第229話 逃げ出した魔物

「ぜえっ、はあっ……!!」

「せ、先輩?どうかしたんですか?」

「いったいなにがあったんだい?」

「どうしたの?」



屋上に現れたバルトは激しく息切れし、その様子を見て心配したマオ達は彼に近付く。彼は額の汗を拭いながら何が起きたのかを話す。



「た、大変だ!!最上級生の授業のために運び出された魔物達が逃げ出して、今は学園中に散らばってる!!」

「何だって!?」

「えっ!?」

「皆、あれを見て!!」



バルトの言葉にバルルとマオは驚くが、いち早くにミイナが何かに気付いたように彼女は大声を上げた。彼女は地上を指差しており、全員が視線を向けるとそこには逃げ惑う生徒とそれを追いかける魔物の姿があった。



「ひいいっ!?」

「た、助けてぇっ!?」

「くそっ、どうして魔物がこんな所に!?』

『ギィイイイッ!!』



襲われていたのは一年生の生徒達と担任教師であるカマセであり、彼は生徒達を守るために杖を構えるが、ゴブリンの群れは学園内の器材を手にしていた。


ゴブリンの群れに取り囲まれた一年生とカマセは顔色が悪く、特に怯えた一年生達はカマセの傍から離れない。教師としてカマセは一年生を守るために杖を構えるが、その腕は震えていた。



「せ、先生……怖いよ」

「助けて……」

「落ち着け!!皆、落ち着くんだ!!何があっても先生が守るからな……」

『ギッギッギッ……!!』



生徒を守るためにカマセは杖を構えるが、そんな彼の姿を見てあざ笑うようにゴブリンの群れは取り囲む。カマセは囲まれた事で焦りを抱き、もしも一斉に襲われたら彼の力だけでは生徒を守り切れない。



『ギィイイッ!!』

「ひいいっ!?」

「いやぁああっ!?」

「く、来るなぁっ!!」



ゴブリンの群れが威嚇するだけで生徒達は泣き叫び、カマセは牽制するために杖を振り払う。しかし、その行動が裏目に出てしまい、カマセが振り翳した杖を体格が大きめのゴブリンが掴み取る。



「ギィアッ!!」

「うわっ!?は、離せっ……」

「ギギィッ!!」

「うぐぅっ!?」

「せ、先生!?」



杖を掴まれたカマセは無理やりに引き剥がそうとしたが、その前に他のゴブリンが学園内から盗んできたと思われる教鞭を放つ。カマセは教鞭を掌に叩き付けられて杖を手放してしまい、ゴブリンは奪った杖を力ずくでへし折る。



「ギギィッ!!」

「し、しまった!?くそ、誰か小杖を……」

「ギィイイイッ!!」

「い、いやぁあああっ!?」



杖を奪われたカマセは咄嗟に生徒から小杖を借りようとしたが、ゴブリンが鳴き声を上げるだけで幼い生徒達は恐怖で震え上がってしまう。杖がなければ魔法を扱えず、カマセはせめて生徒を守るために彼等の前に立つ。



「お、俺の生徒に手を出すな!!」

『ギィイイイッ!!』



カマセの大声を挑発と判断したのか、ゴブリンの群れは彼が杖を失った途端に一斉に飛び掛かる。それを見たカマセは一人でも多くの生徒を守るために彼等を抱きしめるが、この時に屋上から降りる人影があった。


屋上から飛び降りたのはバルルであり、彼女は地面に落ちる際に落下地点に存在したゴブリンをクッション代わりに踏み潰す。



「おらぁっ!!」

「ギャアッ!?」

「ギィアッ!?」



2体のゴブリンをバルルは両足で踏みつけて地上に着地すると、彼女の登場に他のゴブリンもカマセも生徒達も呆気に捉れる。一方で着地の才にバルルは足がしびれてしまい、腰を摩りながらも周囲のゴブリンを見渡す。



「いててっ……流石に年齢としかね、この程度の高さから落ちただけで痛めちまった」

「バ、バルル!?どうしてお前が……」

「話は後だよ!!あんたらはそこで大人しくしてな!!」



バルルの登場にカマセは驚いたが、彼女は拳を鳴らしてゴブリン達を睨みつける。この時に踏み台となったゴブリン達をバルルは容赦なく頭を踏みつけ、それを見た他のゴブリンは怒りを抱く。



「ギィイイッ!!」

「ギィアッ!!」

「はっ、一丁前に仲間が傷つけられて怒ったのかい?だけどね、切れてんのはこっちだよ!!薄汚い身体でこの学園に土足で踏み込みやがって!!ぶち殺してやるよ!!」

「バ、バルル……生徒達の前で乱暴な言葉を使うな」



魔物相手だと容赦なく罵倒するバルルにカマセは生徒達を抱きしめながらも注意するが、内心では彼女を心配していた。バルルの実力は認めているが彼女は先日に大怪我を負ったばかりであり、まともに戦えるのか心配する。


その一方でゴブリンの群れは唐突に現れたバルルに警戒し、一方で仲間を殺された事に怒りを抱く。ゴブリンは基本的に群れで行動するため、他の魔物と比べても仲間意識が強い。だからこそ仲間を殺したバルルに襲い掛かろうとしたが、仲間がいるのは彼女も同じだった。



「あ、そうそう。これは言い忘れていたけど……頭上に注意しな」

『ギィッ……!?』



ゴブリン達が襲い掛かる寸前にバルルは笑みを浮かべ、天を指差す。その行為にゴブリン達は疑問を抱いて空を見上げると、そこには思いがけぬ光景が広がっていた。

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