第226話 風の魔力を操るためには
「マオ、当分の間はあんたは授業に出なくていいよ。まずは魔術痕を完全に制御するまで一人で頑張りな」
「え、でも……」
「魔術痕の制御に関してはあたしの方からは何も教える事が無いんだよ。魔法を扱う際の感覚は個人差があるからね、あたしが魔術痕を制御する時の感覚を教えてもあんたに合うとは限らないし、そもそもあたしのは火属性の魔術痕だからね」
「けど、魔術痕の制御はかなり苦労するんじゃないですか?あの学園長でも数年は掛かったとか……」
バルルはマオに魔術痕の制御に関する指導はできない事を伝え、彼自身の力で制御方法を見出さなければならない事を伝える。しかし、バルトはマリアでさえも魔術痕を制御するのに数年かかった事を思い出して心配するが、それに対してバルルは否定する。
「馬鹿、先生の場合は適性がない属性魔法の魔術痕だったから時間が掛かったんだよ。だけどマオの場合は違うだろう?こいつはまがりなりにも風属性の魔力が生み出せるんだ。だったら制御までにそれほど時間は掛からないよ」
「あ、なるほど……そういえばそうだったわ」
「バルルは制御するのにどれくらいかかった?」
「う、う〜ん……大分昔の話だからね、あんまり覚えてはないけど、まあ一か月ぐらいかね」
「一か月……」
火の魔術痕を刻んだ際にバルルが自力で制御できるようになったのは一か月かかったらしく、その話を聞いたマオは今日の様な日々が一か月も続く事に落胆する。しかし、魔術痕を刻む事を望んだのは自らの意思であり、今更後悔するわけにはいかない。
「分かりました。しばらくの間は一人で頑張ります」
「ああ、そうしな。だけど、また倒れるようなことがあったら困るからね。朝はバルトの奴にあんたの様子を見てもらうよ」
「俺かよ!?まあ、仕方ないか……」
「すいません、先輩」
男子寮に自由に出入りできるのはバルトだけのため、マオは彼に合鍵を渡して今後は朝の時間はバルトに様子を見てもらう事にした。もしもまたマオが倒れていたら症状を抑えられるのは風耐性持ちのバルトしかおらず、それからマオは風の魔術痕の制御のために男子寮の自室に引きこもる――
――最初の2、3日はマオは眠っている間に風の魔力を無意識に漏らして部屋の中を荒してしまった。その度にマオは掃除を行う羽目になって大変だったが、変化が訪れたのは4日目だった。
「んんっ……ふああっ」
朝早くに目を覚ましたマオは瞼を擦りながら時計を確認すると、まだ学校も開いていない時間だと気付く。この時に彼は部屋の中を見渡すと、昨日掃除を終えた後のまま何も変わっていない事に気付く。
「あれ?」
昨日までは目覚める度に部屋の中が散らかっていたのだが、今回は部屋の中は綺麗なままだった。驚いたマオは右腕に刻んだ風の魔術痕に触れると、魔力が全く漏れて出ていない事を知る。
戸惑いながらもマオは机の上に置きっぱなしだった小杖に気付き、試しに彼は小杖を右腕で握りしめた。そして彼は森で魔物に襲われた時、リオンに最初に教えてもらった下級魔法の呪文を思い出す。
「もしかしたら……ウィンド!!」
小杖を右手で掴んだ状態でマオは呪文を唱えた瞬間、一瞬ではあるが杖先から風圧が発生して部屋のカーテンが揺れた。窓は閉じ切っているので偶然にも風が吹いてカーテンが捲れたという事は有り得ず、マオは遂に風属性の魔法を扱う事に成功した。
「や、やった……やったんだ!!」
魔術痕のお陰で遂にマオは氷の魔法以外の属性魔法を扱えるようになった事に喜ぶが、ここで彼はマリアの話を思い出す。彼女は左手に魔術痕を刻んだ事で本来の適性がある風属性の魔法が扱えなくなったと語っていた。
「風の魔法が使えるようになったという事はもうこっちの腕だと氷の魔法はできないのか……」
マオは小杖を掴んだ右腕を見て寂しく思い、元々はマオは左利きだったので魔術痕を刻む時は右腕にするようにマリアに頼んだ。しかし、やはり右腕で氷の魔法が扱えない事に少し落ち込む。
「……
駄目元でマオは右腕で手にした小杖でいつも通りに魔法を唱えると、直後に杖の先端部に氷の球体が出現した。それを見たマオは呆気に取られ、杖先に浮かんだ氷を見て戸惑う。
「え、あ、えっと……あれ!?普通に使えるの!?」
風の魔法を扱えるようになったのでマオはもう右手では氷の魔法は扱えないと思い込んでいた。しかし、実際にはこれまで通りに氷塊を生み出す事に成功する。
マリアの聞いていた話と違う事にマオは戸惑い、彼は小杖を確認する。マオが使用したのは普段扱っている「三又の杖」ではなく、魔石さえも取り付けられていない学園から支給される小杖だった。
(どうなってるんだ?)
もしも小杖に魔石が装着されていたらマオは無意識に魔石から魔力を引きだして
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