得できた。
また、風属性の魔法が習得できても氷の魔法を扱えるのは二つの魔法は風の魔力を使用するという点では共通している。そのお陰なのかマオはこれまで通りに氷の魔法も扱え、風の魔法を更に使えるようになったという。
「まさか4日で魔術痕を操れるようになるなんて……これも貴方の魔力量の少ない才能のお陰ね」
「え?」
「前にも話したけど魔力量が少ない方が成長が早いのよ。あのバルルでさえも魔術痕を扱えるようになったのは一か月は掛かったわ」
ほんの数日でマオが魔術痕を扱って風の魔力を操作できるようになったのは彼の魔力量が少ない事が理由だとマリアは見抜き、もしも彼がバルルのような並の魔術師よりも魔力が多い人間だとしたらこんな短期間で魔術痕を扱える事は絶対になかった。
(もしかしたらこの子は……いいえ、まだ決めつける事はできないわね)
成長が早いマオに対してマリアはある考えを抱くが、それを確かめる前に彼女は学園長として勉強熱心な生徒のために適切な助言を行う。
「風属性の魔力を扱えるようになったという事は風属性の魔法を扱えるわ。だけど、貴方の場合は魔力量の問題で中級魔法は扱えない事に変わりはない。使うとしても下級魔法だけに留めておいた方がいいわ」
「うっ……やっぱりそうですよね」
「だけど悲観する事もないわ。貴方はこれまで通りに氷の魔法も扱えるし、風の魔法も使えるようになった。後は二つの魔法をどんな風に組み合わせて扱うかを自分で考えて決めなさい」
「二つの魔法を……」
「そうね、例えば貴方の使っている杖は複数の魔法を同時に扱えるのよね?それならその杖を利用して氷と風の魔法を同時に扱えないのか……試してみなさい」
マリアの指摘にマオは常備している三又の杖に視線を向け、これまでに三又の杖で複数の氷塊を何度も作り出した事はあった。しかし、氷と風の魔法を同時に扱った事はなく、マオは彼女の言う通りに杖を構えた。
(二つの魔法を同時に……)
難しくは考えずにマオは言われた通りに三又の杖を取り出すと、意識を集中させて氷と風の魔法を同時に発動させようとした。だが、この時に予想外の出来事が起きてしまう。
三又の杖は文字通りに三つに分かれた杖だが、その内の二つからが小さな氷の塊と風が渦巻く。この二つが重なり合った瞬間、氷に風が渦巻いて高速回転を始める。
(これは……!?)
これまでにマオは氷塊の威力と速度を上昇させるために風属性の魔石から魔力を引きだし、それを氷塊に組み合わせて回転力を上げた。しかし、風の魔力を操れるようになったマオは魔石の力無しでも氷弾の回転を加速させる事ができるようになった。
「これってまさか……」
「これは……マオ君、そこまでにしておきなさい。貴方の魔力が尽きるわ」
「えっ……あ、あれ……?」
マリアの言葉を聞いてマオは身体がぐらつき、無意識に魔法を解除した。いったい何が起きたのかとマオは戸惑うが、そんな彼の両肩を掴んでマリアは注意する。
「さっきの魔法で貴方は氷に風を纏わせていたわね?風の魔法の場合は風を操るには常に魔力を放出させつづけなければいけないから気を付けなさい」
「は、はい……」
いつもならば二回分の魔法を使ったところで問題はないが、魔法で風を操る場合は常に魔力を消費し続けねばならず、氷の魔法のようには上手くはいかない。しかし、マオは魔石無しでも氷弾を加速させる事が可能になった。
頭を抑えながらもマオは訓練の成果で並の魔術師よりも早く魔力が回復し、少し休めば体調はすぐに戻った。マオは学園長にお礼を告げ、この日から彼は魔石を頼らずに戦う術を身に付けた――
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