第222話 魔術痕の別の使い道
「どうして風属性の適性しかない私が他の属性が扱えるのかが気になるのね」
「はい、教えてください」
「お前、こういう時は割と強気だよな……」
学園長が相手でもマオは物怖じせず、疑問を解くために彼女に問い質す。そのマオの態度にバルトは呆れと感心を抱き、そんなマオに対してマリアは杖から外した火属性の魔石を持ち上げる。
「よく見ておきなさい」
「「ごくりっ……」」
二人の前でマリアは小杖に火の魔石を装着すると、彼女は二人の目の前で杖を構える。この時にマオは彼女が左手で杖を持った事に気付き、違和感を抱いた。先ほど彼女が扉を開いた時は右手を使用したはずだが、何故か今回は左手に持ち方を変える。
左手で小杖を手にしたマリアは目を閉じると、意識を集中させて魔法を発動させる。小杖の先端から炎の塊が出現すると、それを見たマオは下級魔法の「ファイア」だと見抜く。
「ふうっ……どうかしら」
「こ、これは……」
「ど、どういう事ですか!?どうして火属性の下級魔法を先生が!?」
マオはかつてバルルが火属性の下級魔法を扱う場面を見た事があり、マリアが目の前で造り出したのは間違いなくバルルと同じ魔法だった。しかもバルルよりもマリアの作り出した火球は形が安定しており、名前の通りに炎の球体を想像させる。
本来であれば扱えるはずがない属性魔法をマリアは発動させ、彼女は小杖を振ると火球は消え去った。いったい彼女が何をしたのかマオ達は理解できず、マリアに説明を促す。
「学園長!!教えてください、何をしたんですか!?」
「俺にも教えてください!!」
「そうね……答えはこれよ」
マリアは二人の前で左手の掌を見せつけると、彼女の行為にマオ達は疑問を抱いたが、すぐに掌の異変に気付く。先ほどまでのマリアの掌にはなかったはずの変化が訪れていた。
「これって、魔術痕!?」
「魔術痕って、確か前に授業でならったあれか!?魔法腕輪や杖を使わずとも魔法を扱える事ができるようになるとか……」
「そうよ、ちゃんと勉強しているようね」
何時の間にかマリアの掌にはバルルと同じく魔術痕の紋様が浮かんでおり、しかも彼女の場合は本来は適性属性ではない火属性の魔術痕を刻んでいた。
「この魔術痕は私がまだ貴方達と同じぐらいの年齢の時に刻んだわ」
「ど、どうして?先生は確か風属性にしか適性がないんじゃ……」
「まさか火属性の魔術痕を刻んだら火属性の魔法が扱えるようになるんすか!?」
「いいえ、それは違うわ」
魔術痕を刻めば自分の適性がない属性魔法を扱えるのかとバルトは興奮するが、マリアによればそこまで単純な話ではないらしく、厳密に言えばマリアは火属性の魔法を扱えても火属性の魔力は持ち合わせていないので自力では魔法を生み出す事はできないという。
「いくら魔術痕を刻もうと私自身が風属性の適性しか持ち合わせていない事に変わりはない。だから魔術痕があろうと私自身は火属性の魔法は生み出せないわ」
「でも、先生はさっき魔法を……」
「ええ、確かにその通りね。だけどさっきの魔法は私の魔力で造り出したのではなく、この杖に装着された魔石の魔力を利用しただけよ」
マリアによれば先ほどの魔法は自分の魔力ではなく、あくまでも杖に取り付けられた魔石から引き出した魔力だけで作り上げたという。つまり彼女は魔術痕を刻み込んだ事で火属性の魔力を操れる術を身に付け、その技術で魔石から火属性の魔力を引きだして魔法を作り上げたという。
「魔術痕を刻めば適性のない属性魔法でも操る事はできる。貴方達も私のように魔術痕を刻めば理論上は他の属性も扱えるはずよ」
「おおっ!!」
「本当ですか!?」
「但し、あくまでも魔力を操れるようになるだけよ。仮に魔術痕を刻んで魔法を扱おうとしても上手くいくかどうかは本人の努力次第、むしろ自分の適性ではない属性魔法を扱うのはかなり難しいわ。私でさえも火属性の下級魔法を扱えるようになるまで一年は掛かったわ」
「い、一年!?学園長でも!?」
魔術痕を刻んでもマリアが火属性の魔法を扱えるようになるには一年の年月を要し、その話を聞いてバルトは愕然とした。学園長はこの国一番の魔術師であるため、そんな彼女が一年も費やしてやっと下級魔法を扱えるようになったと聞いた途端に落胆する。
自分の適性がない魔法を扱えるようになれば戦略の幅も広がるが、国一番の魔術師であるマリアでさえも一年も費やしてようやく下級魔法の「ファイア」を使えるようになったのであれば彼女程の魔法の才がない人間はどれだけ時間と労力を割けば魔法を覚えられるか分からない。
「はあっ……学園長で一年も掛かるなら、俺等なんて十年頑張っても覚えられませんよ。なあ、マオ?」
「…………」
「マオ?どうしたお前?」
学園長の話を聞いてバルトは自嘲気味にマオに話しかけると、この時にマオが何か考えて込んでいる事に気付く。彼は先ほどのマリアが扱っていた魔法の手順を思い返して尋ねる。
※バルル「あ、あたしも知らなかった……(; ゚Д゚)」←後にその話を聞いたバルル
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